キリル・ペトレンコがベルリンフィルの首席指揮者に就任したのは2019年。
それ以前は、ヘルベルト・フォン・カラヤン(1955年-1989)、クラウディオ・アバド(1990-2002 )、サイモン・ラトル(2002-2018)
カラヤンは34年間も務め近代のベルリンフィルに大きな影響を与えたことは誰もが認めるところだろう。その後、アバド、ラトルが10年強づつ務めたがカラヤンやそれ以前の巨匠に比べカリスマ性に欠け印象が薄い。
キリル・ペトレンコは久々に登場した期待の指揮者だ。就任前ベルリンフィルの定期演奏会を指揮した回数も少なく何故選ばれたのか不思議だった。しかしながら、就任後の定期演奏会をベルリンフィルのデジタルアーカイブで視聴してみるとその理由がよく分かった。更に今回の演奏会でそれが確信に変わった。
今回は音響的なベストポジションよりは少し前に席を取った。(写真はそこで撮影)指揮者の表情や顔を知っている演奏者の様子を見るためもある。
最初の曲はモーツァルトの交響曲第29番。短いがチャーミングで素晴らしい曲だ。管楽器はオーボエとホルンが2本づつで弦楽合奏曲のような雰囲気の聴きやすい曲。今回の演奏は弦楽の4パートが対等に主張してその掛け合いが絶妙。昔の第1ヴァイオリンあるいはメロディを強調するような演奏とは異なる。最近の新進気鋭の指揮者はこのような傾向がある気もするが。
ベルリンフィルとキリル・ペトレンコはこの演奏会に先立ってベルリンフィルハーモニーホールで11月3日に全く同じ曲目の定期演奏会を行っている。その様子はベルリンフィルのデジタルアーカイブで視聴できる。
その映像を注意深く見ると色々なことがわかる。音はJBL4343にスーパーウーファーを加えたシステムで聴いた。比較の為にいつもよりも大きな音で聴いてみるが少しもうるささは感じない。金属的な音になりやすいモーツァルトの曲のヴァイオリンの音も素晴らしい。全体的に音色は会場で聴いたのにかなり近い。これはデジタルアーカイブがCD程音を加工していないこと(CDは小さい装置でも聴きやすいように加工をしている)と最近の録音、配信のレベルが向上したことも大きいと思う。
それでは会場で聴いた音の何%位、家で再現できるのか。音自体は85%行くだろうが、やはり定位やダイナミックレンジの再現は60%程度。総合して75%。
通常はかなりのシステムで再生するにしろソース側の事情で60%も行けばいい所だろう。CDでの再生も似たようなものだろう。家で90%以上再現できるのであればコンサートに行く必要性は低くなる。家で聴くのはコンサートで聴くのとは全く次元の違う別物という割り切りが必要だろう。
楽器配置について
カラヤン時代は、弦楽器は時計回りに、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、その後ろにコントラバスとなっている。他のオーケストラも同じ配置が多かったように記憶している。
最近は傾向がかなり変わってきているようだ。今回のベルリンフィルの配置は、第1ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリンの後ろにコントラバス。
指揮者によって配置が換わるのか?と思ってベルリンフィルのデジタルアーカイブでキリル・ペトレンコの2023年度開幕演奏会の映像を見てみた。第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、ヴィオラの後ろにコントラバス。キリル・ペトレンコは異なる配置を使い分けているようだ。
モーツァルトの交響曲第29番のように掛け合いの効果を出そうとすると、第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが離れていたほうがいいだろうし、チェロが右目に行くのならコントラバスがその近くに行くのも頷ける。
(楽器配置については奥が深くこれ以上はここでは書かないでおく。)
今回、コンサートに行く意味をはっきりと認識することが出来た。それと家で音楽を再生して楽しむ場合の限界と割り切り方、どうすればより楽しめるかを学んだ。
他にベルクとブラームスの交響曲第4番が演奏され素晴らしかったが長くなりすぎたのでここでは割愛する。