■次に、第三者委員会の報告書を見てみましょう。なお、これについても、安中市土地開発公社で18年前の5月18日に発覚したタゴ51億円事件との共通点について、都度、赤色でコメントをしてみました。参考にしてください。
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【添付資料2】
調 査 報 告 書
( 要 約 版 )
平成25年5月2日
椿本興業株式会社 第三者委員会
委員長 三 浦 州 夫
委 員 渡 辺 徹
委 員 安 原 徹
<目 次>
第1 第三者委員会の設置の経緯及び調査に関する事項..............................1
1 第三者委員会設置の経緯......................................................1
2 当委員会の構成..............................................................1
3 調査目的....................................................................1
4 調査期間....................................................................2
5 調査対象期間等..............................................................2
6 調査方法....................................................................2
第2 本件不正行為の内容........................................................4
1 本件不正行為の開始から発覚に至るまでの経緯..................................4
2 本件不正行為の概要..........................................................8
3 架空循環取引................................................................9
4 平成10 年10 月頃から開始した「実在取引を用いた水増し発注又は架空発注」.....15
5 平成15 年5 月頃から開始した「プール金取引」................................16
6 平成17 年5 月頃から開始した「架空循環取引の一部を用いた架空発注」..........17
7 平成18 年11 月頃から開始した「TM 社を用いた架空発注」......................18
8 平成18 年12 月頃から開始した「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」...19
9 平成21 年8 月頃から開始した「出張旅費の水増し申告」........................20
10 平成23 年3 月頃の「KT 社を用いた架空発注」.................................21
第3 本件不正行為への全関係者の関与状況等.....................................22
1 全関係者の関与状況.........................................................22
2 本件不正行為に係る会計処理が誤りであったこと及びかかる誤りが財務諸表等に与える影響に関する当時の各関係者の認識の有無..............................23
第4 本件不正行為に関与した各関係者の動機・目的...............................23
1 A について.................................................................24
2 E について.................................................................26
3 J、K、L について...........................................................26
第5 本件不正行為の原因となった事情及び早期発見の妨げとなった事情(内部管理体制の不備) ...........................................................26
1 営業担当者に対する広範な権限付与と職務分担による牽制機能の欠如.............27
2 人事異動の停滞.............................................................28
3 上級職員と担当者との権限分化の欠如.........................................29
4 コンプライアンス体制の不備.................................................29
5 会計監査人による監査上の問題点.............................................33
第6 再発防止策...............................................................34
1 基本的な考え方.............................................................34
2 統制環境にかかる施策.......................................................35
3 リスク評価にかかる施策.....................................................38
4 統制活動にかかる施策.......................................................39
5 情報収集・伝達体制の拡充による防止策.......................................41
6 モニタリングによる防止策...................................................42
7 IT の利用による防止策......................................................43
第1 第三者委員会の設置の経緯及び調査に関する事項
1 第三者委員会設置の経緯
平成25年3月13日、椿本興業株式会社(以下、「当社」という。)の中日本営業本部に所属する従業員であるAよりB取締役専務執行役員(C取締役常務執行役員、D取締役常務執行役員同席)に対し、約10年前から架空循環取引を行っていた旨の申告が行われた。当社において調査を行ったところ、Aにより、複数の取引先会社との間において架空売上と架空仕入れを伴う不正取引が行われていた事実及び当該不正取引が過年度の連結及び個別業績に影響を与える可能性が判明した。
そこで、当社は、公正中立かつ独立した立場からの調査を確保するため、平成25年3月25日開催の取締役会において、第三者委員会(以下、「当委員会」という。)を設置することを決議した。
2 当委員会の構成
当委員会の委員の構成は、次のとおりである。
委員長 三 浦 州 夫(河本・三浦法律事務所 弁護士)
委 員 渡 辺 徹(北浜法律事務所・外国法共同事業 弁護士)
委 員 安 原 徹(ペガサス監査法人・安原公認会計士事務所 公認会計士)
当委員会は、日本弁護士連合会による「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(平成22年7月15日公表、同年12月17日改訂)に則って構成及び運営されており、各委員は、当社との間で、その独立性に影響を及ぼす関係・取引は存在しない。
3 調査目的
当委員会の実施した調査の目的は、次のとおりである。
・不適切な会計処理の有無及び原因行為の事実関係の調査
・現状の内部管理体制の問題点の調査及び検討
・再発防止策の検討及び提言
なお、会計処理の具体的な修正方法の提示及び関係者の責任の有無の判断については、当委員会の調査の目的ではない。
また、当委員会による再発防止策に関する提言については、当社を拘束するものではない。
4 調査期間
当委員会は、当社から正式な委託を受けた平成25年3月25日から同年5月2日まで調査を行った。
5 調査対象期間等
本調査の対象期間については、A及び関係者の申告においても、不正行為(以下、「本件不正行為」という。)が過去長期間にわたり行われていたことから、直近5事業年度の取引に加えて、それ以前の取引についても関係資料や記録等が入手できる範囲で調査対象として調査を行った。もっとも、不正行為の類型や手法が複数存在し、それぞれが長期間かつ多数回に及んでいることから関係書類が膨大であること、一方、当委員会に与えられた調査時間に制限があること、過去の関係証憑類の一部が散逸していること、関係者の記憶に限界があること等の事情があるため、記録や資料の信頼性が確認できる範囲で、事実関係の調査、並びに事実の認定及び判断を行ったものである。
6 調査方法
当委員会が実施した調査方法の概要は、次のとおりである。
(1) 関連書類・電子データ等の確認・検証
当委員会は、各種議事録、契約書・注文書・納品書等の取引関連資料、財務諸表、経理関係資料、社内規程類、電子メール記録等、当社から提供を受けた資料に加え、本件不正行為に関与したKE社からも資料の提供を受け、これらについて調査を行った。
今回の調査において特筆すべき点は、本件不正行為に関与したKE社が、当社に対する請求書・納品書等、当社から受信した電子メール、当社に対して発出した電子メール、A ほか本件不正行為に関与した当社社員との間で発受信した携帯電話メール、本件不正行為を主導したA が作成した手書きメモやそれをA の指示を受けて電子データ化したもの等を大量にかつ整然と保管しており、その開示を受けたことである。これらの資料と当社側から提供された資料・ヒアリング結果と突き合せることにより、信頼性の高い情報を入手することが可能となった。
なお、本件不正行為は中日本営業本部のSD(Sales Division)長であるAが主導したものと認められるので、同人の管理下にある中日本営業本部装置営業部の取引を中心に調査を実施した。その際、調査の網羅性を確保するため、平成20年6月から平成25年3月に至る期間の同部門のすべての受注・発注取引について受注承認データを入手して、異常な取引条件等による取引の有無を確かめた。その結果、本調査で取り上げた取引のほかに不正等が疑われる不自然な取引は特段見出せなかった。またAの権限行使手法、即ち、SD 長という上位管理者でありながら受注・発注から回収に至る一連の営業事務の全てに自ら直接携わるというスタイルが不正の温床になったとの判断から、同様のスタイルで執務する上位管理職が他地区(東日本営業本部、西日本営業本部)に在籍するかどうかを財経部経由で確かめた。その結果、特別な場合以外にはかかる権限集中が行われている例はないとの回答を得た。そのため、他地区の装置営業部の取引については時間的制約のため踏み込んだ調査が実施できなかったものの、名古屋と類似した形態の不正取引が存在する可能性は低いものと判断した。
(2) ヒアリング
ヒアリング対象者は次のとおりである。
ア A
イ 当社中日本営業本部に在籍する全従業員59名
ウ 当社元従業員E
エ 当社の役員及び元役員
現任取締役12名、現任監査役4名、元取締役3名、元監査役2名
オ 本社管理部門に在籍する従業員計5名
カ 当社の会計監査人の監査責任者である公認会計士2 名(前任者及び現任者)
キ 取引先関係者
① KE社前社長F
② 同現社長G
③ 同システム部部長H
④ 架空循環取引の取引先企業である下記7社の担当者(8名)
・NC 社
・KK 社
・DD 社
・HT 社
・SS 社
・OD 社
・TE 社
⑤ I(KT社)
第2 本件不正行為の内容
1 本件不正行為の開始から発覚に至るまでの経緯
本件不正行為は、当社中日本営業本部の装置営業部を舞台にして、およそ15年間の長きにわたり行われてきたものである。そこで、まず、時系列にそって、その開始から発覚に至るまでの経緯を整理する。
(1) 本件不正行為の経緯
ア KE社の現社長であるGは、平成2年2月からKR社の社内外注設計として、個人で主に自動搬送クレーンの設計に従事していたところ、当社がKR社に発注したDT社向け電極接続(継足)装置の取引を通じて、その発注担当者(当時課長)であるAと知り合った。
