■当会では、タクマが作った、このゴミ処理施設について、当会がかつて毎月発行していた安中市民通信「まど」1998年3月20日第27号9~10ページで、平成10年4月からの稼動を前にして、「環境特集 新型ゴミ処理施設オープンによせて」と題して、「65億円をめぐる利権の産物」という特集記事を掲載したことがあります。
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六五億円をめぐる利権の産物 懸念されるズサン計画のツケ
公社事件・51億円事件を上回る巨額プロジェクトの後遺症とは
安中・松井田衛生施設組合(管理者・中島博範市長)は平成七年一〇月から、旧し尿処理施設跡地に、新しいゴミ施設(処理能力九〇トン)と、粗大ゴミ処理施設能力二〇トン)の建設を三ヵ年計画で行ってきました。平成九年一二月からの試運転を経て、平成一〇年四月からいよいよ稼働を開始します。今回は、私たちの暮らしに密接な関係を持つ、ゴミ処理施設について、さまざまな観点から考えてみました。
今までのゴミ焼却炉は一九七四年にクボタが作った機械バッチ炉(一回毎にまとめてゴミを入れて燃やす形式で、学校の焼却炉を大型化したもの)で、一日五〇トン強のゴミを能力一五トンの炉四基で処理していました。建設後、二〇年以上経過して老朽化したため、今回の新しいゴミ焼却施設の計画が建てられたものです。
新しい「碓氷川クリーンセンター」は、現在のごみ処理能力の約一・五倍で、約六五億円に上る総事業費は、国からの助成金や起債などで賄われます。処理施設棟の床面積は約五六〇〇平方メートルで、二〇〇四年の安中市、松井田町の想定人口約八万二〇〇〇人をベースに処理能力が計画されました。(計画内容は別項の資料参照)
■ストーカ型と流動床型の争い
ゴミ焼却には「ストーカ炉」と「流動床」の二種類の炉があります。
ストーカ型と呼ばれる炉は、火格子(ストーカ)の上にゴミを乗せて、下から空気を送り込んで燃やします。階段状のストーカはベルトコンベアになっていて、燃えたゴミは順々に炉の奥に運ばれ、最後に灰になって下に落ちる仕掛です。原理は薪ストーブと同じようです。灰が火格子の隙聞から落ちるため、未燃物が多く含まれ、灰の量が多くなります。
流動床型というのは、高温に熟した砂に下から空気を吹き上げ、ゴミは砂に撹拝されるうちに完全燃焼するため、灰がきれいです。また、運転の開始や停止が簡単にできるため、准連続運転と呼ばれる一日一六時間運転に適しています。
ストーカ型も流動床型も、性能、コスト、操作性は大同小異です。ダイオキシン対策は飛灰の少ないストーカ型の方が容易だとされていますが、流動床型も燃焼制御や飛灰処理を工夫しており、両方共、技術的には厚生省の暫定規制値八〇ナノグラムは充分クリアできています。
固形ゴミ処理施設は焼却と破砕から構成されます。この施設の設置には厚生省が管轄しています。発注は下水道のような図面発注ではないため、性能保証が必要です。
■なぜかストーカ型一辺倒
計画は一九九二年頃から本格的に動きだし、コンサルタントにより計画案が九四年六月頃作られました。
計画案の縦覧に先立ち同年一月一日付おしらせ版「あんなか」に、住民への縦覧公告が載りました。
それによると、この縦覧は、安中・松井田衛生施設組合のゴミ焼却場整備計直に伴い、既存の都市計画汚物処理場を廃止し、新たにゴミ焼却場と併せて「その他の処理施設」として都市計画決定をするためのむので、この計画案についてご意見をお持ちの人は、縦覧期間中に市長に意見書を提出することができることが分かりました。
【概要】
◆所在 市内原市宇悪途久保東地内
◆面積 20,189平米
◆施設(1)ゴミ焼却場(処理能力90t/日)
(2)汚物処理場(処理能力90kl/日)
【縦覧期間】11月8日(火)~21日(月)(土・日曜日を除く執務時間内)
【縦覧場所】市建設部都市計画課(西庁舎2階)
さっそく同一八日に計画案を見に行った市民は、その内容に疑問を持ち、次のような意見書を同二一日付けで小川勝寿市長(当時)に提出しました。
