市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

大河原宗平さんが阿久根市の課長に就任・・・住民投票の不正防止に期待される元警察官としての手腕

2010-11-20 23:14:00 | 警察裏金問題
■昨日の南日本新聞のインターネット速報版に、群馬県警の裏金を告発した元警察官の大河原宗平氏が阿久根市の総務課長に11月22日付で就任すると報じられました。
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阿久根市総務課長に大河原氏 裏金告発の元警警察官
 阿久根市は11月19日、総務課長兼選挙管理委員会事務局長に、元群馬県警警部補で警察裏金を告発した大河原宗平氏(57)=前橋市=を充てることを明らかにした。22日付。
 専決処分で副市長に選任された仙波敏郎氏によると、現在の総務課長兼選挙管理委員会事務局長は10月末、退職を申し出ていた。
 大河原氏は群馬県警に在職中、裏金づくりに反発。公務執行妨害容疑で逮捕され、懲戒免職処分となった。裏金を告発、「でっち上げで逮捕された」などとして処分取り消しを求めて前橋地裁に提訴。裁判は結審し、来年3月18日に判決がある。
 仙波氏は愛媛県警巡査部長時代に警察裏金を告発。5年ほど前に大河原氏と知り合い、ともに全国で講演してきた。
 仙波氏は「市長解職の住民投票が迫っており、早急に後任を探した。市役所の課長クラスが一様に断ったため、民間から選んだ」と話している。
 竹原信一市長の就任後、課長職の民間からの登用は4人目。
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一方、地元の群馬県でも、各紙がこのニュースを報じました。朝日新聞は群馬版の冒頭に3段にわたり記事を掲載しました。

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県警の裏金を告発した元警部補 阿久根市の課長に 住民投票指揮へ
 専決処分を繰り返した竹原信一市長の解職を問う住民投票が告示された鹿児島県阿久根市で、群馬県警の裏金問題を告発した元県警警部補の大河原宗平さん(57)が総務課長として22日にも就任する方針であることがわかった。
 大河原さんは「在職時に備品購入や出張旅費での水増し請求や、架空の捜査協力費支払い請求書の作成を指示された」などと主張し、県警の裏金疑惑を告発していた。
 2004年に道路運送車両法違反容疑で逮捕され懲戒免職処分を受けたのは「裏金作りを拒否したことが背景にある」として、国や県を相手取り、処分取り消しなどを求め前橋地裁に訴えた。来年3月に判決が予定されている。
 竹原市長の専決処分によって副市長に選任された仙波敏郎さん(61)は、愛媛県警の巡査部長だった当時に警察の裏金問題を告発した関係で、大河原さんと交流があった。
 仙波さんによると、現在の総務課長が10月末での退職を願い出たため後任を探していた。就任について大河原さんは「私からPRするつもりはありませんが、否定はしません」と朝日新聞の取材に対し話した。
 大河原さんが起こした訴訟の担当弁護団は19日、記者団に「7月頃に竹原市長が(大河原さんの)裁判を傍聴に訪れ、2人の付き合いが始まった」と明かした。
 同市では、竹原市長が議会を開かずに専決処分を繰り返している。職員の期末手当を減額する条例改正を市議会に提案せず通すなどして反発が強まっている。市総務課長は市選管事務局長を兼ね、12月(5日)の住民投票の事務を大河原さんが指揮するものとみられる。
(11月20日土曜日朝日新聞群馬版)
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 地元の上毛新聞は中央に囲い記事で掲載しました。ご丁寧にも、大河原氏の弁護団のコメントなるものを付けています。

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鹿児島阿久根市総務課長 裏金証言の元本県警官就任へ 選管事務局長も兼任
 群馬県警の裏金作りを証言した元警部補、大河原宗平氏(57)が、市長の解職請求(リコール)を問う住民投票が告示された鹿児島県阿久根市の総務課長に就任することが11月19日、分かった。市選挙管理委員会事務局長も兼任。副市長に選任された仙波敏郎氏が提案し、竹原信一市長も同意したという。
 大河原氏は、群馬県警の裏金づくりを証言して講演活動をしている。2004年に公務執行妨害容疑で逮捕され懲戒免職となったが、「でっちあげだ」として免職を求めて訴訟を起こした。同様に警察の裏金づくりを内部告発した元愛媛県巡査部長の仙波氏とは以前から交流があったという。大河原氏は22日に辞令交付を受ける予定。
 上毛新聞社の取材に、大河原氏は「現時点で詳しいことは話せないが、否定はしない」と述べた。
 訴訟の判決を3月に控える中、大河原氏の代理人弁護士は「以前から打診があったようだが、止めていた。16日に会った時に本人が『行かない。現役の警察官に戻りたい』と話していたので驚いている。弁護団としては残念だ」と話した。訴訟については「取り下げない」としている。
(11月20日土曜日上毛新聞3面)
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 読売新聞は全国版で、小さく報じました。

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阿久根市総務課長に元警部補
 鹿児島県阿久根市の竹原信一市長が22日付で、元群馬県警警部補、大河原宗平氏(57)を市総務課長として採用することがわかった。市選挙管理委員会事務局長も兼務し、市長解職の賛否を問う住民投票(12月5日投開票)事務を指揮することになる。
 大河原氏は、同県警の裏金問題を告発した人物。
(11月20日土曜日読売新聞社会面37ページ)
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■ところで、2週間前の11月7日(日)午後1時半から、当会もメンバーとなっている「行政の仕組みを勉強する会」と「大河原宗平氏を支援する会」が主催した大河原裁判支援集会には、およそ80名が安中市文化センター3階大会議室に集まり、熱心に討議が行われました。

開会の辞を述べる主催者。

 集会では、安中市にゆかりの深い新島襄が創設した同志社大学の浅野教授と、元読売新聞記者で現在は「人権と報道・連絡会」世話人」でジャーナリストの山口氏が講演を行ったので、その際に配布されたレジメを次に紹介します。

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【「今も続く犯罪報道の犯罪」】
同志社大学大学院社会学研究科教授・浅野健一- E-mai1:asanokenichi@nifty.com
浅野ゼミHP http://www1. doshisha=ac.jp/˜kasano/
人権と報道・連絡会 www/jca.apc.org/˜jimporen/