その後、Gは、Aから当社との直接取引を持ちかけられたこと等から、KR社より独立し、叔父であるF等の出資も得て、平成10年4月3日、KE社を設立した。それまで金融機関に勤務していたFが代表取締役社長に就任して主に経理関係を担当し、Gは専務に就任して主に設計業務等の実務を担当することとなった。このような経緯で、KE社設立当初から、当社は同社の主要取引先となり、Aは当社営業担当者としてKE社との密接な関係が始まった。
イ 平成10年10月頃から、AとE(当時、当社名古屋支店装置部の課長)が、共同で担当した案件を通じてFに対し、遊興費等を捻出する方法としてKE社に対する水増し発注又は架空発注をもちかけ、Fとの間でかかる不正行為を開始した(Aはこれを「現金化」と呼んでいた。)。なお、Eは、平成14年に大阪本社に異動するまで、Aとは別個にFとの間で上記不正行為を継続した(但し、内容の詳細は不明である。)。
ウ 平成14年春頃から、Gも上記不正行為による資金捻出に関与し始めた。
エ 平成15年5月頃から、AがF及びGとともに、KE社に対する水増し発注又は架空発注によるプール金取引を開始した。
オ 平成17年3月頃から、Aが、KE 社の資金繰りの手段として、Gとともに、Aの発案による架空循環取引を開始した(Fも了承していた。)。
カ 平成17年5月頃から、AがF 及びGとともに、架空循環取引の一部を利用した架空発注による現金化を開始した。
キ 平成18年8月にKE社に税務調査(第2回税務調査)が入り、架空発注や水増し発注による同社ないしF・GやAへの現金還流が指摘されたため、同社に対する水増し発注や架空発注ができなくなった(なお、Aは当社に反面調査が及ぶことを防ぐため、Gを通じて調査官に「使途秘匿金扱い」とすることを依頼した。)。
ク 平成18年11月頃より、Aは、KE社を利用した不正取引による現金化が困難となったことから、G の弟であるH とともに、同人の妻の個人事業である「TM社」に対する架空発注による現金化を開始した(なお、TM 社はHが立ち上げた事業で、同人が平成18年5月にKE社に入社するまでは、同人が経営していた。)。
ケ 平成18年12月頃から、Aは、装置営業部の部下(J、K及びL)とともに、個人的に費消した遊興費や物品購入代等の領収証をKE 社宛で取得して、その金額をKE 社に支払わせ、事後に新規案件を水増し発注して穴埋めするという不正行為を開始した。
コ 平成19年4月、KE社の社長がFからG に交代した。
サ 平成21年8月、KE社に税務調査(第3回税務調査)が入り、TM社を利用した架空発注ができなくなった(このときも、Aは当社に反面調査が及ぶことを防ぐため、Gを通じて調査官に「使途秘匿金扱い」とすることを依頼した。)。
シ 平成21年8月、Aがカラ出張による出張旅費の水増し精算を開始した。
ス 平成23年3月、AがKT社に対する架空発注を行った。
(2) 不正行為の発覚に至る経緯
ア 平成23年9月、架空循環取引の売掛先であるDD社への受注残(「直送品在庫」、「預託在庫」、「仕掛品」などと呼称される。)が多額に上ることが問題となり、会計監査人であるAZ監査法人がDD社に対して文書による在庫の残高確認を行ったが、Aが残高確認書の封入された郵便物をDD 社から取り戻し、DD社名義で偽造した残高確認書を同監査法人に返送した。
イ 平成23年12月、コンプライアンス室がAに対し、DD社関連取引に関してヒアリングを行った。
ウ 平成24年1月26日、中日本営業本部において、業務点検ヒアリングの一環として、「DD社向け預託在庫管理打合せ」が行われ(出席者:中日本営業本部長であるD、M取締役コンプライアンス担当、N内部監査室長、O財経部長、P経理グループ長、Q経理課長、Rコンプライアンス室長ほか。)、Aに対し、現在の在庫状況、120日超の滞留理由などについてヒアリングが行われた。Aからは、預託在庫金額9億2615万円、仕入先からの納期まで10ヶ月かかり最終ユーザーへの据付はDT社(DD社への発注者)の構内業者が行っていること、仕入計上率が約90%で、残り約10%は現地調整費用(SV費用)であること、120 日以上の滞留在庫についてはニュートン画面に登録し管理していること、滞留理由の殆どは納期変更によるものであること等の説明があった。
ヒアリングを踏まえ、在庫管理方法の改善策として、Aに対し、①仕入先より、最終ユーザーからの受領書、納品書を受領すること、②DT社からの工程表を入手すること(同社印のあるもの)、③DD社からの注文書に納入先、支払条件を記載し、担当者印ではなく社印・職印の押捺を求めること、④口頭発注分については、内示段階で受注入力すること、⑤本取引の決裁はすべてDの承認を得ること、⑥オンラインの計上を担当者名で行うこと、⑦DD社と基本契約書を交わし、取引条件を明確にすること、を求めた。
エ 平成24年3月22日、リスクマネジメント委員会(出席者は、委員長・C、B、M、S 取締役常務執行役員、T 取締役常務執行役員)において、DD社関連取引に関する上記業務点検ヒアリングにおける改善策を実行中である旨の報告がなされた。
オ 平成24年5月及び同年11月、名古屋経理課はDD社に対して会計監査人の了解のもと、AZ監査法人の名義を使った文書による仕掛品(預託在庫)の残高確認を行ったが、Aは残高確認書の封入された郵便物を郵便局から取り戻したうえ、偽造したDD 社名義の残高確認書をAZ監査法人に返送した。
カ 平成24年9月19日、中日本営業本部で「DD社関連 直送品在庫管理」に関する打合せが行われ(出席者:D、A、P、R、Q)、前回打合せ時に決定した改善策の実施状況の報告や今後の対応策についての協議がなされた。Aからは、納入先の受領書や工程表を受領した旨の報告がなされた(なお、それらはいずれもAが偽造したものであることが後日、Aの自白により判明した)。その際、質疑において、当該取引が金融取引(介在取引)ではないかとの質問がなされたが、Aは否定した。また、各社毎の累積与信限度設定を行うこと、Aがセッティングして監査役同行のもとで現物確認を実施することなどが決定された。
キ 平成24年10月19日、中日本営業本部で、監査役による「DD社関連直送品在庫管理について」の打合せが行われた(出席者:U監査役、V監査役、D、A)。席上、監査役に対する会計監査人の「第109期監査概要報告書」において、DD社向け直送品在庫の現物管理(実在性の確認等)に関する指摘がなされていることの報告がなされ、①経理課への提出資料に、仕入先の工場出荷前写真を追加すること、②内示段階での受注入力を遵守すること、③内示書発行にはDの承認を得ること、④DD社ほか計7 社の直送品在庫金額の削減目標値の設定、⑤現物確認を同年11月下旬~12月に実施すること、⑥DT社/SZ社向け案件の証憑(図面、見積書、写真等)を監査役に提出すること等を決定し、Aに対する指示がなされた。
ク 平成24年12月11日、監査役室において、監査役によりA に対するヒアリングが行われた(同席者:N、R)。滞留在庫について、製品(物品)と現場調整費とに分割して売上計上すること(DD社と交渉して分割検収とすること)の指示がなされた。また、現物確認セッティングの進捗状況に関する質問に対して、Aは、「現物確認の申し入れを行ったが、DT社に対してはDD社が前面に出ており、当社は表に出難い。このビジネスを締めくくる覚悟でDD社と再折衝する」旨説明した。監査役は、もし1月末までに現物確認を行うことが認められれば2、3 月に実施すること、仮に相手の承諾が出ない場合は、監査役が独自に現物確認を行うことを伝えた。
ケ 平成24年12月25日、中日本営業本部において、監査役による「DD社関連 直送品在庫管理について」の打合せが行われた(出席者:U、V、D、A、Q)。現物確認について、Aは、「DD社に現物確認の同意を求めているが状況は厳しい。DT社の会計監査時に現物確認の要請があっても実施したことがなく、またDT社も客先(エンドユーザー・プラントメーカー)に申し入れできないとのことだった」との説明を行い、現物確認に難色を示した。監査役は、3月末までに必ず現物確認を実施したい旨を伝えた。
コ 平成25年1月5日、監査役室において「DD 社関連 装置ビジネス打合せ」が行われ(出席者:U、A)、分割検収への条件変更について打合せがなされた。
サ 平成25年1月21日、中日本営業本部において、監査役による「DD社関連 直送品在庫管理について」の打合せが行われた(出席者:V、A、Q)。エンドユーザーでの現物確認について、Aは、従前からの理由を繰り返して、依然として困難である旨説明した。
シ 平成25年2月14日、中日本営業本部で「DD 社関連 直送品在庫管理について」の打合せが行われた(出席者:C、D、U、V、R、P)。Cより、DD社関連取引は当社本来の装置営業から逸脱していること、与信限度以上の取引が行われていること、装置部門の一担当者の案件数が非常に多く、Aが全てを把握できているか疑問であること等の理由で、取引からの撤退を強く指示され、DとAが取引の継続か撤退かを協議したうえでB に報告すること、2月及び3月中の新規取引を控えることが決定された。
ス 平成25年3月13日、上記の指示、決定により架空循環取引の継続が困難となったことから、A が架空循環取引についてBに自白し、発覚した。
2 本件不正行為の概要
本件不正行為は、大きく分けて、①架空循環取引、②プール金取引、及び③金員詐取目的の架空発注又は水増し発注からなる。
このうち、金員詐取目的の架空発注又は水増し発注は、平成10年10月頃から開始した「実在取引を用いた水増し発注又は架空発注」、平成17年5月頃から開始した「架空循環取引の一部を用いた架空発注」、平成18年11月頃から開始した「TM社を用いた架空発注」、平成18年12月頃から開始した「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」からなる。もともとは、Aを中心に、平成10年10月頃から、遊興費(クラブやスナック等での飲食代)等に充てるために当社から金員を詐取すべく、「実在取引を用いた水増し発注」を行ったのが最初であり、その後、平成15 年5 月頃から、Aの自由裁量が効く金員をKE社に溜めておく(プールする)ために、「プール金取引」を開始した。
KE社の資金繰りが悪化した平成17年3月頃からは、同社が倒産すれば、従前の不正行為の継続が不可能となり、またこれまでの不正行為が露見することをおそれたAが、同社の資金繰りを維持する目的にて「架空循環取引」を開始した。
他方、架空循環取引を行いながらも、これと並行して、遊興費等に充てるために当社から金員を詐取する不正行為は連綿と継続された。すなわち、平成17年5月頃から開始した「架空循環取引の一部を用いた架空発注」、平成18年11月頃から開始した「TM社を用いた架空発注」、平成18年12 月頃から開始した「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」が行われてきた。
また、以上の不正行為のほかに、平成21年8月頃から開始した「出張旅費の水増し精算」、平成23年3月頃に「KT社を用いた架空発注」も認められた。
各不正行為の詳細は以下のとおりである。
3 架空循環取引
(1) 背景
平成13年頃より、AはFからKE社の資金繰りの相談を受けるようになった。そこで、Aは、実際には未だに検収(納入先への納品)が上がっていないにもかかわらず、検収が行われた旨の虚偽の納品書・請求書を作成し、KE社への支払いを早める手法(Aはこれを「先行検収」と呼んでいた。)を用いて、KE社の資金繰りを助けるようになった。
しかし、先行検収によって支払われる金員は運転資金に用いられることが多かったため、製品を製作するための部材費が不足し、肝心の製品が完成しないことから、架空の在庫(実際には製作されていないにもかかわらず、帳簿上は製品がある状態)が積みあがっていった。そのため、先行検収による資金繰り援助も限界となった。
他方、KE社は、先行検収ができない取引について、当社に対する売掛債権を対象とする債権譲渡担保を用いて、金融機関から融資を受けていたが、Aは架空の債権が存在するように見せかけて、金融機関から融資を引き出すことで資金繰りを助けるようになった。しかし、金融機関の融資枠が一杯となり、架空の債権譲渡担保による資金繰り援助も限界となった。
以上の経緯のもと、Aは架空循環取引による方法を提案するに至った。
(2) 商流
まず、KE社が、SS社、NC社、OD社、HT社、DD社、KK社、TE社(以下、併せて「売掛先7社」という。)のいずれかに発注する。売掛先7社は当社に発注し、当社は、SS社、NC社、KK社、TE社(以下、併せて「仕入先4社」という。)のいずれか又はKE社に発注する。最後に、仕入先4社はKE社に発注するというものである。