尚、縦覧当時、都市計画課には公社事件で有名になった多胡邦夫が公社併任職員として在籍していましたが、ちょうど同年一〇月から一二月にかけて、小川前市長の「特命」で東京の広尾にある自治大学校で研修のため不在でした。その頃タゴは財布を膨らまし、毎晩のように赤坂や銀座に繰り出して、時には安中から「激励」に駆けつけた市議会議員らを連れて、夜の研修にも励んでいたことは周知のとおりです。
■無視された住民意見書
<意見その1>
焼却方式について、基本計画報告書はストーカ式採用を正当化するような記述内容なのがたいへん気にかかる。再度慎重に検討すべきだ。
九四年六月付の(株)総合エンジニアリング作成の「基本計画報告書」に基本計画が示されている。同社は環境分野で著名なコンサルタント会社だが、同社の報告書における焼却炉方式(ストーカ式と流動床式)の比較表を見る限り、とても公平中立な立場の記述ではない。
結論として、明らかにストーカ式に既に決まっている感じ。コンサルタントは顧客の同組合や安中市に対して最適な方式を選定すべきだが、流動式のマイナス面ばかり強調している。
一方、ストーカ式のマイナス面は示していない,流動床式は多様なゴミ質に対応でき、発熱量の大きなブラスチック類にも適し、運転の立ち上げも容易だ。
本件では当初、ストーカ式と流動床式のメーカー同士が、熾烈な売り込みをしていたが、コンサルタントが報告書を書き上げる前に、既にストーカ式に決まるという噂が出ていた。やはりウラで決まっていたらしい。
<意見その2>
計画では処理フローとして焼却灰の予想最終処分量(平成一六年ベース)が日量10・21トンと記されているが、環境影響評価書には焼却灰をどのように処分するのか何も書いてない。今後の焼却灰排出量と最終処分場の残余容量の相関を明らかにし、どのような問題があるのか、その対策について慎重な検討が事前に必要だ。
今までの老朽化したゴミ焼却施設では、平成五年度の実績値として焼却残さ(灰)は一日平均五・二三トン。これが新型のストーカ炉に更新されると、ゴミ焼却量が一・五倍に増えるとはいえ、焼却灰がそれ以上に増えるのは納得が行かない。
組合の既存の最終処分場は、あと二年で満杯になると言われる。満杯後は新たな処分場を設置しなければならない。既存の処分場の拡張は、周辺をゴルフ場に買収されてしまい、困難になった。まして処分場を新規に設置するにはさらに困難を伴う。
ゴミ焼却施設計画で最も大切なのは、いかに焼却灰を少なくできるか、また、焼却灰の安全性(重金属やダイオキシン等有害物質溶出防止対策)をどこまで追及できるかの二点に尽きる。
それなのに、基本計画ではストーカ式を礼賛する記述ばかりで、環境影響評価書には、焼却灰の安全性格補対策はおろか、最終処分方法をどうするかについても全く記述がない。実効性のない環境影響評価書を書いたコンサルタントに、再度書き直しを命じられたい。
<意見その3>
流動床式では飛灰が主灰より多いのでストーカ式より劣るかのような記述がある。また主灰の熟灼減量に至っては、報告書にはストーカ式の主灰は熟灼減量が大きいので燃焼方式として優れているかのような記述もある。いずれもストーカ式を正当化するための強い意向を持って書いたとしか思えないムチャクチャな説明だ。中立的調査を求める。
<意見その4>
重金属の溶出に関する基本計画報告書の記述は、余りにも無神経で矛盾を含む内容となっている。このような認識で焼却灰を最終処分するのであれば、環境への悪影響は避けられない。流動床式の特徴を見直した上で、再検討すべきだ。
<意見その5>
ゴミ焼却による排ガスの性状については、それが大気中に放出されるため、事前によく検討する必要がある。排ガス処理対策を施すため、最終的な排ガス性状は、排ガス処理設備の方式や性能に大きく左右される。燃焼方式も、詳しく検討し評価すべきだ。報告書には流釣床式のイメージを悪くする意図があり問題だ。改めて中立的調査が必要だ。
<意見その6>
報告書にはストーカ式と流動床式の双方の納入実績が示してあるが並べ方が不自然だ。組合が導入する施設は四五トン炉二基だが、これと同程度の規模のゴミ焼却施設に限って納入実績比較をすべきだ。
<意見その7>
ストーカ炉採用の理由が「現在のゴミ焼却炉がストーカ式」であり、新型の流動床式になると、組合職員が新方式に習熟し難い。昔から馴染んだストーカ炉が無難で安心だ」として、組合職員を過小評価している、今の技術は自動化されており、新技術に挑戦する気概において、組合職員がよそより劣る筈がない。誇れる施設導入のためにも、再度、流動床式を検討されたい。