 日本では市民が犯罪をおかしたと疑われて警察に逮捕されると、その人の姓名、住所、年齢などの個人情報が一斉に報道される。まだ裁判も始まらないうちに報道された市民と家族は社会的に抹殺される。欧州や韓国では被疑者が一般市民の場合に匿名になる。裁判員制度が始まった日本でも、裁判前に被疑者を犯人扱いする犯罪報道は変革しなければならない。諸外国にあるメディア責任制度(報道界の倫理綱領と報道評議会)を紹介する。
 大河原水平さんの国賠裁判の意義。同大で仙波敏郎さんらを招いたシンポによく来てくれた大河原さん。現役の警察官として群馬県警の裏金作りに抗議したため、警察ムラにおいて「公務執行妨害罪」をデッチ上げられ、不当にも懲戒免職にされた。私もマスコミムラで犯罪報道の犯罪を告発したため、報復人事を受けた。同志の山口正紀さんも読売新聞で弾圧された。
 群馬県警のみならず日本中の警察が組織的に日々行っている裏金作り。大河原さんのでっち上げ逮捕でも、警察はマスコミを使った。その結果、中曽根元首相らの警護をつとめたこともある大河原さんが“悪徳警察官”にフレームアップされた。事件から6年。全県民は真実を知るべきだ。
 「逮捕時には警察の広報機関。逆転無罪判決がでるや弁護団長に早変わり」のマスコミはインチキ。警察が今も組織犯罪である裏金を日々つくれるのは、「キシャクラブ」メディアが捜査当局の監視を怠って、不正を黙認しているからだ。

Ⅰ はじめに
(1)マスコミでの経歴
(2)現在の仕事
Ⅱ 今の時代とマスメディア

■問題だらけの日本の犯罪報道
 日本のマスメディアには多くの問題があるが、刑事事件にかかわる報道に最大の問題。捜査段階で捜査官の視線で犯人探しをしてしまう。09年5月21日にスタートした。日本の有権者は一生のうちに平均して、1・2回は裁判員を務めることになる。
 裁判員制度が始まれば、公判前に被疑者を犯人扱いしている「犯罪報道の犯罪」は法の適正手続の保障の面から再び問題化するのは明白。
 裁判員法の成立過程で、政府・政権党は04年に裁判員法の原案に「偏見報道の禁止」条項を用意していたが、報道界が自主規制で対応すると約束したことで削除した。
 裁判員の守秘義務、裁判員への取材の禁止など、裁判の透明性、公開性から見ても重大な問題かおる。マスメディア界に、業界全体の自律的なメディア責任制度の設置する以外に法規制を防ぐ手段はないのは、人権と報道の国際的な取り組みからも明らかである。

■裁判員制度と報道
 共同通信記者として22年間、報道現場にいた私は、現在も法律にある陪審制の復活を支持する。陪審員制度が望ましい。任意捜査段階からの可視化が全く実現せず、代用監獄の存続、「別件」逮捕の常態化、逮捕状・勾留状などの令状のチェックなしの発行、無罪判決に対して国(検察)の控訴が可能(double jeopardy の禁止に違反)、弁護人が取り調べに同席する権利がないなど、世界でも最悪の人権状況がある。このような戦前と同じ体質の刑事手続きが存続する中で、公判前手続きからは排除される裁判員が5、6日の連続審理だけに参加する制度は問題。冤罪被害者のほとんどが「裁判員制度で、かえって冤罪が増える。国民が冤罪づくりの共犯者にされる」「冤罪に加担したとして自死する市民が出るのでは」と言っている。
 また、裁判員制度導入の際に想定していなかった被害者の裁判参加が08年12月に始まった。光市事件報道の情緒的な報道で、絶対悪VS絶対正義の単純な構図。死刑は当然という世論。死刑は世界の130数カ国で廃止されている。
 被疑者・被告人が公正(フェア)な裁判を受ける権利を保障し、犯罪の被害者をサポートする報道の仕組みが望まれるのに、メディア幹部には逮捕=犯人の勧善懲悪的な報道にメスを入れるつもりはない。裁判員法で裁判員への接触の禁止が規定されている。また、裁判員・元裁判員には守秘義務が科せられる。「評議の秘密、その他の職務上知り得た秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金の処する」(裁判員法108条)以下の述べるように、裁判開始前の刑事事件報道の在り方を問題にするが、裁判員制度・裁判員法そのものを懐疑的姿勢で監視する必要があることを強調しておきたい。
 報道界には、自主規制も含めあらゆる「規制」に反対という意見が多い。
 刑事事件、事故を取材・報道し、利益を得ているのは企業メディアである。企業メディアとジャーナリスト個々人に第一の責任があるのは当熊である。
 私が共同通信の現場記者として、犯罪報道のコペルニクス的転換を主張したのは、このままの官憲依存の実名報道主義(被害者は死亡した時点で実名・被疑者は逮捕段階で実名)を続けていると、取材・報道被害を受ける市民からメディアが非難され、ジャーナリズム全体が人民の信頼を失うと直感したからであった。捜査段階で警察・検察当局(警察のチェックを行う能力も意思も薄弱)から提供される公式・非公式(リーク)情報に99%依拠し、「被疑者・被告人は無罪が確定するまで有罪」とみなす報
道がほとんど変わっていない。これは03年4月の志布志逮捕報道でも明らかだ。
 「人権と犯罪報道」をどう両立させるかは、本来裁判員制度の有無とは無関係に解決すべき課題であった。ところが、過去20数年、被疑者の呼び捨て廃止など一部に改善は見られたものの、逮捕されたら事件が解決してしまい、被疑者を犯人視して、彼や彼女の全プライバシーが暴かれる構造にメスを入れなかった。メディアが“あだ計ち”の感情を煽り、司法当局が推し進める処罰強化政策に手を貸した。

■このままでは法規制が来る
 私は最後通告する。裁判員制度の開始前に、メディア責任制度を確立しなければ、起訴前の犯罪報道が法律で規制されることは間違いないであろう。同制度は、メディアが自らの責任で、報道の自由と名誉プライバシーを守るディーセンシーの“折り合い”をつけるためにつくる仕組みである。①メディア界で統一した報道倫理綱領の制定②ジャーナリストが倫理綱領を守っているかどうかをモニターする報道評議会・プレスオンブズマンの設置、をセットにした制度である.