売掛先7社と仕入先4社には、重なっている会社もあるが、個別の特定の取引においては、当然のことながら売掛先で用いた会社は仕入先では用いていない。
Aは、売掛先7社には「KE社への売掛債権枠が決まっているため、間に入ってほしい」旨説明し、仕入先4社には「KE社への発注枠が決まっているため、間に入ってほしい」旨説明し、一定の手数料(マージン)を支払うことを条件にそれぞれ取引に入ってもらっていた。
以上の商流を図示すると次のとおりである。
【図①】
(3)手口・手法
下記図②は、5月のKE社の資金繰りのために、4月に商流を策定した場合の具体例である。売掛先がDD社、仕入先がNC社の商流であるが、この図に基づきながら、架空循環取引の手口を説明すると次のとおりである。
【図②】
① 商流の金額と件名の決定
まず、翌月(5月)のKE社の資金不足額を算出し、資金不足額をいくつかの商流に分ける。一つの商流の金額は、数百万円から数千万円の間であるが、1000万円前後の金額が多い。そして、各商流にマッチした件名(エンドユーザー名と物件名)を検討して選定する。
上記図②では、エンドユーザー名としてNK社が選定され、物件名として装入テーブル・抽出テーブル・装入トラバーサ・抽出トラバーサが選定されている。
② 注文書の発行
金額と件名が特定されたら、売掛先7社から1社を選定し、その売掛先よりKE社から発注されることを前提にして、注文書を入手する。但し、DD社が売掛先となる場合、DD社は実際の支払日に併せて注文書を発行する(したがって、事前に注文書を発行しない)ことから、DD社の注文書はAが偽造していた。
上記図②では、売掛先としてDD社が選定され、DD社の当社に対する4月30日付の注文書が偽造され、当社のNC 社に対する4月27日付の注文書が発行されている(NC社からKE社に対する注文書は、NC社に一任されている)。なお、DD社の注文書の方が当社の注文書よりも後の日付になっているのは、DD社が注文書を月末にしか発行しないためである。
③ 見積書・内示書の発行
注文書の発行日付から逆算して、見積書(KE社から仕入先―4社の中から選定された1社―に宛てた見積書、同社から当社に宛てた見積書、当社から売掛先―7社の中から選定された1社―に宛てた見積書)の日付をバックデイトして決め、同時に、内示書(当該売掛先から当社に宛てた内示書、当社から当該仕入先に宛てた内示書)の日付をバックデイトして決めて、それぞれ作成の依頼を行う。見積書及び内示書の日付がバックデイトで揃っていれば、実際の製品は以前から仕掛かっていたことが証明されるため、当月に納品したことが不自然ではなくなるわけである。
このようにバックデイトで書類を作成することについて、売掛先7社及び仕入先4社から、不審がられることはなかったとのことである。なお、売掛先7社のマージンは概ね4%、仕入先4 社のマージンは概ね3%に設定されていた。
上記図②においては、KE社からNC社に宛てた2月5日付見積書、NC社から当社に宛てた2月7日付見積書、当社からDD社に宛てた2月9日付見積書が作成されている。また、DD社から当社に宛てた2月12日付内示書、当社からNC社に宛てた2月14日付内示書が作成されている(NC社からKE社に対する内示書は、NC社に一任されている)。
④ 納品書・請求書の発行
その上で、当月(4月)にKE 社が現地搬入(直送)したという形にして、納品書及び請求書(KE社から当該仕入先に宛てたもの、当該仕入先から当社に宛てたもの)を送付してもらう。
上記図②においては、KE社からNC社に宛てた4月20日付納品書及び請求書、NC社から当社に宛てた4月20日付け納品書及び請求書が作成されている。
⑤ KE社への支払い
検収月の翌月末日に、当社が仕入代金を当該仕入先に支払い、当該仕入先がKE社に支払う(通常は、現地に納入されたとされる段階で、仕入先に対して契約代金の9割を支払い、残り1割は試運転・現地調整がなされたとされる後に支払っていた。)。これによって、KE社の翌月の資金繰りがまかなわれることになる。上記図②においては、5月末日にKE社へ支払いがなされることとなっている。
⑥ 当社への支払い
他方、KE社から当該売掛先への支払い、及び当該売掛先から当社への支払いは、納品先での試運転・現地調整等に時間がかかるという形にして、6カ月後くらいに設定されることが多かった(なお、当社の売上計上基準により、当該売掛先に対する売上計上は、現地納入時ではなく現地での試運転完了時とされていた。そのため、既に納入済みの本体分は当社の所有物であり、客先に納入後試運転完了時までは当社の在庫、すなわち「直送品在庫」・「預託在庫」として管理されることとなる。)。
上記図②においては、当社への支払いは、12月になされることとなっている。
但し、近年は、KE社において長年にわたるマージンの支払いが積み重なっていたこともあり、その資金繰りは益々悪化していたことから、当社への支払は1年後あたりに設定されるようになっていた。そのため、とりわけDD社を売掛先とする直送品在庫(架空在庫)が多額にのぼっていたものである。
(4) 手続
翌月の資金不足額の算出は、AとGが行っていた。
資金の不足額が算出されると、Aが独りで、架空循環取引の段取りを組む作業を行うために長久手市内に借りていたアパートにて、各商流を手書きで作成し、Aが作成した商流を、Aの指示によりGが会社のパソコンで電子データにまとめていた。なお、今回の調査において、架空循環取引の当初からGがまとめ、保管していた電子データをプリントアウトしたもの一切を、Gから資料として提供を受けている。その後の書類の作成、支払及び債権回収の管理等は、全てAが独りで行っていた。
但し、近年は、上述のとおり当社管理部門等の指示で、書類以外に、図面・写真・工程表等の提出を求められていたところ、図面と写真はKE社が実在取引の別物件から抜粋した図面と写真を提出して実在を偽装し、また工程表についてはAが偽造して提出していた。
ところで、Aは中日本営業本部の東海東部SD長という管理職にあったことから、本来、自らが具体的な取引の担当者になることができない。そこで、部下の発注番号を借りて、上記取引を行っていたものである。
(5) 金額
仕入75億3608万円、売上78億4634 万円、差益3億1025万円、件数948件
なお、一般的な循環取引では、目的物が同一性を維持しながら介在会社の介入が連続し、当初売主と同じ最終買主に目的物が還流するが、本件は架空循環取引で目的物が存在しないため、売上高と仕入高が目的物を媒介にした対応関係になく、費用と収益が対応する関係になっていない。企業会計上、利益計算は、収益から対応する費用を差し引いて求めることとされるが、本件では費用と収益が対応していないので、架空循環取引の差益とは厳密な意味での利益ではなく、また、そもそも架空の仕入、売上であることから、上記の差益は単なる「差額」と解すべきである。
また、仕入側の取引と売上側の取引が目的物を介して連続する取引となっておらず、介入各社がマージン等の形で利益を得る結果、KE社にのみマージン分の負担が集中する結果となった。ちなみに、KE社は、同社が保管している架空循環取引開始当初からの上記取引データや関係資料を根拠として、同社が負担したマージンの合計額は金8億4847万5000 円になる旨、主張している。
(6) 実施時期及び実施者
実施時期は、平成17年3月頃から平成25年2月までである。
実施者は、当社ではAであり、KE社ではGである。
なお、売掛先7社及び仕入先4社の各担当者において、架空循環取引であることの認識を有していたかどうかについては、これを明確に認定するに足りる資料を得ることができなかった。
4 平成10 年10 月頃から開始した「実在取引を用いた水増し発注又は架空発注」
(1) 商流・手口
水増し発注と架空発注の2種類のパターンがある。
パターン①は、当社が受注した実在取引について、KE社に発注する際、詐取したい金額の1.3倍から1.8倍の金額を水増し(上乗せ)した取引金額での発注をKE社に行う。
パターン②は、当社が受注した実在取引について、架空の取引を付加し、KE社に発注する。
(2) 資金の流れ
パターン①の資金の流れは、当社からKE 社に支払われた水増し分のうち、13分の3ないし18分の8をKE社に残して、残りをA又はEが取得する。
パターン①の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図③】
売掛先→実在する発注の支払い→椿本興業㈱→水増し発注の支払い→KE社→分配→A・E
パターン②の資金の流れは、当社からKE社に対し、実在取引に付加された架空発注分を支払い、その金額をKE社とA又はEとで分配する。
パターン②の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図④】
椿本興業㈱→実在取引に付加された架空発注の支払い→KE社→分配→A・E
(3) 詐取した金額
不明である。なお、Gによると、平成10年から平成14年までの間に行われた架空発注又は水増し発注の総額・件数は、2億2536万円(74件)とのことである。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は、平成10年10月から平成17年頃までと思われるが、客観的資料は存在しない。
実施者は、当社ではA及びEであり、KE社ではFである。
5 平成15年5月頃から開始した「プール金取引」
(1) 商流・手口
KE社又はTE社に対して水増し発注又は架空発注を行い、KE社又はTE社に当社から詐取した当該金員をプールする。判明した取引件数は83件、うちKE社向け79件、TE社向け3件、NC社向け1件である。
Aはその部下に対して、これらの水増し発注又は架空発注を指示して行っていた。
以上の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図⑤】
椿本興業㈱→水増し発注又は架空発注の支払い→KE社・TE社・NC社→プール金として使用
(2) 資金の流れ
当社からKE社にプールされた金員は、KE社への正規発注案件における発注額の削減に用いたり、追加請求や赤字案件の補填、Aや部下らの私費の領収証の付け替えをしてもらった穴埋めに用いたりしていた。
(3) プール目的で支払われた金額
合計1億1481万9100円
上記金額は、Aの自白及び指示を受けた社員の申告による。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は平成15年5月頃から平成24年9月頃までである。
当社においては、指示者はAであり、Aの指示の下これらの発注を行っていた実行者は、中日本営業本部のJ、K、L のほか、W、X、Y、Z、AA、AB である。KE社の実施者はGである。
6 平成17年5月頃から開始した「架空循環取引の一部を用いた架空発注」
(1) 商流・手口
架空循環取引において、仕入先4社に発注する際に、架空の現地調整取引を付加して、SE社等(以下、「現調会社」という。)に現地調整取引を発注し、現調会社がKE社に現地調整取引を発注する。
(2) 資金の流れ
当社が現調会社に現調費を支払い、現調会社が現調費をKE社に支払う。KE社に支払われた金額を、AとKE社で分配する。
以上の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図⑥】
椿本興業㈱→架空の現調費の支払い→現地調整会社→架空の現調費の支払い→KE社→分配→A
(3) 詐取した金額
合計4810万円
この金額は、KE社から提供を受けた資料から算出した。
なお、本取引は架空循環取引に含まれているので、この金額は3(5)に掲げた金額に含まれる。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は、平成17年3月から平成18年8月までである。
実施者は、当社ではA、KE社ではGである。
7 平成18年11月頃から開始した「TM社を用いた架空発注」
(1) 商流・手口
TM社を用いた架空発注には2種類のパターンがある。
パターン①は、実在取引に架空の別案件を付加して行う架空発注である。
当社が受注した実在取引について、架空の別案件を付加して、NC社等の介在会社に発注し、そこからKE社に発注してもらう。
パターン②は、架空循環取引に付随する架空発注である。架空循環取引において、仕入先4社にKE社ではなくてTM社への発注を依頼する。
(2) 資金の流れ
パターン①の資金の流れは、当社から介在会社を通してTM社に支払われた金額を、KE社とAが分配する。
パターン①の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図⑦】
椿本興業㈱→付加された架空発注の支払い→介在会社→付加された架空発注の支払い→TM社→分配→KE社・A