このように市民からの意見書には、基本計画報告書がストーカ式一辺倒の記述に関する疑問が意見として列挙されましたが、結局これらの意見はことごとく無視されました。
とくに焼却灰の処分と安全性の問題は、当時しっかり検討していれば、灰溶融設備のついた施設を作れたかもしれません。
市が、今ごろになって最終処分場の問題を市民に訴えても、今さらの感があります,問題を先送りして、よけい複雑化させる安中流の手法はここにも見られます。
公正を欠く計画案に疑問を抱いた市民の不安は的中しました。
■案の定、ストーカ式
九五年六月二六日、五一億円事件発覚直後のドサクサのさなかに開催された組合の議会で、ゴミ処理施設(日量九〇トンの焼却炉及び日量二〇トンの破砕機など)の入札結果が承認されました。
その結果、一番札だった(株)タクマが、税込六四億八五九一万円(税抜六二億九九〇〇万円)に発注が決まりました。
二番札は三機工業で税込六四億八七九七万円(税抜六二億九九〇〇万円)で僅か二〇〇万円の差です。
三位以下は川崎重工(六七・八億円)、日立造船(六七・九億円)。富岡市のストーカ式ゴミ焼却場を受注したNKKは、八九・三億円。碓氷川クリーンセンターのし尿処理施設を受注した久保田鉄工は七〇・一億円。ユニチカ(七〇・三億円)、荏原製作所(七〇・七億円)、三菱重工(七〇・九億円)となっています。
ユニチカを除き、すべてストーカ型のメーカーが入札参加しています。どうやら指名競争入札だったようです。
ストーカ炉は大手五社と呼ばれる三菱重工、日立造船、川崎重工、NKK、タクマが全国市場の八割を占めています。三機工業は参入は早かったのですが、波に乗り損ねました、荏原もクボタも水処理関係で培った官庁営業力を発揮して、近年ゴミ処理分野にも積極的です。ユニチカは流動床分野が得意ですが、なぜ今回のストーカ炉の入札に参加したのか分かりません。
最近は、ストーカ炉のメーカーも流動床炉を開発し、両方の焼却炉を作っています。入札でも、焼却炉の形式にはこだわらない自治体が増えています。
■利権が絡み、競争原理働かず
ところで、ゴミ処理施設の導入に際しては、巨額プロジェクトになるためどこの自治体でも必ず利権が絡みます。業者にとっては、首長や議会への.食い込み次第で勝敗が決まります。
そのため、自治体から計画内容を任されるコンサルタント、首長の人脈やフィクサー、助役、議会、その取り巻き連中を事前によく把握して、効率よく営業をしなければなりません。
最近はゴミ処理計画が減り、よほど発注者側の意向が強くない限り、値段の勝負になるケースがグンと増え、予定価格を大きく下回り、納税者にとっては好ましい傾向です。反面、利権のうま味が減ったとぼやく声も政治関係者の間で出ています。
九七年度を例にとると、熊本県天草の日量九三トン流動床炉が五〇億円、同じく熊本県有明の七〇トン・ストーカ炉が三三億円です(いずれも破砕処理など全部含む)。
厚生省の指導もあり、自治体の指名競争入札では、初めから徹底したコストダウンを要求するようになりました。一〇%程度の値下がりは当たり前で、自治体によっては数十%も値下がりする例も出ています(新潟県新津市や茨城県牛久市)。
事実、九四年度はトン当たり平均五〇〇〇万円程度とされていた焼却炉の受注相場が、九七年度では四〇〇〇万円を大きく割り込み、三五〇〇万円というケースも出ています。
■六五億円は適正支出か
原市のゴミ焼却炉には、粗大ゴミ破砕機を含め、総額約六五億円が投じられました。だが、九〇トンのストーカ炉が破砕機込みで六五億円(税技で六三億円)というのは、どう見ても高過ぎます。
三年前の相場、一トン当たり五〇〇〇万円としても、九〇トンで四五億円、破砕設備はせいぜい数億円ですから、全部で五〇億円あれば、メーカーも充分儲かったはずです。
ところがそれよりも一〇億円以上も高い買物です。しかも発電装置や、灰溶融設備は付いていません。当初は余熱を利用して、市民に役立つ施設を作ろうとアイデアも出ましたが、結局何の変哲もないゴミ焼却場になりました。もしゴミ焼却場計画を二年ほど遅らせていれば、もっと良い施設が、もっと安くできたかもしれません。