■メディア責任制度は報道界のための仕組み
 スウェーデン報道倫理綱領の前文は次のようにうたっている。《報道倫理とは、公式なルール集をどう応用すべきかを定めたものだとみなされてはならない。それは、ジャーナリストが仕事をするときにもつべき責任ある態度のことである。新聞・雑誌、ラジオ、テレビの報道倫理綱領は、このような態度を支援するものである。態度である》
 84年に出版した『犯罪報道の犯罪』(学陽書房、1987年に講談社文庫、04年に『新版 犯罪報道の犯罪』として新風舎文庫=08年1月に倒産)で私はこう述べた。
 「法律の根本原則を守りながら犯罪報道を行うには、スウェーデンなど北欧諸国がすでに実践している権力犯罪を除く犯罪関係者の匿名報道主義が考えられる最善の方法といえる」(文庫版8頁)。「現在マスコミが未成年者と精神障害者の犯罪に適用している『匿名原理』をすべての犯罪報道に拡大するのである。匿名を原則にして,どの場合に顕名にするかを検討すればいい。」
 このように匿名報道主義では「権力の統治過程にかかわる問題以外の一般刑事事件においては、被疑者・被告人・囚人の実名は原則としては報道しない」と考える。マスコミが犯罪を取材、報道する際に必要な、権力批判と市民の人権擁護の二大原則を打ち立てようというのが匿名報道主義である。また、警察がいつ逮捕するか、自供したかどうかなどの情報を得るための不毛な競争に費やされるエネルギーを、権力の不正やでっちあげの監視,報道に振り向けようと提言している。
 犯罪報道を考える場合、三つのベクトルを考えるべき。第一に、犯罪関係者を政治家、大企業役員、政府高官ら公人をA,芸能・スポーツなどの有名人ら準公人をB、一般の市民である私人をCとして分ける。次に、刑事手続きで、参考人聴取、逮捕、起訴、初公判、一審判決、刑確定などの進展を考える。第三に、犯罪容疑が権力犯罪かどうかを考える。Aの人が収賄容疑で逮捕されれば当然、顕名報道。

■「裁く」だけを強調、厳罰化の世論操作
 ジャーナリズムの第一の責務は権力の監視のはず。
 裁判員制度について、その成立過程における経団連の圧力、現代の徴兵制への布石(赤紙・「凶悪犯」処刑=殺人=に国民をかかわらせる)。
 「裁く」(朝日の長期連載のタイトル)を強調し、公正な裁判を受ける権利を保障し、無事の市民を有罪にしない、つまり冤罪の発見こそが重要、職業裁判官が冤罪を見抜けなかった理由を究明することこそが大切なのに、報道機関は裁判所への批判を避けている。
 企業メディアとNHKは裁判員制度の広報・PR役をすすんでやってきた。メディア先行。メディア・ファシズムの時代の時代。
 死刑存置支持の「世論」「世間」はメディアが創ったという側面が大きい。特にテレビの影響が大きい。放送倫理・番組向上機構(BPO)の「放送倫理検証委員会」が「光市事件」裁判を報ずるテレビに猛省をうながした「意見」を参照。私はBPOへの申立人の一人。私たちは、「光市事件」差戻し控訴審についての三百本にもなるテレビ録画を収集して洗い出し、どこが問題なのか、どこに作為があり捏造があるかをチェックする作業に入り、とりあえず同じ思いの申立人7人の連名で、やっとのことで滑り込むようにして07年11月27日、BPOに「申立書」(本文13ページ、添付資料120数ページ)を提出した。「倫理検証委員会」は、毎月一回の審議のほかに小委員会を設置して検討を重ね、裁判の判決が08年4月22日に予定されるなか、4月15日に「光市母子殺害事件の差戻控訴審に関する放送についての意見」(本文21ベージ、註と資料19ページ)を公表した。「意見」は、大筋において問題の重要性をきちんと把握したうえで、テレビジャーナリズムのあるべき姿からみて、「光市事件」に関する番組は、全く画一的で感情的な作り方となっており、一方的に被害者遺族の主張におもねり、特異な犯罪がなぜ起きるのか、それを防ぐためには何か必要かなどの問題を掘り下げることをしていないとし、テレビ制作者側に猛省をうながすものとなっている。あまりにも画一的であることを『巨大なる凡庸』と表現し、番組制作者の側に猛省をうながしている。犯罪・裁判報道のあるべき姿にふれている点も評価できる。放送の傾向は「集団的過剰同調」だと結論づけた。

■裁判員制度の早急の見直しを
 制度が被告人の人権を無視し法廷で孤立させられる構造・検察の圧倒的な優位の見直し。裁判員裁判への取材に関する制限の撤廃。
 裁判員裁判の報道で欠けているのは「被告人の側からの視点jであり、被告人の公正な裁判を受ける権利が侵害されなかったかどうかの検証がほとんどなかった。
 「市民が裁く」という視座で取材報道され、本来の刑事裁判の目的である「無事の市民を有罪にしない」「冤罪の防止」ということが忘却されている。
 無罪を主張した裁判でないにしても、法の適正手続きが遵守されたかどうか、また、裁判員制度と全く別のところで導人された被害者参加制度との併用の問題点も、報道の場で、きちんと検証されなければならない。
 市民参加の一審の認定を控訴審では変更できないという見方があるが、それは三審判の否定になるのではないか。
 第1号裁判の被告人は控訴審で1回の審理だけで結審、控訴を棄却された。日弁連と学会は裁判員裁判を受けた全被告人から聞き取り調査をするべきである。

■メディアと共謀しての裁判員裁判ショー
 最初の3件を振り返る。最高裁、法務省が厳選した「やらせ」裁判。
 東京の弁護士たちは第一号裁判員裁判の国選弁護人に裁判員制度反対派が就かないように気を配ったという。第二東京弁護士会の同制度に「理解のある」弁護士たちがその役割を担った。テレビ、新聞の犯罪報道をチェックして、「第一号」になりそうな事件の被疑者に接見し、強引に弁護土会の委員会派遣にした。被疑者が番号順に派遣される当番弁護士が裁判員制度反対派だと困るからだ。
 事件で被疑者が逮捕されると、警察が二日間身柄をもち、その後検察は大抵21日間身柄勾留できるので、20日から23日後に起訴になる。裁判員制度のスタートが5月21日だから逆算すると4月29日から5月初めの間の重大事件で逮捕された被疑者が裁判員裁判の被告人になる。大型連休期間の事件を狙った。
 最高裁は第一号裁判を東京地裁で行い、モデルケースとすると決めていたという。「死刑事件、否認事件は避ける」ことも決まっていた。覚せい剤事案なら成田空港を抱える千葉など全国で起きているが、裁判員裁判にはなじまないので「第一号」から排除された。
 各社がこぞって導入した「対等報道」はそもそも無理。新聞労連JTCで、村上流宏弁護士は「捜査段階での被疑者の主張をそのままメディアに伝えることはできない。客観的証拠に基づいて弁護するわけで、裁判以外のところで一時情報を流してはいけない」と断言した、西山大吉氏は「記者クラブで情報をとっているだけで、報道するのがおかしい。当局が発表・リークする情報はその省益のためで、記者の仕事は当局が隠していることを暴き、監視すること」と提言した。

■「死刑」と報道
 内閣府が2月6日、死刑制度に間する世論調査の結果を発表した。死刑を容認する回答は85.6%と過去最高に上り、廃止論は5.7%にとどまった。被害者・家族の気持ちがおさまらないとの理由が前回調査より増えており、被害感情を考慮した厳罰論が高まっていることが背景にあるとみられる。マスメディアがこうした世論をつくってきた結果だ。
 人を殺しても処罰されないのは戦争と死刑制度だけ。私の立場は死刑制度の即時廃止。EUなどが死刑を廃止してきたプロセスから学ぶべき。
 「警察の経験から冤罪を防ぐことは不可能」を死刑廃止論の根拠にしている亀井静香議員は説得力がある。
 死刑執行後に“真犯人”が出てきて廃止した英国。元死刑囚が4人も30数年後に生還したのに死刑廃止に踏み切らなかった。足利事件の菅家利和さんは「DNA型鑑定で無罪になった」を強調しているが、DNA型鑑定がなかったら冤罪を解明できないのか。権力は冤罪事件を利用して、時効制度の廃止まで言っている。