パターン②の資金の流れは、架空循環取引において当社から仕入先4社に支払われた金額が、KE社はなくてTM社に支払われ、その支払われた金額をKE社とAが分配する。このパターン②の場合、架空循環取引を用いているにも拘らず、資金が循環しないことから、当該取引時点においては、Aの分配金の分だけKE社が資金を負担していることになる。
パターン②の商流及び資金の流れを図示すると以下のとおりである。
【図⑧】
椿本興業㈱→架空循環取引の支払い→仕入先4社→架空循環取引の支払い→TM社→分配→KE社・A
(3) 詐取した金額
パターン①の金額は、合計3493万5500円である。
パターン②の金額は、合計2923万7100円である。
いずれの金額も、KE社から提供を受けた資料によって算出した。
なお、パターン②は架空循環取引の一部を構成するので、この金額は上記3(5)に掲げた金額に含まれている。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は、平成18年11月から平成21年8月までである。
実施者は、当社ではAであり、TM社ではHである。
8 平成18年12月頃から開始した「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」
(1) 商流・手口
A、J、K 及びLは、私費の領収証をKE社宛てで取得して、その金額をKE社に支払わせる。しかる後に、当社が受注した実在取引について、KE社に発注する際、本来の発注金額に領収証金額の1.65倍の金額を水増しした金額で発注し、当該水増し額でKE社の上記負担額を穴埋めする。
(2) 資金の流れ
KE社が、A、J、K、及びLにKE社宛名義の領収証の金額を支払う。しかる後に、領収証金額の1.65倍の金額が上乗せされた実在取引の代金が当社から支払われる。なお、領収証金額に6割5分上乗せされている趣旨は、水増し請求によるKE社の税金負担分等を考慮したものとのことである。
以上の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図⑨】
KE社→領収書の金額の支払い→A・J・K・L
椿本興業㈱→領収書の金額の1.65倍を上乗せして支払い→KE社
(3) 詐取した金額
A分が865万5096円、J分が322万1461円、K分が164万0967円、A・J・K・Lの4名合同分で137万4000円となっている。
これらの金額も、KE社から提供を受けた資料によっている。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は、平成18年12月から平成24年5月までである。
実施者は、当社ではA、J、K、及びLであり、KE社ではGである。
9 平成21年8月頃から開始した「出張旅費の水増し申告」
(1) 商流・手口
Aが出張旅費の精算において、カラ出張の手法により水増し請求を行っていた。
(2) 資金の流れ
当社からAに水増し分が流れていた。
(3) 詐取した金額
毎月5万円程度である。
上記金額はAの自白による。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は平成21年8月頃から平成24年12月頃までである。
実施者は、Aである。
10 平成23年3月頃の「KT社を用いた架空発注」
(1) 商流・手口
TE社のACに紹介してもらったKT社(同人の義弟であるIの個人事業)を利用した架空発注である。KJ社の当社への実在発注に架空の案件を付加し、当該架空案件について、当社とKT社の間にKK社を介在させ、KT社に架空発注を行った。
(2) 資金の流れ
当社からKK社を通してKT社に流れた金員を、KT社とAが分配する。
以上の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図⑩】
KJ社→実在取引→椿本興業㈱→架空案件分を支払い→KK社→架空案件分を支払い→KT社→分配→A
(3) 金額
112万円
KK社からの資料提供による。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は平成23年3月である。
実施者は、当社ではA、KT 社のIである。
第3 本件不正行為への全関係者の関与状況等
1 全関係者の関与状況
(1) A について
ア A は、架空循環取引における全ての案件において、商流及び取引先の選定、取引金額、仕入計上・売上計上の時期など、その取引内容について全ての決定を行い、KE社の代表者らに対して、適宜、指示を行うとともに、関係書類の準備や偽造、注文の発注や支払の管理等の実行行為を行っていた。
イ また、Aは、金員詐取目的で行われた架空発注又は水増し発注においても、KE社やその他の関係会社等に指示を行って、取引全体を管理し、取引内容の決定や発注業務等の実行行為を行っていた。そして、その手法についても「実在取引を用いた水増し発注又は架空発注」、「架空循環取引の一部を用いた架空発注」、「TM社を用いた架空発注」、「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」、「KT社を用いた架空発注」など、状況に応じて不正取引の手法をつぎつぎと策定して、自ら実行し、あるいは部下やKE社等に指示して実行に移していたものである。
ウ その他、取引先会社とのプール金取引や、出張旅費の水増し申告について、いずれも指示者あるいは実行者として行動していた。
エ 以上のとおり、Aは、本件不正行為の全ての案件において(但し、Eが単独で行った水増し発注は除く)、実行者又は指示者としての立場にあった。
(2) E について
Eは、KE社に対する発注について水増し発注を行い、KE社から水増し発注分について現金でキックバックを受けており、かかる水増し発注取引について実行者としての立場にあった。
(3) J・K・L について
ア J、K、Lの3 名は、私的な遊興費や取引先との接待交際費の領収証を、KE社名義で取得して、領収証金額分の立替えを受け、その後、KE社に対する発注について水増しを行うことで、水増し発注分から、領収証金額分(及び税金負担分)の穴埋めを行っていた。かかる不正取引について、J・K・L は、実行者として行動した。
イ また、J・K・Lは、Aの指示を受けて、取引先会社とのプール金の確保のための水増し発注を行う実行者の立場にあった。
(4) 中日本営業本部の従業員について
中日本営業部の従業員6名(W、Y、Z、X、AB、AA)においても、Aの指示により、プール金取引のための発注行為を実行している。当該従業員らは、担当した発注業務について、架空ないし水増しであることの認識はあったが、そもそも取引先会社とのプール金の確保の目的で水増し発注等を行うことについて不正の認識が希薄であり、また、上司であるAの指示であったことから、指示に従って行為に及んでいたものと認められる。
(5) 役員について
当社の役員(退任した役員も含む)からヒアリングを実施し、また、関係書類等の調査を行ったが、本件不正行為について直接関与し、または黙認していた役員の存在は確認できなかった。
2 本件不正行為に係る会計処理が誤りであったこと及びかかる誤りが財務諸表等に与える影響に関する当時の各関係者の認識の有無
上記のとおり、当社の役員において、本件不正行為を認識していた者や黙認していた者は確認できず、したがって、本件不正行為に係る当社における会計処理が誤りであったこと及びかかる誤りが財務諸表等に与える影響について、役員に認識があったとは認められない。
第4 本件不正行為に関与した各関係者の動機・目的
関係者のヒアリング及び取引関係資料等の調査から、各関係者の動機・目的は、以下のとおりであると認定、判断した。
1 Aについて
(1) 実在取引を用いた水増し発注又は架空発注
Aは、平成10年10月頃から、当社がKE 社に発注する実在取引について水増し発注又は架空発注を行う方法で現金を取得するようになった(いわゆる「現金化」)。Aが、現金を取得するようになった目的は、本人の供述によると、その当初は、取引先への接待交際費に充てる現金を捻出して、A自身や所属課の営業成績を確保したいと考えたことによるとのことである。もっとも、その後まもなく歯止めが効かなくなり、接待交際費だけではなく、個人的な遊興費や愛人の生活費等にあてる金員を詐取する目的で、継続的に上記不正行為を行った。 ←【当会コメント】横領金がコンスタントに懐に入るようになると、犯罪者はかならず2号を作る。安中タゴ51億円事件の元職員タゴも愛人を囲っていた。
(2) 架空循環取引
第2の3で述べたように、いわゆる先行検収や債権譲渡担保の方法によるKE 社に対する資金繰りの援助が限界となったことから、Aは、平成17年3月頃から、新たな資金繰りの援助の方法として、架空循環取引を開始した。
Aが架空循環取引を開始し、継続したのは、それをしなければKE社が倒産に追い込まれる可能性が高く、仮に同社が倒産した場合には、それまで自己が行ってきた水増し発注又は架空発注等による金員詐取(現金化)の継続が困難となるのみならず、それまで行ってきた不正行為の全てが明るみとなり、当社の従業員として地位及び生活を失うことになることから、何としてもこれを阻止したいというのが主たる動機・目的であった。
(3) 架空循環取引の一部を用いた架空発注
Aは、平成17年5月頃より、架空循環取引の商流の過程に、架空の現地調整取引を付加する方法で、発注代金から現金を取得するようになった。
これも、それまでの水増し発注等と同様、私的な遊興費、愛人の生活費等に充てる金員を詐取する目的で行われた。
(4) TM社を用いた架空発注
平成18年8月にKE社に対する税務調査が入り、これまで行っていた同社を使った水増し発注等による現金の取得が困難となったことから、Aは、同社の代わりとして、Gの弟の妻が経営するTM 社を用いた架空発注を行って現金の取得を行うようになった。かかる不正取引についても、取引先との接待交際費や私的な遊興費、愛人の生活費等に充てる金員を詐取する目的で行われた。
(5) 私費の領収証を付け替えるための水増し発注
Aやその部下は、平成18年12月頃から、接待費や個人的な飲食代、商品代等の私費の領収証を、KE 社名義で取得して、同社から支払いを受け、その後、KE社に対する発注について水増しを行い、水増し分から領収証金額分(及び同社の税金分)の穴埋めをしていた。かかる不正取引も、私的な遊興費等を確保する目的で行われていた。
(6) 出張旅費の水増し申告
Aは、平成21年8月頃にTM社を用いた架空発注の方法による現金取得が困難となったことから、私的な遊興費等を捻出するために、同月頃より、当社に対してカラ出張を申告し、出張旅費の名目で、現金を詐取するようになった。
(7) KT社を用いた架空発注
Aは、TM社を用いた架空発注の方法による現金取得が困難となったことから、TE社の担当者ACから同人の義弟が経営するKT社の紹介を受けて、平成23年3月頃、KT社に架空発注を行い、現金のキックバックを受けた。かかる不正取引も、私的な遊興費等を確保する目的で行われたもの
である。
(8) プール金取引
ア Aは、平成15年10月頃から平成24年9月頃まで、予備費等の余剰が出る取引や当社の差益分が大きい取引があった場合などに、追加工事等の名目で架空ないし水増し発注を行い、取引先(主にKE 社)に発注分や水増し分の金員をプールしていた。これらのプール金は、基本的には、営業成績やノルマの点で比較的余裕等がある取引に際しプール金として資金を留保し、取引先との間の将来の取引において、追加工事等で赤字が出る場合等に備える目的で行われていた。KE社との関係でのプール金については、次回以降の取引の発注代金の一部に充当したり、追加工事等による赤字を補填するほか、上記した私費の領収証金額分の穴埋めとしても使用された。
イ また、Aは、平成18年頃、当社とNC社との取引において、2200万円の追加の水増し発注を行ってこれをプール金とした。その後、Aは、このプール金をKE社の資金繰りに回すため、NC社の担当者に、KE社に対する2200万円の発注を行うよう依頼し、NC社からの発注代金の名目で、プール金2200万円の大部分をKE社の運転資金として取得させた。
2 Eについて
Eは、平成10年頃から、当社がKE社に発注する実在取引について、水増し発注を行い、KE社から、水増し発注分の一部について現金でキックバックを受けていた。これは、Eの私的な遊興費にあてる金員を捻出する目的で行われていたものである。
3 J、K、Lについて
J、K、及びLの3名は、「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」を行っており、これらの不正取引は、私的な遊興費や物品購入費等を確保する目的で行われた。
**********
■以上のように、横領の手口は巧妙ですが、その形態は、「カラ出張」「水増し」「領収書等の偽造」「取引際への裏金のプール」「期またぎ」など、自治体による裏金づくりと共通したものが多いことに注目されます。