■利権一〇億のツケは後払い
各地のゴミ処理施設の工事でも、地元の関係業者の起用が絶対条件となり、受注予定企業は、首長や議会などから、そうした圧力が加わるのは定説となっています。同じ様なゴミ処理施設を外国で建設する場合、日本の半分以下です、公害や環境規制レベルなど、一概に比較はできませんが、高価格の理由が政治利権との絡みであることは否定できません。
小川前市長が熱心に取り組んだこのゴミ処分場計画については、市民の間でいろいろな噂が取りざたされてきました。実際に前市長の人脈スジから、そうした流れが読み取れます。前記のように、一〇億円程度のカネ(当会試算)が還流されている可能性もあります。
高い買物でも、それに見合う施設ができれば浮かばれますが、事業費は税金や借金(地方債)で賄われており、結局我々納税者に転嫁されます,これは市民として見逃せないことです。
■最後にひとこと
もうひとつ見逃せないことがあります。平成七年一〇月二日付で公社不祥事件の関係者に対する人事異動が行われた際に、犯人タゴの直属の元上司(当会注:現在、安中市商工会事務局長)は、安中・松井田衛生施設組合に移りました。
この人事異動を知った市民は、当初はゴミ処理業務というイメージから、元直属上司は左遷されたと感じていました。ところが、よその自治体の場合、衛生施設組合で勤務する職員に、ゴミ処理業務というイメージを配慮して、通常の業務に較べて二〇%程度の手当を加算している例があることが分かりました。
同組合の給与の実態は定かでありませんが、もし他の自治体のような優遇措置があるとすれば、元直属上司は「左遷」どころか「論功ごくろうさん人事」となるわけです。
タゴを「俺の舎弟」と呼んでいた元直属上司は、役所内でのウラ人事権を牛耳っているとされ、小川前市長の残した巨額プロジェクトの後始末をする必要があり、事件を口実に自ら同組合に出向したのではないか、という疑惑が払拭できていません。
安中市はゴミ収集の有料化も視野に入れていますが、高い買い物のツケ払いにならないことを祈らずにはいられません。
【情報部・特別取材班】
※1998年当時の資料データ
■安中松井田一般ゴミ最終処分場
【名称】安串・松井田一般廃棄物最終処分場(年金積立金還元融資施設)(管理型処分場)
【所在地】松井田町大字松井田字百八地内
【敷地面積】三〇、〇八四平米
【理立処分地】埋立面積 五、一六〇平米
埋立容量 二二、六〇〇立米
【浸出液処理施設】一日平均浸出流量 二〇立米
一日最大浸出流量 八〇立米
【着工】昭和六一年九月二五日
【竣工】昭和六二年三月一五日
【総事業費】三億九〇八七万三千円
【財源内訳】国庫補助 四七、三九一千円
組合債 二九九、五〇〇千円
一般財源 四三、九九二千円
■安中・松井田衛生施設組合
【設立背景】
昭和三五年一二月設立。安中市・松井田町の事務の一部を処理するため地方自治法第二八四条に規定されている一部事務組合として発足した。
【処理業務】
安中市・松井田町の両市町のし尿及びゴミ処理(一般廃棄物とその事務処理(収集・運搬を除く)。
【組織】管理者(市長)
↓
助役(町長)
↓
収入役(市収入役)
↓
事務局長
総務課
庶務係(6)
業務課
管理係(3)
業務1係(ゴミ処理)(10)
業務2係(し尿処理)(9)
【議会の組織】
議長
↓
副議長
↓
議員(市議会から八名)
議員(町議会から七名)
【予算規模】
平成九年度当初予算一二億七一九七万円のうち五億一五六二万円を安中市及び松井田町の負担金により運営している。負担金分担方法は一〇%を平等割、九〇%を世帯割として按分。
【設備能力】
し尿関係 一日九五キロリットル
ゴミ関係 一日六〇キロリットル
その他 ガラス類、金物類、使用済乾電池
【敷地・建物面積】
し尿・ゴミ処理
敷地 九五六七平方M
建物 六〇一七平方M
最終処分場
敷地 二九九〇六平方M
水処理 一一六平方M
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■このように、当会では、タクマが受注して建設したこのゴミ処理施設については、計画段階から資料を閲覧して、利権の腐臭を感じ取っていました。異常に高い落札額についても、疑問を呈していましたが、やはり裏で談合が行われていたのだということが、当時の当会会報の記事からよく分かります。