■報道・取材している「記者」の実態
 ジャーナリストの数は不明だが、弁護士の数をやや上回る同じ2万数千人か。新聞協会加盟の新聞・通信社の従業員数は54,015(女性は10.4%、記者職では8%前後)。
 新聞社がテレビ、ラジオと同資本。外国では禁止。国有地に建てられた本社。地方でも払い下げが多い。公的機関への天下りも多い。
(1)記者の意識
 国家公務員I種(報道職)のようなエリート意識。記者たちの多くは、社会のエリート中のエリートとして国家を動かしていると自負している。テレビはろくに記者教育もない。じっくり考えるような人間はいない。新開・通信社は「記者クラブ」でだめになる。
(2)異常に高い賃金
 若い記者は睡眠時間3時間前後で、オウムのサティアンのようだ。一ヵ月の残業が300時間を超えることも。過労で自殺者を出した電通を批判できない。
 労働時間は異様に長いが、毎日などを除き、記者の賃金が高い。1年目から税込み年収が700万円を超える。40代後半から2000万円を超える。PC支給、住宅手当。
(3)封建的なメディア労働現場
 日本のマスメデイアの編集部門は最も封建的で他業種に比べ遅れている。
 女性記者はまだ8%(70年は1%だった)を超えた程度、採用時に明らかな就職差別がある。女性の管理職は1%以下。
 新開はオジサン(たちのほとんど家庭にいる)がつくっている。男・「有名大学」卒・非「障害」者。心身障害者雇用促進法を守っているのは特殊法人のNHKぐらい。
 身元調査のため興信所を使うほとんどのメディア。政治家、高級官僚、弁護士、大学教授の二世、三世も多い。配偶者もほとんどが専業主婦で、世間を知らない。
 出版社・テレビ局に人気。就職後、数年で辞めていく記者たち。松本サリン、神戸事件で多数の記者が退社。神戸新聞は1年で8人が社を去った。「犯罪報道を根本的に変えなければ、同じ過ちを繰り返す」と幹部に進言して無視されて退社記者も。深刻な女性記者のセクハラ被害(社内と取材対象者が加害者、夜討ち取材で頻繁に)。「毎日が取材対象者、社内関係者からのセクハラとの闘いだった」(元毎日記者)。カートやキュロットをはかないようにと指示した朝日。例:大阪での共同通信記者への副署長のセクハラ。
 現場記者に精神疾患が急増。ほとんどのメディア企業(西日本新聞は、やっていないと明言)が採用時に興信所などで思想、信条、前科などを調査。「部落解放」8月号にも書いたが、メディア企業が興信所を使っていることは知られていない。それを報じるマスメディアがないからだ。いまは中途入社も増えているので、前より細かな身元調査をしている。警察のファイル、公安ファイルを使っている。そのファイルを所有しているのが興信所(元警察官僚が役員や顧問で入っている)。本人の逮捕歴、宗教(カルトかどうか、オウムとか統一教会、10年ほど前、読売の新人記者が統一教会信者で突然失踪)をチェック。両親が「極端」な人の場合もチェックされる。西日本新聞社は興信所を使っていないと私に言ってきたことがある。毎日もやっていないらしいが、私のいた共同通信も含めて興信所を利用。私は十数年前、東海大学からスカウトされたが、その際、東海大学は興信所を使っていた。
 在日外国人はメディアにかかなか就職できない。大新聞、通信社は80年代後半まで、外国人をほとんど採用してこなかった。共同に80年代に入った記者は「3月31日までに帰化することを条件に内定を得た。NHKは96年が初めて。「日本国籍をとってくれ。中国人の君がワシントンで日本の放送局の特派員をしたらややこしい」と迫ったNHK人事部員。
 メディア企業幹部は元左翼活動家の転向組が多い。大手の新聞社やテレビ局の社長のほとんどが元政治部記者で、長く自民党派閥を担当していた。
 「親の七光り」極右政治家とメディア幹部の共犯による、憲法無視。朝日、毎日の有事法民主党修正案への賛成。記者クラブ制度での権力との癒着が進み、ジャーナリズムは衰退化。
 記者は入社前にジャーナリズム教育を受けない。日本の大学には、ジャーナリズム学科がほとんどない。報道の自由の意味、メディア倫理などジャーナリストに不可欠な学問を勉強したことがない。スウェーデンのベテラン記者は「人権はお金を使って教えないと分からない」「不断の努力を続けないと定着しない」と語っていた。
 新聞はその社会のレベル以上にはなれないと言う向きもあるが、メディアに勤務する人たちの方が、一般市民のレベルより断然低いと私は確信している。22年間、共同通信に勤めた経験から、大手メディアの記者は、社会常識に欠ける人が多い。
 河野義行さんが「犯人視」されていた94年夏、3人の子供さんたちは中・高校生だったが、各校の校長が、「いままで通り普通に接する」と教職員に指示した。学校や地域でのいじめなどは全くなかった。あれだけひどい報道があったのに、河野さん一家にあたたかく接する近所の人もいた。メディアより社会のほうがマシなのだ。

■情報操作にだまされずに真実をつかむことができるのか?
 インターネットの活用。英語でアルジャジーラの放送を読める。英紙でRobert Fisk らのイラク報道を読める。Democracy Now!も。日刊ベリタなどのネット新聞。
 日本のメディアでは世界が見えなくなる。金魚蜂ジャーナリズム。日本が大きく見える仕掛け。客観報道の原則からチェック。署名、ニュース・ソース、反論が載っているかなど。
 メディア企業内部の記者たちが、自らの信条に従いジヤーナリズムの大道を歩むかどうか。それを支えるのは一般市民のメディアヘの積極的参加である。おかしな記事、番組があったらすぐに抗議し、いい記事や番組があれば誉めること。市民が協力して、メデイアを監視しているという緊張感を特たせることが今絶対に必要だと思う。
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■続いて、浅野教授と知り合いでジャーナリストの山口氏の講演がありました。

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【〈裏金告発〉封じ狙った権力犯罪 冤罪に加担した「異常な警官」報道】
山口正紀(ジャーナリスト、「人権と報道・連絡会」世話人)