【ひらく会情報部・タゴ51億円事件18周年記念調査班・この項つづく】
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【添付資料2】
調 査 報 告 書
( 要 約 版 )
平成25年5月2日
椿本興業株式会社 第三者委員会
委員長 三 浦 州 夫
委 員 渡 辺 徹
委 員 安 原 徹
<目 次>
第1 第三者委員会の設置の経緯及び調査に関する事項..............................1
1 第三者委員会設置の経緯......................................................1
2 当委員会の構成..............................................................1
3 調査目的....................................................................1
4 調査期間....................................................................2
5 調査対象期間等..............................................................2
6 調査方法....................................................................2
第2 本件不正行為の内容........................................................4
1 本件不正行為の開始から発覚に至るまでの経緯..................................4
2 本件不正行為の概要..........................................................8
3 架空循環取引................................................................9
4 平成10 年10 月頃から開始した「実在取引を用いた水増し発注又は架空発注」.....15
5 平成15 年5 月頃から開始した「プール金取引」................................16
6 平成17 年5 月頃から開始した「架空循環取引の一部を用いた架空発注」..........17
7 平成18 年11 月頃から開始した「TM 社を用いた架空発注」......................18
8 平成18 年12 月頃から開始した「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」...19
9 平成21 年8 月頃から開始した「出張旅費の水増し申告」........................20
10 平成23 年3 月頃の「KT 社を用いた架空発注」.................................21
第3 本件不正行為への全関係者の関与状況等.....................................22
1 全関係者の関与状況.........................................................22
2 本件不正行為に係る会計処理が誤りであったこと及びかかる誤りが財務諸表等に与える影響に関する当時の各関係者の認識の有無..............................23
第4 本件不正行為に関与した各関係者の動機・目的...............................23
1 A について.................................................................24
2 E について.................................................................26
3 J、K、L について...........................................................26
第5 本件不正行為の原因となった事情及び早期発見の妨げとなった事情(内部管理体制の不備) ...........................................................26
1 営業担当者に対する広範な権限付与と職務分担による牽制機能の欠如.............27
2 人事異動の停滞.............................................................28
3 上級職員と担当者との権限分化の欠如.........................................29
4 コンプライアンス体制の不備.................................................29
5 会計監査人による監査上の問題点.............................................33
第6 再発防止策...............................................................34
1 基本的な考え方.............................................................34
2 統制環境にかかる施策.......................................................35
3 リスク評価にかかる施策.....................................................38
4 統制活動にかかる施策.......................................................39
5 情報収集・伝達体制の拡充による防止策.......................................41
6 モニタリングによる防止策...................................................42
7 IT の利用による防止策......................................................43
第1 第三者委員会の設置の経緯及び調査に関する事項
1 第三者委員会設置の経緯
平成25年3月13日、椿本興業株式会社(以下、「当社」という。)の中日本営業本部に所属する従業員であるAよりB取締役専務執行役員(C取締役常務執行役員、D取締役常務執行役員同席)に対し、約10年前から架空循環取引を行っていた旨の申告が行われた。当社において調査を行ったところ、Aにより、複数の取引先会社との間において架空売上と架空仕入れを伴う不正取引が行われていた事実及び当該不正取引が過年度の連結及び個別業績に影響を与える可能性が判明した。
そこで、当社は、公正中立かつ独立した立場からの調査を確保するため、平成25年3月25日開催の取締役会において、第三者委員会(以下、「当委員会」という。)を設置することを決議した。
2 当委員会の構成
当委員会の委員の構成は、次のとおりである。
委員長 三 浦 州 夫(河本・三浦法律事務所 弁護士)
委 員 渡 辺 徹(北浜法律事務所・外国法共同事業 弁護士)
委 員 安 原 徹(ペガサス監査法人・安原公認会計士事務所 公認会計士)
当委員会は、日本弁護士連合会による「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(平成22年7月15日公表、同年12月17日改訂)に則って構成及び運営されており、各委員は、当社との間で、その独立性に影響を及ぼす関係・取引は存在しない。
3 調査目的
当委員会の実施した調査の目的は、次のとおりである。
・不適切な会計処理の有無及び原因行為の事実関係の調査
・現状の内部管理体制の問題点の調査及び検討
・再発防止策の検討及び提言
なお、会計処理の具体的な修正方法の提示及び関係者の責任の有無の判断については、当委員会の調査の目的ではない。
また、当委員会による再発防止策に関する提言については、当社を拘束するものではない。
4 調査期間
当委員会は、当社から正式な委託を受けた平成25年3月25日から同年5月2日まで調査を行った。
5 調査対象期間等
本調査の対象期間については、A及び関係者の申告においても、不正行為(以下、「本件不正行為」という。)が過去長期間にわたり行われていたことから、直近5事業年度の取引に加えて、それ以前の取引についても関係資料や記録等が入手できる範囲で調査対象として調査を行った。もっとも、不正行為の類型や手法が複数存在し、それぞれが長期間かつ多数回に及んでいることから関係書類が膨大であること、一方、当委員会に与えられた調査時間に制限があること、過去の関係証憑類の一部が散逸していること、関係者の記憶に限界があること等の事情があるため、記録や資料の信頼性が確認できる範囲で、事実関係の調査、並びに事実の認定及び判断を行ったものである。
6 調査方法
当委員会が実施した調査方法の概要は、次のとおりである。
(1) 関連書類・電子データ等の確認・検証
当委員会は、各種議事録、契約書・注文書・納品書等の取引関連資料、財務諸表、経理関係資料、社内規程類、電子メール記録等、当社から提供を受けた資料に加え、本件不正行為に関与したKE社からも資料の提供を受け、これらについて調査を行った。
今回の調査において特筆すべき点は、本件不正行為に関与したKE社が、当社に対する請求書・納品書等、当社から受信した電子メール、当社に対して発出した電子メール、A ほか本件不正行為に関与した当社社員との間で発受信した携帯電話メール、本件不正行為を主導したA が作成した手書きメモやそれをA の指示を受けて電子データ化したもの等を大量にかつ整然と保管しており、その開示を受けたことである。これらの資料と当社側から提供された資料・ヒアリング結果と突き合せることにより、信頼性の高い情報を入手することが可能となった。
なお、本件不正行為は中日本営業本部のSD(Sales Division)長であるAが主導したものと認められるので、同人の管理下にある中日本営業本部装置営業部の取引を中心に調査を実施した。その際、調査の網羅性を確保するため、平成20年6月から平成25年3月に至る期間の同部門のすべての受注・発注取引について受注承認データを入手して、異常な取引条件等による取引の有無を確かめた。その結果、本調査で取り上げた取引のほかに不正等が疑われる不自然な取引は特段見出せなかった。またAの権限行使手法、即ち、SD 長という上位管理者でありながら受注・発注から回収に至る一連の営業事務の全てに自ら直接携わるというスタイルが不正の温床になったとの判断から、同様のスタイルで執務する上位管理職が他地区(東日本営業本部、西日本営業本部)に在籍するかどうかを財経部経由で確かめた。その結果、特別な場合以外にはかかる権限集中が行われている例はないとの回答を得た。そのため、他地区の装置営業部の取引については時間的制約のため踏み込んだ調査が実施できなかったものの、名古屋と類似した形態の不正取引が存在する可能性は低いものと判断した。
(2) ヒアリング
ヒアリング対象者は次のとおりである。
ア A
イ 当社中日本営業本部に在籍する全従業員59名
ウ 当社元従業員E
エ 当社の役員及び元役員
現任取締役12名、現任監査役4名、元取締役3名、元監査役2名
オ 本社管理部門に在籍する従業員計5名
カ 当社の会計監査人の監査責任者である公認会計士2 名(前任者及び現任者)
キ 取引先関係者
① KE社前社長F
② 同現社長G
③ 同システム部部長H
④ 架空循環取引の取引先企業である下記7社の担当者(8名)
・NC 社
・KK 社
・DD 社
・HT 社
・SS 社
・OD 社
・TE 社
⑤ I(KT社)
第2 本件不正行為の内容
1 本件不正行為の開始から発覚に至るまでの経緯
本件不正行為は、当社中日本営業本部の装置営業部を舞台にして、およそ15年間の長きにわたり行われてきたものである。そこで、まず、時系列にそって、その開始から発覚に至るまでの経緯を整理する。
(1) 本件不正行為の経緯
ア KE社の現社長であるGは、平成2年2月からKR社の社内外注設計として、個人で主に自動搬送クレーンの設計に従事していたところ、当社がKR社に発注したDT社向け電極接続(継足)装置の取引を通じて、その発注担当者(当時課長)であるAと知り合った。