【ひらく会情報部】
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六五億円をめぐる利権の産物 懸念されるズサン計画のツケ
公社事件・51億円事件を上回る巨額プロジェクトの後遺症とは
安中・松井田衛生施設組合(管理者・中島博範市長)は平成七年一〇月から、旧し尿処理施設跡地に、新しいゴミ施設(処理能力九〇トン)と、粗大ゴミ処理施設能力二〇トン)の建設を三ヵ年計画で行ってきました。平成九年一二月からの試運転を経て、平成一〇年四月からいよいよ稼働を開始します。今回は、私たちの暮らしに密接な関係を持つ、ゴミ処理施設について、さまざまな観点から考えてみました。
今までのゴミ焼却炉は一九七四年にクボタが作った機械バッチ炉(一回毎にまとめてゴミを入れて燃やす形式で、学校の焼却炉を大型化したもの)で、一日五〇トン強のゴミを能力一五トンの炉四基で処理していました。建設後、二〇年以上経過して老朽化したため、今回の新しいゴミ焼却施設の計画が建てられたものです。
新しい「碓氷川クリーンセンター」は、現在のごみ処理能力の約一・五倍で、約六五億円に上る総事業費は、国からの助成金や起債などで賄われます。処理施設棟の床面積は約五六〇〇平方メートルで、二〇〇四年の安中市、松井田町の想定人口約八万二〇〇〇人をベースに処理能力が計画されました。(計画内容は別項の資料参照)
■ストーカ型と流動床型の争い
ゴミ焼却には「ストーカ炉」と「流動床」の二種類の炉があります。
ストーカ型と呼ばれる炉は、火格子(ストーカ)の上にゴミを乗せて、下から空気を送り込んで燃やします。階段状のストーカはベルトコンベアになっていて、燃えたゴミは順々に炉の奥に運ばれ、最後に灰になって下に落ちる仕掛です。原理は薪ストーブと同じようです。灰が火格子の隙聞から落ちるため、未燃物が多く含まれ、灰の量が多くなります。
流動床型というのは、高温に熟した砂に下から空気を吹き上げ、ゴミは砂に撹拝されるうちに完全燃焼するため、灰がきれいです。また、運転の開始や停止が簡単にできるため、准連続運転と呼ばれる一日一六時間運転に適しています。
ストーカ型も流動床型も、性能、コスト、操作性は大同小異です。ダイオキシン対策は飛灰の少ないストーカ型の方が容易だとされていますが、流動床型も燃焼制御や飛灰処理を工夫しており、両方共、技術的には厚生省の暫定規制値八〇ナノグラムは充分クリアできています。
固形ゴミ処理施設は焼却と破砕から構成されます。この施設の設置には厚生省が管轄しています。発注は下水道のような図面発注ではないため、性能保証が必要です。
■なぜかストーカ型一辺倒
計画は一九九二年頃から本格的に動きだし、コンサルタントにより計画案が九四年六月頃作られました。
計画案の縦覧に先立ち同年一月一日付おしらせ版「あんなか」に、住民への縦覧公告が載りました。
それによると、この縦覧は、安中・松井田衛生施設組合のゴミ焼却場整備計直に伴い、既存の都市計画汚物処理場を廃止し、新たにゴミ焼却場と併せて「その他の処理施設」として都市計画決定をするためのむので、この計画案についてご意見をお持ちの人は、縦覧期間中に市長に意見書を提出することができることが分かりました。
【概要】
◆所在 市内原市宇悪途久保東地内
◆面積 20,189平米
◆施設(1)ゴミ焼却場(処理能力90t/日)
(2)汚物処理場(処理能力90kl/日)
【縦覧期間】11月8日(火)~21日(月)(土・日曜日を除く執務時間内)
【縦覧場所】市建設部都市計画課(西庁舎2階)
さっそく同一八日に計画案を見に行った市民は、その内容に疑問を持ち、次のような意見書を同二一日付けで小川勝寿市長(当時)に提出しました。
尚、縦覧当時、都市計画課には公社事件で有名になった多胡邦夫が公社併任職員として在籍していましたが、ちょうど同年一〇月から一二月にかけて、小川前市長の「特命」で東京の広尾にある自治大学校で研修のため不在でした。その頃タゴは財布を膨らまし、毎晩のように赤坂や銀座に繰り出して、時には安中から「激励」に駆けつけた市議会議員らを連れて、夜の研修にも励んでいたことは周知のとおりです。