Ⅰ 足利・有川再審で明らかになった権力と報道の犯罪
1 足利事件と報道
(1)事件の概要と裁判の経過
①1990年5月12日、足利市で4歳女児Mちゃんが不明に。13日、渡良瀬川河川敷で遺体発見。
②1991年12月1日、「読売」「朝日」「毎日」が「幼女殺害容疑者浮かぶ」報道、県警が菅家利和さんを任意同行、2日未明逮捕。
③1993年7月7日、宇都宮地裁が無期懲役判決。
④1996年5月9日、東京高裁が控訴棄却。
⑤2000年7月17日、最高裁が上告棄却、無期懲役確定(11月1日、千葉刑務所収監)。
(2)菅家さんを犯人と断定した逮捕時の報道
①1991年12月1日の「逮捕前打ち」報道。
・「読売」朝刊一面トッブ「幼女殺害容疑者浮かぶ/足利/45歳の元運転手/DNA鑑定で一致」。
・「朝日」朝刊社会面トッブ「重要参考人近く聴取」。
②逮捕を報じた12月2日の各紙朝刊最終版。
・「首絞めた」と自供」(朝日)。
・「連れ出し、30分後犯行」「“幼女の敵”は大胆にもすぐそばに潜んでいた」(読売)。
・「○○ちゃん事件自供」(毎日、原文は実名)。
・「園児送迎のおじさんが…」(産経)。
・「執念の捜査1年半」(東京)。
③DNA鑑定の絶対厘記事。
・「DNA鑑定が決めて」(産経、東京)「NA鑑定切り礼に」(毎日)、「毛髪の遺伝子ほぼ一致」(朝日)、「一筋の毛髪決めて」(読売)と大見出しに。
※【2009年6月4日の釈放翌日の各紙比況】(メディアの反省なし)
・読売「捜査当局や裁判所に、DNA鑑定への過信があったことは問違いあるまい」。
・毎日「当時のDNA鑑定は精度が低いことを承知していながら、重視し、自白を引き出す材料にもされた」「裁判所が疑問を抱き、再鑑定を行っていれば釈放時期は早まったはずだ」。
・朝目「裁判所にも猛省を促したい。DNA型鑑定を過信するあまり、無理やり引き出された「自白」の借用性を十分検討せず、有罪との判断に陥った面はなかったか」。
①別件も菅家さんに押し付けた報道。
・「未解決3事件/状況や目撃にも類似点」(読売)などと、各紙が別件も押し付け、菅家さんを「幼女の敵」とする地元の雰囲気を形成、その後の裁判にも影響。
(3)足利事件再審が明らかにした権力の犯罪
①苦し紛れの犯人捏造・見込み捜査。
・相次ぐ幼児殺害事件の末解決で警察批判の高まり。
②犯人作りのためのDNA鑑定。
・メディアが「スゴ腕DNA」(朝日)報道で冤罪に加担。
③密室での自白強要。
・一審公判中も続いた検事による違法な取り調べ(再審で森川大司検事の証人尋問)。
・再審で取り調べ録音テープ開示・再生。
④弁護人も冤罪に加担(菅家さんの公判での否認を否定、説得して上申書を書かせた)。
⑤自白強要・鑑定妄信の裁判所(再審請求でDNA鑑定を否定した地裁判事たち)。
⑥問題を残した再審無罪判決。
・裁判長は謝罪したが、「自白の任意性」は容認=自白強要を認めず。
・メディアは、「よかった」だけの報道で、判決が回避した「密室取り調べへの批判」を無視。

2 布川事件と報道
(1)布川事件の概要と裁判の経過
①1967年8月30日、茨城県利根町布川で独り暮しの男性(62才)が自宅で殺害されているのが発見。
②10月10日、桜井昌司さん窃盗容疑で別件逮捕(桜井さんは15日に「自白」)、10月16日、杉山卓男さんを暴力行為の容疑で逮捕(杉山さんも17日、強盗殺人を「自白」)。
③1970年10月6日、水戸地裁土浦支部は、自白をほぼ唯一の証拠として2人に無期懲役の判決。
④1973年12月20日、東京高裁が控訴棄却。
⑤1978年7月3日、最高裁が上告棄却。2人の無期懲役が確定。2人は服役。
(2)事件発生・逮捕段階の報道
①捜査報道
・地元紙や全国紙県版は、「有力参考人浮かぶ」=9月7日付「読売」、「二人連れをしぼる」=同8日付「いはらき」(現「茨城新聞」)などと捜査経過を詳報、10日過ぎには各紙が「重要参考人を調べる」と報道、しかしその後、「有力な決め手つかめず」=30日付「朝日」、「捜査は長期化か」=10月2日付「毎日」、と捜査の行き詰まりを報道。
②逮捕報道
・杉山さんの「自白」、10月18日付「いはらき」に「青年二人を逮捕/利根町の殺し一ヶ月半ぶりに解決/犯行の一部を自供」という「特ダネ」掲載。記事は匿名だが、杉山さんと桜井さんとわかる記事(この段階では、強盗殺人容疑では末逮捕。正規の逮捕は23日)。
・10月19日、各紙朝刊が、連行写真・顔写真付きで2人を強盗殺人犯と断定した記事を大きく掲載。「朝日」は「利根町の強盗殺人48日ぶりに解決/競輪帰りに犯行/逮捕のし二人アリバイ追及に観念」。
「毎日」は「競輪に取りつかれて/利根町の大工殺し/借金を断られ/杉山と桜井「カッとなりやった」。
「読売」は「利根の大工殺し51日ぶりに解決/桜井 杉山 二人をマーク/捜査陣のネバリ実を結ぶ」。
(3)布川事件再審が明らかにしつつある権力の犯罪
①「冤罪のオンパレード」(杉山さん):別件逮捕、代用監獄での自白強要、証拠捏造、証拠隠し。
②検察は無実を証す多数の証拠を隠し、裁判官に虚偽自白を信用させ、強盗殺人犯の汚名。
 a)「殺害方法は絞頸」とする死体検案書と絞頸可能を示すパンツ(自白は「手による扼頸」)。
 b)「二人と違う人物を見た」という目撃者の供述調書。
 c) 第三者の存在をうかがわせる毛髪鑑定書(二人とは別人の鑑識技官鑑定書)。
 c) 改竄された桜井さんの収り調べ録音テーブ(13ヶ所も改ざん)。
・これらが40年前に提出されていれば、当時まだ20~21歳だった2人には、別の人生。
③2010年7月9日、再審初公判。
・検察側は、再審開始の決め手となった目撃者の供述詞書の証拠採用に反対、新たに被害者のパンツなどのDNA型鑑定を請求。
・鑑定対象には逮捕当時の取り調べで2人のDNAが付着した可能性があるうえ、新たな証拠捏造の疑いも(水戸地検は2010年2月、地裁から資料のパンツなどを借り出していた)。
・初公判後の罪状認否で
 桜井さん「あんな起訴状を朗読して聡ずかしくないですか。裁かれるべきは検察官です」。
 杉山さん「(一人息子にふれ)人殺しの息子というレッテルを一日も早くはずしてやりたい」。
④7月3日、再審第2回公判
・弁護側が提出した取り調べ録音テーブ再生(13ヶ所に編集の痕跡)。
・自白で再現した犯行実験映像。
・裁判所は検察が請求したDNA鑑定請求を却下。
⑤9月10日、再審第3回公判
・目撃女性が証人として出廷、事件現場前で目撃した犯人とみられる男け杉山さんではないと証言。
 女性は事件直後に県警の聴取で同様の話をしたが、その調書は第2次再審請求まで隠されていた。
⑥10月15日の第4回公刊
・「被告人質問」で2人が「自白強要」の実態を暴露。