その後、Gは、Aから当社との直接取引を持ちかけられたこと等から、KR社より独立し、叔父であるF等の出資も得て、平成10年4月3日、KE社を設立した。それまで金融機関に勤務していたFが代表取締役社長に就任して主に経理関係を担当し、Gは専務に就任して主に設計業務等の実務を担当することとなった。このような経緯で、KE社設立当初から、当社は同社の主要取引先となり、Aは当社営業担当者としてKE社との密接な関係が始まった。
イ 平成10年10月頃から、AとE(当時、当社名古屋支店装置部の課長)が、共同で担当した案件を通じてFに対し、遊興費等を捻出する方法としてKE社に対する水増し発注又は架空発注をもちかけ、Fとの間でかかる不正行為を開始した(Aはこれを「現金化」と呼んでいた。)。なお、Eは、平成14年に大阪本社に異動するまで、Aとは別個にFとの間で上記不正行為を継続した(但し、内容の詳細は不明である。)。
ウ 平成14年春頃から、Gも上記不正行為による資金捻出に関与し始めた。
エ 平成15年5月頃から、AがF及びGとともに、KE社に対する水増し発注又は架空発注によるプール金取引を開始した。
オ 平成17年3月頃から、Aが、KE 社の資金繰りの手段として、Gとともに、Aの発案による架空循環取引を開始した(Fも了承していた。)。
カ 平成17年5月頃から、AがF 及びGとともに、架空循環取引の一部を利用した架空発注による現金化を開始した。
キ 平成18年8月にKE社に税務調査(第2回税務調査)が入り、架空発注や水増し発注による同社ないしF・GやAへの現金還流が指摘されたため、同社に対する水増し発注や架空発注ができなくなった(なお、Aは当社に反面調査が及ぶことを防ぐため、Gを通じて調査官に「使途秘匿金扱い」とすることを依頼した。)。
ク 平成18年11月頃より、Aは、KE社を利用した不正取引による現金化が困難となったことから、G の弟であるH とともに、同人の妻の個人事業である「TM社」に対する架空発注による現金化を開始した(なお、TM 社はHが立ち上げた事業で、同人が平成18年5月にKE社に入社するまでは、同人が経営していた。)。
ケ 平成18年12月頃から、Aは、装置営業部の部下(J、K及びL)とともに、個人的に費消した遊興費や物品購入代等の領収証をKE 社宛で取得して、その金額をKE 社に支払わせ、事後に新規案件を水増し発注して穴埋めするという不正行為を開始した。
コ 平成19年4月、KE社の社長がFからG に交代した。
サ 平成21年8月、KE社に税務調査(第3回税務調査)が入り、TM社を利用した架空発注ができなくなった(このときも、Aは当社に反面調査が及ぶことを防ぐため、Gを通じて調査官に「使途秘匿金扱い」とすることを依頼した。)。
シ 平成21年8月、Aがカラ出張による出張旅費の水増し精算を開始した。
ス 平成23年3月、AがKT社に対する架空発注を行った。
(2) 不正行為の発覚に至る経緯
ア 平成23年9月、架空循環取引の売掛先であるDD社への受注残(「直送品在庫」、「預託在庫」、「仕掛品」などと呼称される。)が多額に上ることが問題となり、会計監査人であるAZ監査法人がDD社に対して文書による在庫の残高確認を行ったが、Aが残高確認書の封入された郵便物をDD 社から取り戻し、DD社名義で偽造した残高確認書を同監査法人に返送した。
イ 平成23年12月、コンプライアンス室がAに対し、DD社関連取引に関してヒアリングを行った。
ウ 平成24年1月26日、中日本営業本部において、業務点検ヒアリングの一環として、「DD社向け預託在庫管理打合せ」が行われ(出席者:中日本営業本部長であるD、M取締役コンプライアンス担当、N内部監査室長、O財経部長、P経理グループ長、Q経理課長、Rコンプライアンス室長ほか。)、Aに対し、現在の在庫状況、120日超の滞留理由などについてヒアリングが行われた。Aからは、預託在庫金額9億2615万円、仕入先からの納期まで10ヶ月かかり最終ユーザーへの据付はDT社(DD社への発注者)の構内業者が行っていること、仕入計上率が約90%で、残り約10%は現地調整費用(SV費用)であること、120 日以上の滞留在庫についてはニュートン画面に登録し管理していること、滞留理由の殆どは納期変更によるものであること等の説明があった。
ヒアリングを踏まえ、在庫管理方法の改善策として、Aに対し、①仕入先より、最終ユーザーからの受領書、納品書を受領すること、②DT社からの工程表を入手すること(同社印のあるもの)、③DD社からの注文書に納入先、支払条件を記載し、担当者印ではなく社印・職印の押捺を求めること、④口頭発注分については、内示段階で受注入力すること、⑤本取引の決裁はすべてDの承認を得ること、⑥オンラインの計上を担当者名で行うこと、⑦DD社と基本契約書を交わし、取引条件を明確にすること、を求めた。
エ 平成24年3月22日、リスクマネジメント委員会(出席者は、委員長・C、B、M、S 取締役常務執行役員、T 取締役常務執行役員)において、DD社関連取引に関する上記業務点検ヒアリングにおける改善策を実行中である旨の報告がなされた。
オ 平成24年5月及び同年11月、名古屋経理課はDD社に対して会計監査人の了解のもと、AZ監査法人の名義を使った文書による仕掛品(預託在庫)の残高確認を行ったが、Aは残高確認書の封入された郵便物を郵便局から取り戻したうえ、偽造したDD 社名義の残高確認書をAZ監査法人に返送した。
カ 平成24年9月19日、中日本営業本部で「DD社関連 直送品在庫管理」に関する打合せが行われ(出席者:D、A、P、R、Q)、前回打合せ時に決定した改善策の実施状況の報告や今後の対応策についての協議がなされた。Aからは、納入先の受領書や工程表を受領した旨の報告がなされた(なお、それらはいずれもAが偽造したものであることが後日、Aの自白により判明した)。その際、質疑において、当該取引が金融取引(介在取引)ではないかとの質問がなされたが、Aは否定した。また、各社毎の累積与信限度設定を行うこと、Aがセッティングして監査役同行のもとで現物確認を実施することなどが決定された。
キ 平成24年10月19日、中日本営業本部で、監査役による「DD社関連直送品在庫管理について」の打合せが行われた(出席者:U監査役、V監査役、D、A)。席上、監査役に対する会計監査人の「第109期監査概要報告書」において、DD社向け直送品在庫の現物管理(実在性の確認等)に関する指摘がなされていることの報告がなされ、①経理課への提出資料に、仕入先の工場出荷前写真を追加すること、②内示段階での受注入力を遵守すること、③内示書発行にはDの承認を得ること、④DD社ほか計7 社の直送品在庫金額の削減目標値の設定、⑤現物確認を同年11月下旬~12月に実施すること、⑥DT社/SZ社向け案件の証憑(図面、見積書、写真等)を監査役に提出すること等を決定し、Aに対する指示がなされた。
ク 平成24年12月11日、監査役室において、監査役によりA に対するヒアリングが行われた(同席者:N、R)。滞留在庫について、製品(物品)と現場調整費とに分割して売上計上すること(DD社と交渉して分割検収とすること)の指示がなされた。また、現物確認セッティングの進捗状況に関する質問に対して、Aは、「現物確認の申し入れを行ったが、DT社に対してはDD社が前面に出ており、当社は表に出難い。このビジネスを締めくくる覚悟でDD社と再折衝する」旨説明した。監査役は、もし1月末までに現物確認を行うことが認められれば2、3 月に実施すること、仮に相手の承諾が出ない場合は、監査役が独自に現物確認を行うことを伝えた。
ケ 平成24年12月25日、中日本営業本部において、監査役による「DD社関連 直送品在庫管理について」の打合せが行われた(出席者:U、V、D、A、Q)。現物確認について、Aは、「DD社に現物確認の同意を求めているが状況は厳しい。DT社の会計監査時に現物確認の要請があっても実施したことがなく、またDT社も客先(エンドユーザー・プラントメーカー)に申し入れできないとのことだった」との説明を行い、現物確認に難色を示した。監査役は、3月末までに必ず現物確認を実施したい旨を伝えた。
コ 平成25年1月5日、監査役室において「DD 社関連 装置ビジネス打合せ」が行われ(出席者:U、A)、分割検収への条件変更について打合せがなされた。
サ 平成25年1月21日、中日本営業本部において、監査役による「DD社関連 直送品在庫管理について」の打合せが行われた(出席者:V、A、Q)。エンドユーザーでの現物確認について、Aは、従前からの理由を繰り返して、依然として困難である旨説明した。
シ 平成25年2月14日、中日本営業本部で「DD 社関連 直送品在庫管理について」の打合せが行われた(出席者:C、D、U、V、R、P)。Cより、DD社関連取引は当社本来の装置営業から逸脱していること、与信限度以上の取引が行われていること、装置部門の一担当者の案件数が非常に多く、Aが全てを把握できているか疑問であること等の理由で、取引からの撤退を強く指示され、DとAが取引の継続か撤退かを協議したうえでB に報告すること、2月及び3月中の新規取引を控えることが決定された。
ス 平成25年3月13日、上記の指示、決定により架空循環取引の継続が困難となったことから、A が架空循環取引についてBに自白し、発覚した。
2 本件不正行為の概要
本件不正行為は、大きく分けて、①架空循環取引、②プール金取引、及び③金員詐取目的の架空発注又は水増し発注からなる。
このうち、金員詐取目的の架空発注又は水増し発注は、平成10年10月頃から開始した「実在取引を用いた水増し発注又は架空発注」、平成17年5月頃から開始した「架空循環取引の一部を用いた架空発注」、平成18年11月頃から開始した「TM社を用いた架空発注」、平成18年12月頃から開始した「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」からなる。もともとは、Aを中心に、平成10年10月頃から、遊興費(クラブやスナック等での飲食代)等に充てるために当社から金員を詐取すべく、「実在取引を用いた水増し発注」を行ったのが最初であり、その後、平成15 年5 月頃から、Aの自由裁量が効く金員をKE社に溜めておく(プールする)ために、「プール金取引」を開始した。
KE社の資金繰りが悪化した平成17年3月頃からは、同社が倒産すれば、従前の不正行為の継続が不可能となり、またこれまでの不正行為が露見することをおそれたAが、同社の資金繰りを維持する目的にて「架空循環取引」を開始した。
他方、架空循環取引を行いながらも、これと並行して、遊興費等に充てるために当社から金員を詐取する不正行為は連綿と継続された。すなわち、平成17年5月頃から開始した「架空循環取引の一部を用いた架空発注」、平成18年11月頃から開始した「TM社を用いた架空発注」、平成18年12 月頃から開始した「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」が行われてきた。
また、以上の不正行為のほかに、平成21年8月頃から開始した「出張旅費の水増し精算」、平成23年3月頃に「KT社を用いた架空発注」も認められた。
各不正行為の詳細は以下のとおりである。
3 架空循環取引
(1) 背景
平成13年頃より、AはFからKE社の資金繰りの相談を受けるようになった。そこで、Aは、実際には未だに検収(納入先への納品)が上がっていないにもかかわらず、検収が行われた旨の虚偽の納品書・請求書を作成し、KE社への支払いを早める手法(Aはこれを「先行検収」と呼んでいた。)を用いて、KE社の資金繰りを助けるようになった。
しかし、先行検収によって支払われる金員は運転資金に用いられることが多かったため、製品を製作するための部材費が不足し、肝心の製品が完成しないことから、架空の在庫(実際には製作されていないにもかかわらず、帳簿上は製品がある状態)が積みあがっていった。そのため、先行検収による資金繰り援助も限界となった。
他方、KE社は、先行検収ができない取引について、当社に対する売掛債権を対象とする債権譲渡担保を用いて、金融機関から融資を受けていたが、Aは架空の債権が存在するように見せかけて、金融機関から融資を引き出すことで資金繰りを助けるようになった。しかし、金融機関の融資枠が一杯となり、架空の債権譲渡担保による資金繰り援助も限界となった。
以上の経緯のもと、Aは架空循環取引による方法を提案するに至った。
(2) 商流
まず、KE社が、SS社、NC社、OD社、HT社、DD社、KK社、TE社(以下、併せて「売掛先7社」という。)のいずれかに発注する。売掛先7社は当社に発注し、当社は、SS社、NC社、KK社、TE社(以下、併せて「仕入先4社」という。)のいずれか又はKE社に発注する。最後に、仕入先4社はKE社に発注するというものである。
売掛先7社と仕入先4社には、重なっている会社もあるが、個別の特定の取引においては、当然のことながら売掛先で用いた会社は仕入先では用いていない。