■無視された住民意見書
<意見その1>
焼却方式について、基本計画報告書はストーカ式採用を正当化するような記述内容なのがたいへん気にかかる。再度慎重に検討すべきだ。
九四年六月付の(株)総合エンジニアリング作成の「基本計画報告書」に基本計画が示されている。同社は環境分野で著名なコンサルタント会社だが、同社の報告書における焼却炉方式(ストーカ式と流動床式)の比較表を見る限り、とても公平中立な立場の記述ではない。
結論として、明らかにストーカ式に既に決まっている感じ。コンサルタントは顧客の同組合や安中市に対して最適な方式を選定すべきだが、流動式のマイナス面ばかり強調している。
一方、ストーカ式のマイナス面は示していない,流動床式は多様なゴミ質に対応でき、発熱量の大きなブラスチック類にも適し、運転の立ち上げも容易だ。
本件では当初、ストーカ式と流動床式のメーカー同士が、熾烈な売り込みをしていたが、コンサルタントが報告書を書き上げる前に、既にストーカ式に決まるという噂が出ていた。やはりウラで決まっていたらしい。
<意見その2>
計画では処理フローとして焼却灰の予想最終処分量(平成一六年ベース)が日量10・21トンと記されているが、環境影響評価書には焼却灰をどのように処分するのか何も書いてない。今後の焼却灰排出量と最終処分場の残余容量の相関を明らかにし、どのような問題があるのか、その対策について慎重な検討が事前に必要だ。
今までの老朽化したゴミ焼却施設では、平成五年度の実績値として焼却残さ(灰)は一日平均五・二三トン。これが新型のストーカ炉に更新されると、ゴミ焼却量が一・五倍に増えるとはいえ、焼却灰がそれ以上に増えるのは納得が行かない。
組合の既存の最終処分場は、あと二年で満杯になると言われる。満杯後は新たな処分場を設置しなければならない。既存の処分場の拡張は、周辺をゴルフ場に買収されてしまい、困難になった。まして処分場を新規に設置するにはさらに困難を伴う。
ゴミ焼却施設計画で最も大切なのは、いかに焼却灰を少なくできるか、また、焼却灰の安全性(重金属やダイオキシン等有害物質溶出防止対策)をどこまで追及できるかの二点に尽きる。
それなのに、基本計画ではストーカ式を礼賛する記述ばかりで、環境影響評価書には、焼却灰の安全性格補対策はおろか、最終処分方法をどうするかについても全く記述がない。実効性のない環境影響評価書を書いたコンサルタントに、再度書き直しを命じられたい。
<意見その3>
流動床式では飛灰が主灰より多いのでストーカ式より劣るかのような記述がある。また主灰の熟灼減量に至っては、報告書にはストーカ式の主灰は熟灼減量が大きいので燃焼方式として優れているかのような記述もある。いずれもストーカ式を正当化するための強い意向を持って書いたとしか思えないムチャクチャな説明だ。中立的調査を求める。
<意見その4>
重金属の溶出に関する基本計画報告書の記述は、余りにも無神経で矛盾を含む内容となっている。このような認識で焼却灰を最終処分するのであれば、環境への悪影響は避けられない。流動床式の特徴を見直した上で、再検討すべきだ。
<意見その5>
ゴミ焼却による排ガスの性状については、それが大気中に放出されるため、事前によく検討する必要がある。排ガス処理対策を施すため、最終的な排ガス性状は、排ガス処理設備の方式や性能に大きく左右される。燃焼方式も、詳しく検討し評価すべきだ。報告書には流釣床式のイメージを悪くする意図があり問題だ。改めて中立的調査が必要だ。
<意見その6>
報告書にはストーカ式と流動床式の双方の納入実績が示してあるが並べ方が不自然だ。組合が導入する施設は四五トン炉二基だが、これと同程度の規模のゴミ焼却施設に限って納入実績比較をすべきだ。
<意見その7>
ストーカ炉採用の理由が「現在のゴミ焼却炉がストーカ式」であり、新型の流動床式になると、組合職員が新方式に習熟し難い。昔から馴染んだストーカ炉が無難で安心だ」として、組合職員を過小評価している、今の技術は自動化されており、新技術に挑戦する気概において、組合職員がよそより劣る筈がない。誇れる施設導入のためにも、再度、流動床式を検討されたい。
このように市民からの意見書には、基本計画報告書がストーカ式一辺倒の記述に関する疑問が意見として列挙されましたが、結局これらの意見はことごとく無視されました。