3 足利・布川に共通する問題点
(1)「犯人発見」でなく「犯人作り」の捜査
①いずれも、捜査が難航し、「犯人を作る」見込み捜査。
②密室取り調べで虚偽自白を強要。
③犯人らしく見せるための証拠捏造(DNA鑑定、目撃証言など)。
(2)世論と裁判に予断をもたらした犯人視報道
①犯人探しの特ダネ競争→逮捕前打ち、別件逮捕での犯人視。
②逮捕と同時に犯人断定の大報道。
③「自白」と「鑑定」報道で犯人イメージ固定。
(3)「被告=犯人に違いない」の予断裁判
①法廷での証言より捜査段階の「自白」を信じる裁判官(否定できない報道の影響)。
②検察の証拠隠しを見抜けず、検察側の「鑑定」妄信。

Ⅱ 裏金告発つぶしを狙った「大河原事件」と報道
1 「大河原さん逮捕」の背景
(1)「裏金作り」に異を唱え、異例の交番勤務に
①1996年11月、県警本部交通指導課勤務中の「裏金」体験。
・高崎署管内で起きた集団暴走事件の捜査で応援派遣後、県警本部交通指導課の会計担当職員から「捜査情報提供謝礼支払報告書」という文言を渡された。
・B4版の紙の左右に同じ様式のB5版文書が印刷され、左側のひな型を右側に書き写すよう指示。全部で約10枚、金頷は1枚5000円から2万円。「領収証が存在しない理由」を記載する文書も。
・約10日後、また10枚ほど同じ文書を渡されて書いたが、会計担当者に「ここに名前を書いた人は知らないし、こんな大金を渡したこともない。何でこんな言類を作るんだ?」と大声で抗議、そばに課長と次席がいたが何も言わず、以後、同じ報告書を書くよう頼まれなくなった。
②4か月後の97年3月、藤岡署吉井町交番勤務の辞令。
・県警本部から交番への異動は極めて異例。
・自分が中心になって進めている暴走事件の捜査が大詰め。
・「裏金作りに異を唱えて幹部にうとまれた?」の思い。
(2)以前からあったさまざまな疑闘
①検挙率の統計操作(1982年、前橋署・鑑識係長時代)
・前橋署の内部統計で、何年も前の末検挙事件を解決したことにし、検挙率を高くする「統計操作」。
②旅費の水増し(1983年からの警備部勤務時代)
・警護の出張で、県内でも50キロを超えると宿泊代を請求できるが、会計担当者は2人で出張しても6人で行ったことにし、正規の3~4倍の旅費を請求。
③交通違反検挙「ノルマ」(94年からの県警交通指導課時代)
・毎年、署ごとに無免許、速度違反、一時不停止など検挙の「努力目標」設定・
・ノルマを達成するため、警察官は一時停止、右折禁止など重大事故とは関係のない場所で取り締まり(「ただ、数字を上げるためだけの取り締まり」)。
④予算の過大請求(94年からの県警交通指導課時代)
・集団暴走行為を夜間撮影するのに必要な高性能ストロボカメラを購入した際、会計担当者の指示通りに3セットで3セットで約100万円の予算見積書を作成。
・実際に支払ったのは約72万円(最初から上乗せして予算を請求)
(3)「左遷」後に高まった警察組織への不信感
①署の幹部から嫌がらせ(藤岡署吉井町交番の5年間)
・「左遷」後、現場の警察官の不満・不審を代弁するつもりで、思ったことは「意見具申」。
・緊急事件で署に応援に行くと、「自分の車で現場に行ってくれ」。
・「せめて、ガソリン代ぐらい支給できないか」署次長に「具申」したが、改善されず。
②目撃した業者からの「賄賂」(02年から伊勢崎署・交通課勤務)
・レッカー業者から課の全員にビール券(業者は板金業を兼ね、事故車修理も請け負い)。
・課員は黙って受け取っていたが、大河原さんは「これは賄賂ではないか」と突き返した。

2 監視から逮捕ヘ
(1)警察組織による「問題警察官」の監視・処分
①「DV被害」にぎりつぶし問題で組織から監視
・2002年秋、吉井町交番時代に面識のあったAさんから、「夫の暴力がひどいので藤岡警察署に保護を求めたが、受け付けてもらえなかった」との相談・
・家を出たAさんが身を隠す部屋探しを手伝うなど、保護・支援の活動。
・2003年3月、再び交番勤務に戻ったころから、「警察による監視」。
②県警監察官室から呼び出し
・藤岡署が無視したDV被害者の相談に「問題警察官」がのったのを「まずい」と思った?
・2003年9月19日、県警監察官室から呼び出し、「人妻と不倫してるだろう。始末書を書け」。
・10月にも2回呼び出し、「処分するぞ」「始末書を書け」と強要。
(2)裏金を告発・直後の処分
①テレビ朝日への裏金告発
・2003年11月23日、テレビ朝日「ザ・スクープ」が北海道警旭川中央署の「裏金疑惑」を報道。
・番組を見、「群馬県警も同じことをしている」と番組あてにファックス。
・テレビ朝日は後に大河原さんから詳しく取材、2004年2月29日の「警察の裏金第2弾」で「関東・現警察官」の話として放映(その約2週間前、警察は大河原さんを逮捕・勾留)。
②懲戒処分
・「ザ・スクープ」放映2日後の11月25日、群馬県警は「不適切異性交際」などを理由に、減給の懲戒処分(翌年1月23日、この処分に不服を申し立て、県人事委員会に審査請求)。
・11月28日、太田署に異動命令(11月末という異例の時期、たった一人の異常な異動=群馬県警の組織全体に「大河原は問題警察官」のレッテル貼り)。
(3)逮捕
①監視強化・Nシステム
・テレビ朝日の取材に応じたのが察知されたのか、太田署異動直後から身辺監視強化。
・警察のNシステム(自動車ナンバー読み取り装置)による監視を意識。
・撮影を回避するため、ナンバープレートをコピー、番号を加工したものを遠出の際、Nシステムが捉える車の前部に貼り付け(機械はごまかせても、監視の捜査員は気づく。大河原さんの失敗)。←(注:これは違う。Nシステムはナンバー読み取りのみならず、車全体や運転手の顔までも画像識別することが可能)
②公務執行妨害?で逮捕、約30日の不当な勾留
・2004年2月16日朝、大河原さんは出勤前に高崎市内のAさん宅マンションを訪問。
・県警は交通部幹部ら捜査員約10人を動員、駐車場につながるマンション4階南側出入口で、車の差し押さえに着手。
・この時点から、県警発表と大河原さんの主張は全面的に対立。
③県警交通部が発表した広報「公務執行妨害被疑者の逮捕について」
・「本日、道路運送車両法違反被疑事件捜査のため、群馬県高崎市内において、捜索差押許可状を示して同人の使用車両を差し押さえようとした際、同人が捜査員に体当たり等して暴行し、公務の執行を妨害したもの」
④大河原さんの主張・反論
・私が「もう差押手続が執行されているのか」と聞くと、捜査員の一人が「まだだ。レッカー車が来ていない」と答えた。それで加工したナンバープレートを外すと、捜査員数人に羽交い絞めにされた。「逮捕するのか」と聞くと「逮捕じゃない」と言う。この実力行使は逮捕以外の何ものでもない強制力。ワイシャツのボタンも取れ、両手首や指先に負傷した。3階北側出入口に降りたところで、「ようし、逮捕だ」と声がかかり、「証拠隠滅と公務執行妨害で逮捕する」と身柄を拘束された」
⑤「体当たり=公妨」逮捕は、逮捕後の作り話
・プレートを外しても差押手続の執行前だから公務執行妨害にならない。
・そのつじつまを合わせるため、県警は身柄を拘束した後になってから、捜査員に体当たり=公妨という発表文をでっち上げ。