Aは、売掛先7社には「KE社への売掛債権枠が決まっているため、間に入ってほしい」旨説明し、仕入先4社には「KE社への発注枠が決まっているため、間に入ってほしい」旨説明し、一定の手数料(マージン)を支払うことを条件にそれぞれ取引に入ってもらっていた。
以上の商流を図示すると次のとおりである。
【図①】
(3)手口・手法
下記図②は、5月のKE社の資金繰りのために、4月に商流を策定した場合の具体例である。売掛先がDD社、仕入先がNC社の商流であるが、この図に基づきながら、架空循環取引の手口を説明すると次のとおりである。
【図②】
① 商流の金額と件名の決定
まず、翌月(5月)のKE社の資金不足額を算出し、資金不足額をいくつかの商流に分ける。一つの商流の金額は、数百万円から数千万円の間であるが、1000万円前後の金額が多い。そして、各商流にマッチした件名(エンドユーザー名と物件名)を検討して選定する。
上記図②では、エンドユーザー名としてNK社が選定され、物件名として装入テーブル・抽出テーブル・装入トラバーサ・抽出トラバーサが選定されている。
② 注文書の発行
金額と件名が特定されたら、売掛先7社から1社を選定し、その売掛先よりKE社から発注されることを前提にして、注文書を入手する。但し、DD社が売掛先となる場合、DD社は実際の支払日に併せて注文書を発行する(したがって、事前に注文書を発行しない)ことから、DD社の注文書はAが偽造していた。
上記図②では、売掛先としてDD社が選定され、DD社の当社に対する4月30日付の注文書が偽造され、当社のNC 社に対する4月27日付の注文書が発行されている(NC社からKE社に対する注文書は、NC社に一任されている)。なお、DD社の注文書の方が当社の注文書よりも後の日付になっているのは、DD社が注文書を月末にしか発行しないためである。
③ 見積書・内示書の発行
注文書の発行日付から逆算して、見積書(KE社から仕入先―4社の中から選定された1社―に宛てた見積書、同社から当社に宛てた見積書、当社から売掛先―7社の中から選定された1社―に宛てた見積書)の日付をバックデイトして決め、同時に、内示書(当該売掛先から当社に宛てた内示書、当社から当該仕入先に宛てた内示書)の日付をバックデイトして決めて、それぞれ作成の依頼を行う。見積書及び内示書の日付がバックデイトで揃っていれば、実際の製品は以前から仕掛かっていたことが証明されるため、当月に納品したことが不自然ではなくなるわけである。
このようにバックデイトで書類を作成することについて、売掛先7社及び仕入先4社から、不審がられることはなかったとのことである。なお、売掛先7社のマージンは概ね4%、仕入先4 社のマージンは概ね3%に設定されていた。
上記図②においては、KE社からNC社に宛てた2月5日付見積書、NC社から当社に宛てた2月7日付見積書、当社からDD社に宛てた2月9日付見積書が作成されている。また、DD社から当社に宛てた2月12日付内示書、当社からNC社に宛てた2月14日付内示書が作成されている(NC社からKE社に対する内示書は、NC社に一任されている)。
④ 納品書・請求書の発行
その上で、当月(4月)にKE 社が現地搬入(直送)したという形にして、納品書及び請求書(KE社から当該仕入先に宛てたもの、当該仕入先から当社に宛てたもの)を送付してもらう。
上記図②においては、KE社からNC社に宛てた4月20日付納品書及び請求書、NC社から当社に宛てた4月20日付け納品書及び請求書が作成されている。
⑤ KE社への支払い
検収月の翌月末日に、当社が仕入代金を当該仕入先に支払い、当該仕入先がKE社に支払う(通常は、現地に納入されたとされる段階で、仕入先に対して契約代金の9割を支払い、残り1割は試運転・現地調整がなされたとされる後に支払っていた。)。これによって、KE社の翌月の資金繰りがまかなわれることになる。上記図②においては、5月末日にKE社へ支払いがなされることとなっている。
⑥ 当社への支払い
他方、KE社から当該売掛先への支払い、及び当該売掛先から当社への支払いは、納品先での試運転・現地調整等に時間がかかるという形にして、6カ月後くらいに設定されることが多かった(なお、当社の売上計上基準により、当該売掛先に対する売上計上は、現地納入時ではなく現地での試運転完了時とされていた。そのため、既に納入済みの本体分は当社の所有物であり、客先に納入後試運転完了時までは当社の在庫、すなわち「直送品在庫」・「預託在庫」として管理されることとなる。)。
上記図②においては、当社への支払いは、12月になされることとなっている。
但し、近年は、KE社において長年にわたるマージンの支払いが積み重なっていたこともあり、その資金繰りは益々悪化していたことから、当社への支払は1年後あたりに設定されるようになっていた。そのため、とりわけDD社を売掛先とする直送品在庫(架空在庫)が多額にのぼっていたものである。
(4) 手続
翌月の資金不足額の算出は、AとGが行っていた。
資金の不足額が算出されると、Aが独りで、架空循環取引の段取りを組む作業を行うために長久手市内に借りていたアパートにて、各商流を手書きで作成し、Aが作成した商流を、Aの指示によりGが会社のパソコンで電子データにまとめていた。なお、今回の調査において、架空循環取引の当初からGがまとめ、保管していた電子データをプリントアウトしたもの一切を、Gから資料として提供を受けている。その後の書類の作成、支払及び債権回収の管理等は、全てAが独りで行っていた。
但し、近年は、上述のとおり当社管理部門等の指示で、書類以外に、図面・写真・工程表等の提出を求められていたところ、図面と写真はKE社が実在取引の別物件から抜粋した図面と写真を提出して実在を偽装し、また工程表についてはAが偽造して提出していた。
ところで、Aは中日本営業本部の東海東部SD長という管理職にあったことから、本来、自らが具体的な取引の担当者になることができない。そこで、部下の発注番号を借りて、上記取引を行っていたものである。
(5) 金額
仕入75億3608万円、売上78億4634 万円、差益3億1025万円、件数948件
なお、一般的な循環取引では、目的物が同一性を維持しながら介在会社の介入が連続し、当初売主と同じ最終買主に目的物が還流するが、本件は架空循環取引で目的物が存在しないため、売上高と仕入高が目的物を媒介にした対応関係になく、費用と収益が対応する関係になっていない。企業会計上、利益計算は、収益から対応する費用を差し引いて求めることとされるが、本件では費用と収益が対応していないので、架空循環取引の差益とは厳密な意味での利益ではなく、また、そもそも架空の仕入、売上であることから、上記の差益は単なる「差額」と解すべきである。
また、仕入側の取引と売上側の取引が目的物を介して連続する取引となっておらず、介入各社がマージン等の形で利益を得る結果、KE社にのみマージン分の負担が集中する結果となった。ちなみに、KE社は、同社が保管している架空循環取引開始当初からの上記取引データや関係資料を根拠として、同社が負担したマージンの合計額は金8億4847万5000 円になる旨、主張している。
(6) 実施時期及び実施者
実施時期は、平成17年3月頃から平成25年2月までである。
実施者は、当社ではAであり、KE社ではGである。
なお、売掛先7社及び仕入先4社の各担当者において、架空循環取引であることの認識を有していたかどうかについては、これを明確に認定するに足りる資料を得ることができなかった。
4 平成10 年10 月頃から開始した「実在取引を用いた水増し発注又は架空発注」
(1) 商流・手口
水増し発注と架空発注の2種類のパターンがある。
パターン①は、当社が受注した実在取引について、KE社に発注する際、詐取したい金額の1.3倍から1.8倍の金額を水増し(上乗せ)した取引金額での発注をKE社に行う。
パターン②は、当社が受注した実在取引について、架空の取引を付加し、KE社に発注する。
(2) 資金の流れ
パターン①の資金の流れは、当社からKE 社に支払われた水増し分のうち、13分の3ないし18分の8をKE社に残して、残りをA又はEが取得する。
パターン①の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図③】
売掛先→実在する発注の支払い→椿本興業㈱→水増し発注の支払い→KE社→分配→A・E
パターン②の資金の流れは、当社からKE社に対し、実在取引に付加された架空発注分を支払い、その金額をKE社とA又はEとで分配する。
パターン②の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図④】
椿本興業㈱→実在取引に付加された架空発注の支払い→KE社→分配→A・E
(3) 詐取した金額
不明である。なお、Gによると、平成10年から平成14年までの間に行われた架空発注又は水増し発注の総額・件数は、2億2536万円(74件)とのことである。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は、平成10年10月から平成17年頃までと思われるが、客観的資料は存在しない。
実施者は、当社ではA及びEであり、KE社ではFである。
5 平成15年5月頃から開始した「プール金取引」
(1) 商流・手口
KE社又はTE社に対して水増し発注又は架空発注を行い、KE社又はTE社に当社から詐取した当該金員をプールする。判明した取引件数は83件、うちKE社向け79件、TE社向け3件、NC社向け1件である。
Aはその部下に対して、これらの水増し発注又は架空発注を指示して行っていた。
以上の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図⑤】
椿本興業㈱→水増し発注又は架空発注の支払い→KE社・TE社・NC社→プール金として使用
(2) 資金の流れ
当社からKE社にプールされた金員は、KE社への正規発注案件における発注額の削減に用いたり、追加請求や赤字案件の補填、Aや部下らの私費の領収証の付け替えをしてもらった穴埋めに用いたりしていた。
(3) プール目的で支払われた金額
合計1億1481万9100円
上記金額は、Aの自白及び指示を受けた社員の申告による。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は平成15年5月頃から平成24年9月頃までである。
当社においては、指示者はAであり、Aの指示の下これらの発注を行っていた実行者は、中日本営業本部のJ、K、L のほか、W、X、Y、Z、AA、AB である。KE社の実施者はGである。
6 平成17年5月頃から開始した「架空循環取引の一部を用いた架空発注」
(1) 商流・手口
架空循環取引において、仕入先4社に発注する際に、架空の現地調整取引を付加して、SE社等(以下、「現調会社」という。)に現地調整取引を発注し、現調会社がKE社に現地調整取引を発注する。
(2) 資金の流れ
当社が現調会社に現調費を支払い、現調会社が現調費をKE社に支払う。KE社に支払われた金額を、AとKE社で分配する。
以上の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図⑥】
椿本興業㈱→架空の現調費の支払い→現地調整会社→架空の現調費の支払い→KE社→分配→A
(3) 詐取した金額
合計4810万円
この金額は、KE社から提供を受けた資料から算出した。
なお、本取引は架空循環取引に含まれているので、この金額は3(5)に掲げた金額に含まれる。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は、平成17年3月から平成18年8月までである。
実施者は、当社ではA、KE社ではGである。
7 平成18年11月頃から開始した「TM社を用いた架空発注」
(1) 商流・手口
TM社を用いた架空発注には2種類のパターンがある。
パターン①は、実在取引に架空の別案件を付加して行う架空発注である。
当社が受注した実在取引について、架空の別案件を付加して、NC社等の介在会社に発注し、そこからKE社に発注してもらう。
パターン②は、架空循環取引に付随する架空発注である。架空循環取引において、仕入先4社にKE社ではなくてTM社への発注を依頼する。
(2) 資金の流れ
パターン①の資金の流れは、当社から介在会社を通してTM社に支払われた金額を、KE社とAが分配する。
パターン①の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図⑦】
椿本興業㈱→付加された架空発注の支払い→介在会社→付加された架空発注の支払い→TM社→分配→KE社・A
パターン②の資金の流れは、架空循環取引において当社から仕入先4社に支払われた金額が、KE社はなくてTM社に支払われ、その支払われた金額をKE社とAが分配する。このパターン②の場合、架空循環取引を用いているにも拘らず、資金が循環しないことから、当該取引時点においては、Aの分配金の分だけKE社が資金を負担していることになる。