とくに焼却灰の処分と安全性の問題は、当時しっかり検討していれば、灰溶融設備のついた施設を作れたかもしれません。
市が、今ごろになって最終処分場の問題を市民に訴えても、今さらの感があります,問題を先送りして、よけい複雑化させる安中流の手法はここにも見られます。
公正を欠く計画案に疑問を抱いた市民の不安は的中しました。
■案の定、ストーカ式
九五年六月二六日、五一億円事件発覚直後のドサクサのさなかに開催された組合の議会で、ゴミ処理施設(日量九〇トンの焼却炉及び日量二〇トンの破砕機など)の入札結果が承認されました。
その結果、一番札だった(株)タクマが、税込六四億八五九一万円(税抜六二億九九〇〇万円)に発注が決まりました。
二番札は三機工業で税込六四億八七九七万円(税抜六二億九九〇〇万円)で僅か二〇〇万円の差です。
三位以下は川崎重工(六七・八億円)、日立造船(六七・九億円)。富岡市のストーカ式ゴミ焼却場を受注したNKKは、八九・三億円。碓氷川クリーンセンターのし尿処理施設を受注した久保田鉄工は七〇・一億円。ユニチカ(七〇・三億円)、荏原製作所(七〇・七億円)、三菱重工(七〇・九億円)となっています。
ユニチカを除き、すべてストーカ型のメーカーが入札参加しています。どうやら指名競争入札だったようです。
ストーカ炉は大手五社と呼ばれる三菱重工、日立造船、川崎重工、NKK、タクマが全国市場の八割を占めています。三機工業は参入は早かったのですが、波に乗り損ねました、荏原もクボタも水処理関係で培った官庁営業力を発揮して、近年ゴミ処理分野にも積極的です。ユニチカは流動床分野が得意ですが、なぜ今回のストーカ炉の入札に参加したのか分かりません。
最近は、ストーカ炉のメーカーも流動床炉を開発し、両方の焼却炉を作っています。入札でも、焼却炉の形式にはこだわらない自治体が増えています。
■利権が絡み、競争原理働かず
ところで、ゴミ処理施設の導入に際しては、巨額プロジェクトになるためどこの自治体でも必ず利権が絡みます。業者にとっては、首長や議会への.食い込み次第で勝敗が決まります。
そのため、自治体から計画内容を任されるコンサルタント、首長の人脈やフィクサー、助役、議会、その取り巻き連中を事前によく把握して、効率よく営業をしなければなりません。
最近はゴミ処理計画が減り、よほど発注者側の意向が強くない限り、値段の勝負になるケースがグンと増え、予定価格を大きく下回り、納税者にとっては好ましい傾向です。反面、利権のうま味が減ったとぼやく声も政治関係者の間で出ています。
九七年度を例にとると、熊本県天草の日量九三トン流動床炉が五〇億円、同じく熊本県有明の七〇トン・ストーカ炉が三三億円です(いずれも破砕処理など全部含む)。
厚生省の指導もあり、自治体の指名競争入札では、初めから徹底したコストダウンを要求するようになりました。一〇%程度の値下がりは当たり前で、自治体によっては数十%も値下がりする例も出ています(新潟県新津市や茨城県牛久市)。
事実、九四年度はトン当たり平均五〇〇〇万円程度とされていた焼却炉の受注相場が、九七年度では四〇〇〇万円を大きく割り込み、三五〇〇万円というケースも出ています。
■六五億円は適正支出か
原市のゴミ焼却炉には、粗大ゴミ破砕機を含め、総額約六五億円が投じられました。だが、九〇トンのストーカ炉が破砕機込みで六五億円(税技で六三億円)というのは、どう見ても高過ぎます。
三年前の相場、一トン当たり五〇〇〇万円としても、九〇トンで四五億円、破砕設備はせいぜい数億円ですから、全部で五〇億円あれば、メーカーも充分儲かったはずです。
ところがそれよりも一〇億円以上も高い買物です。しかも発電装置や、灰溶融設備は付いていません。当初は余熱を利用して、市民に役立つ施設を作ろうとアイデアも出ましたが、結局何の変哲もないゴミ焼却場になりました。もしゴミ焼却場計画を二年ほど遅らせていれば、もっと良い施設が、もっと安くできたかもしれません。
■利権一〇億のツケは後払い
各地のゴミ処理施設の工事でも、地元の関係業者の起用が絶対条件となり、受注予定企業は、首長や議会などから、そうした圧力が加わるのは定説となっています。同じ様なゴミ処理施設を外国で建設する場合、日本の半分以下です、公害や環境規制レベルなど、一概に比較はできませんが、高価格の理由が政治利権との絡みであることは否定できません。