3 警察情報垂れ流しの「体当たり警官」報道
(1)「逮捕=犯人」視報道
①逮捕翌日(2004年2月17日)の各紙報道
・「警察官に体当たり/偽造ナンバー捜索に抵抗/警部補を現行犯逮捕/県警」=上毛新聞・社会面4段。

・「警部補の車に偽造ナンバー/摘発の警視に抵抗、逮捕」=読売新聞・社会面1段。
・「警部補が捜索妨害容疑で逮捕/群馬・太田」=毎日新聞・社会面1段。
・「太田署の警部補逮捕/車両差し押さえを妨害」=産経新聞・群馬版2段。
②各紙が「警視に体当たり」を断定報道(全文66行、最も詳細な上毛新聞の記事)
・「調べによると、大河原容疑者は同日午前八時ごろ、住んでいる高崎巾片岡町のマンション敷地内で、県警交通指導諜の警察官数人に同法(注:道路運送車両法)違反の疑いで、自分が使っていた車の捜索を求められたが大声を挙げて抵抗。車から偽造プレートを外し警察官に体当たりした。その際、同課の警視(47)が右腕に一週間のすり傷を負った」。
・「偽造プレート」は、「布か紙のような材質で、本来の前部プレートを覆うように付けられ、番号は実在しなかった。後部には正規のプレートがあった」。
・「県警は盗難品ではないと見ており、偽造や入手の手口を追及する」「警察官舎に住んでいないなど生活態度が不審だったため、県警監察官室などが調査したところ、偽造プレートの疑いが浮上」。

平成16年(2004年)2月17日に体当たり事件を報じた上毛新聞。

(2)記者たちは警察発表に疑問を感じなかったのか
①なぜ「車の前部だけに偽造プレートを貼り付けたのか」
・盗んだ車に偽造プレートを付けるのならわかるが、自分の車の前部だけに「布か紙」のプレートを貼り付けるとしたら、その目的は「Nシステム」の監視を防ぐ対策としか考えられないはず。
・現職の警部補である「容疑者」は、なぜ「警察に監視されている」と思ったのか。
②なぜ、捜査員を大動員し、警視が現場指揮したのか
・「事件」は罰金程度の「道路運送車両法違反」差し押さえ。
・それに、県警交通部の警視が現場指揮し、10人近い捜査員を動員したのか。
③発表垂れ流しに慣れきった記者たち
・記者たちが発表会見で疑問をぶつけていれば、県警は答えに窮したはず。
・大河原さんの主張を取材していれば、裏金問題やDVへの警察の対応が問題になった可能性も。
(3)逮捕・発表の目的は「裏金告発」つぶし
①なぜ現職警察官逮捕を大々的に発表したのか
・警察官の覚せい剤使用など重大事件でもこっそり処分し、「事件」化しない警察が、こんな「ささいな事案」で、なぜ逮捕し大々的に発表したのか。
②「異常な警官」のイメージ作り
・上毛記事には、「大河原容疑者は調べに対し、混乱した様子であいまいな供述をしているという」との記述も。
・県警は、報道で県民の間に「混乱した警察官が異常なことをした」との印象を与えることに成功。
③大河原さんの逮捕直前、全国の警察幹部は一大パニックに
・逮捕6日前の2月10日、北海道警の元最高幹部・原田宏ニさんが名乗り出て、テレビカメラの前で裏金作りの実態を証言。
・「原田証言に続く内部告発は何としても阻止せよ」との「指令」が警察庁から出ていた可能性。
・大河原さんの最初の懲戒処分も「ザ・スクープ」の裏金報道の2日後だった。

4 大河原さんの反撃
(1)「公妨」では起訴できなかった地検
①県警は04年3月5日、道路運送車両法違反容疑で再逮捕(再逮捕を報じたのは上毛、読売のみ)。
・17日に略式起訴。大河原さんは「これは仕方がない」と罰金50万円を払い、即日釈放。
②3月17日、県警は大河原さんの懲戒免職処分を発表
・18日朝刊で、上毛、読売のほか、朝日、毎日、産経、東京新聞の各紙が報道。
・各紙とも、起訴できなかったはずの「公妨」容疑を再び記事化。

平成16年3月18日に大河原氏の懲戒免職を報じた上毛新聞ほか。
(2)大河原さんの反撃
①4月21日、県人事委員会に懲戒免職処分への不服申し立て
②6月4日、記者会見を開き、F公務執行妨害の事実はない」と説明
・報道は、各紙とも地域版1段。
・週刊誌『フライデー』8月13日号「元警部補が実名告発する群馬県警『腐った内情』」2ページ。
③8月28日、全国市民オンブズマン連絡会議大会が聞かれた函館ヘ
・29日の分科会でF裏金体験]を証言(北海道新聞、函館新聞に大きく掲載)。
④9月26日、市民オンブズマン群馬の総会で「裏金作りの実態」講演。
⑤10月22日、市民オンブズマン群馬が、大河原証言を基に、「県警交通指導課で96年に捜査報償費の違法支出があった」として、約25万円の損害補填を求め、県監査委員に住民監査請求。
・同日、地方公務員災害補償基金から「捜査員の治療費」として請求を予告された「療養補償費」7240円について、「暴行の事実はなく、公務執行妨害は県警の捏造」として、「債務務不存在の確認」を求める訴訟。
・各紙は、住民監査請求と提訴を23日朝刊地域版に1~2段で報道。この段階で、ようやく各紙の紙面に「県警不正支出」(裏金)に関する記述が登場。
⑥05年1月17日、市民オンブズマン群馬は捜査報償費約25万円の支払いを求める訴訟(群馬県警交通指導課捜査報償費ネコババ事件)。