パターン②の商流及び資金の流れを図示すると以下のとおりである。
【図⑧】
椿本興業㈱→架空循環取引の支払い→仕入先4社→架空循環取引の支払い→TM社→分配→KE社・A
(3) 詐取した金額
パターン①の金額は、合計3493万5500円である。
パターン②の金額は、合計2923万7100円である。
いずれの金額も、KE社から提供を受けた資料によって算出した。
なお、パターン②は架空循環取引の一部を構成するので、この金額は上記3(5)に掲げた金額に含まれている。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は、平成18年11月から平成21年8月までである。
実施者は、当社ではAであり、TM社ではHである。
8 平成18年12月頃から開始した「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」
(1) 商流・手口
A、J、K 及びLは、私費の領収証をKE社宛てで取得して、その金額をKE社に支払わせる。しかる後に、当社が受注した実在取引について、KE社に発注する際、本来の発注金額に領収証金額の1.65倍の金額を水増しした金額で発注し、当該水増し額でKE社の上記負担額を穴埋めする。
(2) 資金の流れ
KE社が、A、J、K、及びLにKE社宛名義の領収証の金額を支払う。しかる後に、領収証金額の1.65倍の金額が上乗せされた実在取引の代金が当社から支払われる。なお、領収証金額に6割5分上乗せされている趣旨は、水増し請求によるKE社の税金負担分等を考慮したものとのことである。
以上の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図⑨】
KE社→領収書の金額の支払い→A・J・K・L
椿本興業㈱→領収書の金額の1.65倍を上乗せして支払い→KE社
(3) 詐取した金額
A分が865万5096円、J分が322万1461円、K分が164万0967円、A・J・K・Lの4名合同分で137万4000円となっている。
これらの金額も、KE社から提供を受けた資料によっている。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は、平成18年12月から平成24年5月までである。
実施者は、当社ではA、J、K、及びLであり、KE社ではGである。
9 平成21年8月頃から開始した「出張旅費の水増し申告」
(1) 商流・手口
Aが出張旅費の精算において、カラ出張の手法により水増し請求を行っていた。
(2) 資金の流れ
当社からAに水増し分が流れていた。
(3) 詐取した金額
毎月5万円程度である。
上記金額はAの自白による。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は平成21年8月頃から平成24年12月頃までである。
実施者は、Aである。
10 平成23年3月頃の「KT社を用いた架空発注」
(1) 商流・手口
TE社のACに紹介してもらったKT社(同人の義弟であるIの個人事業)を利用した架空発注である。KJ社の当社への実在発注に架空の案件を付加し、当該架空案件について、当社とKT社の間にKK社を介在させ、KT社に架空発注を行った。
(2) 資金の流れ
当社からKK社を通してKT社に流れた金員を、KT社とAが分配する。
以上の商流及び資金の流れを図示すると、以下のとおりである。
【図⑩】
KJ社→実在取引→椿本興業㈱→架空案件分を支払い→KK社→架空案件分を支払い→KT社→分配→A
(3) 金額
112万円
KK社からの資料提供による。
(4) 実施時期及び実施者
実施時期は平成23年3月である。
実施者は、当社ではA、KT 社のIである。
第3 本件不正行為への全関係者の関与状況等
1 全関係者の関与状況
(1) A について
ア A は、架空循環取引における全ての案件において、商流及び取引先の選定、取引金額、仕入計上・売上計上の時期など、その取引内容について全ての決定を行い、KE社の代表者らに対して、適宜、指示を行うとともに、関係書類の準備や偽造、注文の発注や支払の管理等の実行行為を行っていた。
イ また、Aは、金員詐取目的で行われた架空発注又は水増し発注においても、KE社やその他の関係会社等に指示を行って、取引全体を管理し、取引内容の決定や発注業務等の実行行為を行っていた。そして、その手法についても「実在取引を用いた水増し発注又は架空発注」、「架空循環取引の一部を用いた架空発注」、「TM社を用いた架空発注」、「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」、「KT社を用いた架空発注」など、状況に応じて不正取引の手法をつぎつぎと策定して、自ら実行し、あるいは部下やKE社等に指示して実行に移していたものである。
ウ その他、取引先会社とのプール金取引や、出張旅費の水増し申告について、いずれも指示者あるいは実行者として行動していた。
エ 以上のとおり、Aは、本件不正行為の全ての案件において(但し、Eが単独で行った水増し発注は除く)、実行者又は指示者としての立場にあった。
(2) E について
Eは、KE社に対する発注について水増し発注を行い、KE社から水増し発注分について現金でキックバックを受けており、かかる水増し発注取引について実行者としての立場にあった。
(3) J・K・L について
ア J、K、Lの3 名は、私的な遊興費や取引先との接待交際費の領収証を、KE社名義で取得して、領収証金額分の立替えを受け、その後、KE社に対する発注について水増しを行うことで、水増し発注分から、領収証金額分(及び税金負担分)の穴埋めを行っていた。かかる不正取引について、J・K・L は、実行者として行動した。
イ また、J・K・Lは、Aの指示を受けて、取引先会社とのプール金の確保のための水増し発注を行う実行者の立場にあった。
(4) 中日本営業本部の従業員について
中日本営業部の従業員6名(W、Y、Z、X、AB、AA)においても、Aの指示により、プール金取引のための発注行為を実行している。当該従業員らは、担当した発注業務について、架空ないし水増しであることの認識はあったが、そもそも取引先会社とのプール金の確保の目的で水増し発注等を行うことについて不正の認識が希薄であり、また、上司であるAの指示であったことから、指示に従って行為に及んでいたものと認められる。
(5) 役員について
当社の役員(退任した役員も含む)からヒアリングを実施し、また、関係書類等の調査を行ったが、本件不正行為について直接関与し、または黙認していた役員の存在は確認できなかった。
2 本件不正行為に係る会計処理が誤りであったこと及びかかる誤りが財務諸表等に与える影響に関する当時の各関係者の認識の有無
上記のとおり、当社の役員において、本件不正行為を認識していた者や黙認していた者は確認できず、したがって、本件不正行為に係る当社における会計処理が誤りであったこと及びかかる誤りが財務諸表等に与える影響について、役員に認識があったとは認められない。
第4 本件不正行為に関与した各関係者の動機・目的
関係者のヒアリング及び取引関係資料等の調査から、各関係者の動機・目的は、以下のとおりであると認定、判断した。
1 Aについて
(1) 実在取引を用いた水増し発注又は架空発注
Aは、平成10年10月頃から、当社がKE 社に発注する実在取引について水増し発注又は架空発注を行う方法で現金を取得するようになった(いわゆる「現金化」)。Aが、現金を取得するようになった目的は、本人の供述によると、その当初は、取引先への接待交際費に充てる現金を捻出して、A自身や所属課の営業成績を確保したいと考えたことによるとのことである。もっとも、その後まもなく歯止めが効かなくなり、接待交際費だけではなく、個人的な遊興費や愛人の生活費等にあてる金員を詐取する目的で、継続的に上記不正行為を行った。 ←【当会コメント】横領金がコンスタントに懐に入るようになると、犯罪者はかならず2号を作る。安中タゴ51億円事件の元職員タゴも愛人を囲っていた。
(2) 架空循環取引
第2の3で述べたように、いわゆる先行検収や債権譲渡担保の方法によるKE 社に対する資金繰りの援助が限界となったことから、Aは、平成17年3月頃から、新たな資金繰りの援助の方法として、架空循環取引を開始した。
Aが架空循環取引を開始し、継続したのは、それをしなければKE社が倒産に追い込まれる可能性が高く、仮に同社が倒産した場合には、それまで自己が行ってきた水増し発注又は架空発注等による金員詐取(現金化)の継続が困難となるのみならず、それまで行ってきた不正行為の全てが明るみとなり、当社の従業員として地位及び生活を失うことになることから、何としてもこれを阻止したいというのが主たる動機・目的であった。
(3) 架空循環取引の一部を用いた架空発注
Aは、平成17年5月頃より、架空循環取引の商流の過程に、架空の現地調整取引を付加する方法で、発注代金から現金を取得するようになった。
これも、それまでの水増し発注等と同様、私的な遊興費、愛人の生活費等に充てる金員を詐取する目的で行われた。
(4) TM社を用いた架空発注
平成18年8月にKE社に対する税務調査が入り、これまで行っていた同社を使った水増し発注等による現金の取得が困難となったことから、Aは、同社の代わりとして、Gの弟の妻が経営するTM 社を用いた架空発注を行って現金の取得を行うようになった。かかる不正取引についても、取引先との接待交際費や私的な遊興費、愛人の生活費等に充てる金員を詐取する目的で行われた。
(5) 私費の領収証を付け替えるための水増し発注
Aやその部下は、平成18年12月頃から、接待費や個人的な飲食代、商品代等の私費の領収証を、KE 社名義で取得して、同社から支払いを受け、その後、KE社に対する発注について水増しを行い、水増し分から領収証金額分(及び同社の税金分)の穴埋めをしていた。かかる不正取引も、私的な遊興費等を確保する目的で行われていた。
(6) 出張旅費の水増し申告
Aは、平成21年8月頃にTM社を用いた架空発注の方法による現金取得が困難となったことから、私的な遊興費等を捻出するために、同月頃より、当社に対してカラ出張を申告し、出張旅費の名目で、現金を詐取するようになった。
(7) KT社を用いた架空発注
Aは、TM社を用いた架空発注の方法による現金取得が困難となったことから、TE社の担当者ACから同人の義弟が経営するKT社の紹介を受けて、平成23年3月頃、KT社に架空発注を行い、現金のキックバックを受けた。かかる不正取引も、私的な遊興費等を確保する目的で行われたもの
である。
(8) プール金取引
ア Aは、平成15年10月頃から平成24年9月頃まで、予備費等の余剰が出る取引や当社の差益分が大きい取引があった場合などに、追加工事等の名目で架空ないし水増し発注を行い、取引先(主にKE 社)に発注分や水増し分の金員をプールしていた。これらのプール金は、基本的には、営業成績やノルマの点で比較的余裕等がある取引に際しプール金として資金を留保し、取引先との間の将来の取引において、追加工事等で赤字が出る場合等に備える目的で行われていた。KE社との関係でのプール金については、次回以降の取引の発注代金の一部に充当したり、追加工事等による赤字を補填するほか、上記した私費の領収証金額分の穴埋めとしても使用された。
イ また、Aは、平成18年頃、当社とNC社との取引において、2200万円の追加の水増し発注を行ってこれをプール金とした。その後、Aは、このプール金をKE社の資金繰りに回すため、NC社の担当者に、KE社に対する2200万円の発注を行うよう依頼し、NC社からの発注代金の名目で、プール金2200万円の大部分をKE社の運転資金として取得させた。
2 Eについて
Eは、平成10年頃から、当社がKE社に発注する実在取引について、水増し発注を行い、KE社から、水増し発注分の一部について現金でキックバックを受けていた。これは、Eの私的な遊興費にあてる金員を捻出する目的で行われていたものである。
3 J、K、Lについて
J、K、及びLの3名は、「私費の領収証を付け替えるための水増し発注」を行っており、これらの不正取引は、私的な遊興費や物品購入費等を確保する目的で行われた。
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■以上のように、横領の手口は巧妙ですが、その形態は、「カラ出張」「水増し」「領収書等の偽造」「取引際への裏金のプール」「期またぎ」など、自治体による裏金づくりと共通したものが多いことに注目されます。
【ひらく会情報部・タゴ51億円事件18周年記念調査班・この項つづく】
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