小川前市長が熱心に取り組んだこのゴミ処分場計画については、市民の間でいろいろな噂が取りざたされてきました。実際に前市長の人脈スジから、そうした流れが読み取れます。前記のように、一〇億円程度のカネ(当会試算)が還流されている可能性もあります。
高い買物でも、それに見合う施設ができれば浮かばれますが、事業費は税金や借金(地方債)で賄われており、結局我々納税者に転嫁されます,これは市民として見逃せないことです。
■最後にひとこと
もうひとつ見逃せないことがあります。平成七年一〇月二日付で公社不祥事件の関係者に対する人事異動が行われた際に、犯人タゴの直属の元上司(当会注:現在、安中市商工会事務局長)は、安中・松井田衛生施設組合に移りました。
この人事異動を知った市民は、当初はゴミ処理業務というイメージから、元直属上司は左遷されたと感じていました。ところが、よその自治体の場合、衛生施設組合で勤務する職員に、ゴミ処理業務というイメージを配慮して、通常の業務に較べて二〇%程度の手当を加算している例があることが分かりました。
同組合の給与の実態は定かでありませんが、もし他の自治体のような優遇措置があるとすれば、元直属上司は「左遷」どころか「論功ごくろうさん人事」となるわけです。
タゴを「俺の舎弟」と呼んでいた元直属上司は、役所内でのウラ人事権を牛耳っているとされ、小川前市長の残した巨額プロジェクトの後始末をする必要があり、事件を口実に自ら同組合に出向したのではないか、という疑惑が払拭できていません。
安中市はゴミ収集の有料化も視野に入れていますが、高い買い物のツケ払いにならないことを祈らずにはいられません。
【情報部・特別取材班】
※1998年当時の資料データ
■安中松井田一般ゴミ最終処分場
【名称】安串・松井田一般廃棄物最終処分場(年金積立金還元融資施設)(管理型処分場)
【所在地】松井田町大字松井田字百八地内
【敷地面積】三〇、〇八四平米
【理立処分地】埋立面積 五、一六〇平米
埋立容量 二二、六〇〇立米
【浸出液処理施設】一日平均浸出流量 二〇立米
一日最大浸出流量 八〇立米
【着工】昭和六一年九月二五日
【竣工】昭和六二年三月一五日
【総事業費】三億九〇八七万三千円
【財源内訳】国庫補助 四七、三九一千円
組合債 二九九、五〇〇千円
一般財源 四三、九九二千円
■安中・松井田衛生施設組合
【設立背景】
昭和三五年一二月設立。安中市・松井田町の事務の一部を処理するため地方自治法第二八四条に規定されている一部事務組合として発足した。
【処理業務】
安中市・松井田町の両市町のし尿及びゴミ処理(一般廃棄物とその事務処理(収集・運搬を除く)。
【組織】管理者(市長)
↓
助役(町長)
↓
収入役(市収入役)
↓
事務局長
総務課
庶務係(6)
業務課
管理係(3)
業務1係(ゴミ処理)(10)
業務2係(し尿処理)(9)
【議会の組織】
議長
↓
副議長
↓
議員(市議会から八名)
議員(町議会から七名)
【予算規模】
平成九年度当初予算一二億七一九七万円のうち五億一五六二万円を安中市及び松井田町の負担金により運営している。負担金分担方法は一〇%を平等割、九〇%を世帯割として按分。
【設備能力】
し尿関係 一日九五キロリットル
ゴミ関係 一日六〇キロリットル
その他 ガラス類、金物類、使用済乾電池
【敷地・建物面積】
し尿・ゴミ処理
敷地 九五六七平方M
建物 六〇一七平方M
最終処分場
敷地 二九九〇六平方M
水処理 一一六平方M
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■このように、当会では、タクマが受注して建設したこのゴミ処理施設については、計画段階から資料を閲覧して、利権の腐臭を感じ取っていました。異常に高い落札額についても、疑問を呈していましたが、やはり裏で談合が行われていたのだということが、当時の当会会報の記事からよく分かります。
【ひらく会情報部】
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