(3)国賠提訴と支援の拡大
①05年3月30日、国賠訴訟提訴
・「公務執行妨害事件捏造・逮捕」とその「広報」被害、前橋地検が「嫌疑なしの不起訴」ではなく「起訴猶予」処分としたことなどの違法性を問い、国家賠償請求訴訟を提訴。
②その第1回口頭弁論(2005年6月17日、前橋地裁)の原告意見陳述書
・「私は自分自身が被疑者として逮捕され、懲戒免職されてみて、改めて自分の警察官人生とは何だったのか、警察とは何か、検察とは何か、そういうことを理屈としてではなく、警察と検察の現実を明らかにした上で、これらの絹織が抱える不正を取り除きたいと考えています」・
・「私にとって、この裁判は自分の名誉を回復することが第一の目的ですが、同時に県警の手段を選ばない不正と、これに加担する検察のあり方が裁判で問題にされることによって、今後、現職の警察官が警察組織内で自由にものを言えるような環境にしたいと願っています」。
③裏金告発の警察官らが支援(第1回弁論当日の支援集会に参加)
・元弟子屈居次長・斎藤邦雄さん
「警察は一人で闘っても勝てる組織じゃない。私は裏金作りに手を染め、黙って辞めたが、大河原さんは現職のまま一人で行動した。北海道、高知、愛媛、官城。今、全国で裏金問題が熱い、潮目は変わった。風化させちゃならんと思います。ぜひ大河原さんを支えてください」。
・愛媛県警の仙波敏郎さん
「群馬県警はデマをばらまき、警察発表を鵜呑みにした報道がなされました。愛媛新聞の記者は、裏金問題を害いて警察出入り禁止です。でも県民が評価しています。上毛新聞はじめ記者の皆さん、大河原さんを孤立させないでください。復職させてください。彼のような警察官がいないと、ほんとうに日本の警察はダメになります。ぜひ真実を報道してください。お願いします」。
④その後の経過
・2008年6月、懲戒免職処分への不服申し立て・審査請求に対し、県人事委は懲戒免職処分を取消さない裁決を出したが、「不倫及び体当たりの公務執行妨害はなかった」と認定。
・その裁決を不服とし、08年10月、前橋地裁に懲戒免職の取消しを求めて提訴。

●おわりに-
・メディアの報道に疑いの眼差しを。
・大河原さんの勝利は、裏金作りを認めない警察への大打撃となる.

**********

■講演者は二人とも、それぞれ共同通信社と読売新聞社に記者として勤務したことがあり、マスコミのひどい内部の実態について熟知していることから、インパクトのある話を聞くことができました。


会場からの質問に答える浅野・山口の両氏。

 二人とも、実際に記者時代に上層部に意見を具申したそうですが、徹底的に是々非々を貫けたとまではいかなかったそうです。それだけ、大河原氏は現職の警察官として毅然と物申したのですから、その勇気と毅然とした態度はまさに警察官のかがみです。


集会の最後に、会場の参加者に挨拶をする大河原氏。阿久根市でも存分に活躍してくれるに違いない。

 さて、今回の集会で最も印象的だったのは、大河原氏のでっち上げ逮捕について上毛新聞を筆頭に、全部の新聞社が、誰も大河原氏に取材せず、警察の発表した情報だけをニュースにしたことで、未だに反省をしていないことです。

■市民オンブズマン群馬では、今年の5月17日付で、群馬県庁内にある刀水クラブのメンバーであるマスコミ各社に次の公開質問状を出したことがあります。

**********
2010年5月17日
マスコミ各位
(      社 編集担当責任者殿)
          市民オンブズマン群馬 代表 小 川  賢
群馬県警元警察官懲戒免職取消請求訴訟にかかる取材と報道に関する公開質問状
 現在、前橋地方裁判所で、2004年当時警部補だった元警察官大河原宗平氏による「懲戒免職取消請求訴訟」が進められております。毎回、傍聴のために多数の人が開廷前に並ぶ傍聴券裁判として世間の注目を集めており、当会としても、群馬県警の報償費をめぐる裏金づくりの実態解明を契機に、大河原元警部補の身分措置回復を願い、全面的に支援しているところです。
 大河原元警部補が、懲戒免職とされたのは2004年2月に群馬県警本部に配属されている警察官ら10名余が、道路運送車両法違反の疑いで、元警察官(警部補)が借りていた乗用車を差し押さえた際に、元警察官に体当たりして公務執行妨害などとされた事件で、管轄警察署ではなく県警本部が新聞記者発表した際に、マスコミ各紙は、「車から偽造プレートを外し警察官に体当たりした。」(A紙)「差し押さえに来た警視に体当たりするなどして暴れ」(B紙)、「車のナンバーを調べようとしたところ、警視に体当たりするなどして捜査を妨害した」(C紙)と県警の言い分を報道しましたが、逮捕された元警部補の言い分は、どこも報道しなかったという経緯があります。
 先日、4月26日(月)午後1時30分から前橋地裁で行われた証人尋問では、開廷40分前に既に100人以上が傍聴券を得ようと並んでおり、この裁判に対する市民の関心の高さがうかがえます。そこで、マスコミ各社の皆様に次の質問があります。
1 当日取材しましたか?
   □した。
   □しない。
2 取材しなかった場合、その理由は何ですか?
  (                  )
3 取材した場合、記事にしましたか?
   □した。
   □しない。
4.記事にしなかった場合、その理由は何ですか?
  (                  )
 なお、本質問状は貴職のご回答を得た上で、あるいは得られなかったときに、この質問状の提出以降の経過を含めて当市民オンブズマン群馬のホームページ上でも明らかにし広く群馬県民に広報してまいる所存です。つきましては、平成22年5月24日(月)限り、下記に郵送又はFAXにてご回答いただきますよう、お願い申し上げます。
     連絡先:市民オンブズマン群馬 事務局長 鈴木庸
以上
**********

 しかし、マスコミ各社からはどこも回答が来ませんでした。これをみても、マスコミの言うことをやることのギャップの大きさに戸惑いを禁じ得ません。

【ひらく会情報部】

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