陸海軍けんか列伝

日本帝国陸海軍軍人のけんか人物伝。

135、宇垣一成陸軍大将(5) 福田大将を推挙した君の面目を潰したわけでもありますまい

2008年10月24日 | 宇垣一成陸軍大将
 翌日1月8日上原元帥は青山の田中大将邸を訪問して意見を述べた。「内閣の首班者がその政綱に基づいて陸海軍大臣を推薦することを妨げるものではない」

 さらに「三長官合同で陸相候補者を推薦するがごときは、職権を超えた官紀の紊乱であり、これに軍事参議官が連なるのは徒党的陰謀をもって国政を掣肘するものである」と述べた。

 田中大将はこれを聴くだけにとどめたと言われている。

 宇垣中将の陸相就任後も紛糾は続いた。3月11日、上原元帥は清浦首相を訪ねて宇垣陸相就任の経緯を改めて訊いた。

 清浦首相は「田中陸相には上原元帥ともよく相談して三人の候補者を選定して提出していただきたいと頼んだのです」

 「では何ゆえ、第三位の候補者を選定されたのですか」

 「人にはおのおの能・不能、適・不適があり、第三位者が適任であると考えたのです。また陸軍部内の折り合いも考えて決めました」

 すると上原元帥は「今回のことでは、面目を潰されました」と憮然と言った。

 清浦首相は「僕は陸軍部内のことは良く知らぬから君に参考までに訊いたまでで、福田本人にも内交渉はしていない。だから他のものを選んだからとて本人に義理を欠いたわけでもなく、福田大将を推挙した君の面目を潰したわけでもありますまい」

 「それでは訊ねますが、私は田中大将への回答に第三者の者ならびにこれと等しい年少者を任用しないことが国軍のためであるとの但し書きを附けましたが、それはお聴きでしょうか」

 「いや、そのことは聴いておりませぬ」

 上原元帥と清浦首相の会談はこれで終わった。

 その日の午後、清浦首相は田中大将の来邸を求めた。

 清浦首相は田中大将に「上原元帥は君への回答に但し書きを附けたことに執着されていたが」と言った。

 「但し書きについては、上原元帥の田中に対する注意と考え、閣下には伝えませんでした」と田中大将は平然と言ってのけた。

 上原元帥は宇垣陸相にも談じ込んだ。その会見は3月から4月にかけて四回にも及んだ。

 その大半は、ああ言った、こう言った、それは聞かぬたぐいの蒸返しで、田中大将への中傷・批判であった。さらに「ぜひ貴大臣の厳正なるお調べによって、公平なる処断を仰がねばならぬ」と言った。