きつねのおきゃくさま/作:あまん きみこ 絵:二俣 英五郎/サンリード/2001年初版
教育出版の二年生の国語にのっていたので、図書館からかりました。
先生による指導の記録もあり、絵本ナビには60人をこえる感想があります。
教科書にのるだけあって、読んだときの子どもたちの感想をひきだすにはぴったりのようです。
こんな話を語る人がいても不思議ではないのですが、なぜか聞いたことがありません。
教科書にのっているので、話しにくいかもしれませんが、他の出版社の教科書では、取り上げられていないので、ぜひ聞きたいもの。
図書館から借りてきて読んだ絵本のなかでは、相当の人気があるようです。
2015年7月9日、勉強会でこの話を語ってみました。
昨日の小学校の授業で、この話の音読を聞かれた方がいて、この時期に小学校でとりあげられていることがわかりました。
いつもはどんなに短くても一つの話を覚えるのに2か月以上は必要ですが、この話は2週間で覚えることができました。
やはり魅かれる話だと覚えやすいようです。
「むかしむかしあったとさ」からはじまって、最後は「とっぴんぱらりのぷう」でおわる昔話風なので、よけいにそうなのかもしれません。
この話は、心理劇風でもあり、芝居にしてもおかしくありません。
(おぼえるために書き写してみました。絵本版のものです)
むかし むかし あったとさ。
はらぺこきつねが あるいていると、やせた ひよこが やってきた。
がぶりと やろうと おもったが、やせているので かんがえた。
ふとらせてから たべようと。
そうとも。よく ある、よく ある ことさ。
「やあ ひよこ」
「やあ きつねおにいちゃん」
「おにいちゃん? やめてくれよ」
きつねは ぶるると みぶるいした。
でも ひよこは、目を まるくして いった。
「ねえ、おにいちゃん。どこかに いい すみか ないかなあ。こまってるんだ」
きつねは こころの なかで、にやりと わらった。
「よし よし、おれの うちに きなよ」
すると ひよこが いったとさ。
「きつねおにいちゃんって やさしいねえ」
「やさしい? やめてくれったら、そんなせりふ」
でも きつねは うまれてはじめて 「やさしい」なんていわれたので、すこし ぼうっとなった。
ひよこを つれてかえる とちゅう
「おっとっと おちつけ おちつけ」
きりかぶに つまづいて、ころびそうに なったとさ。
きつねは ひよこに、それは やさしく たべさせた。
そして、ひよこが 「やさしい おにいちゃん」というと、ぼうっと なった。
ひよこは まるまる ふとってきたぜ。
あるひ、ひよこが さんぽに いきたいと いいだした。
――はあん。にげるきかな。
きつねは、そうっと ついていった。
ひよこが はるの うたなんか うたいながら あるいていると、やせた あひるが やってきたとさ。
「やあ、ひよこ。どこかに いい すみかはないかなあ。こまっているんだ」
「あるわよ。きつねおにいちゃんちよ。あたしと いっしょに いきましょ」
「きつね? とおんでもない。 がぶりと やられるよ」
と、あひるが いうと、ひよこは くびを ふった。
「ううん。きつねおにいちゃんは、とっても しんせつなの」
それを かげで きいた きつねは うっとりした。
そして 「しんせつな きつね」という ことばを 五回も つぶやいたとさ。
さあ、そこで いそいで うちに かえると、まっていた。
きつねは、ひよこと あひるに、それは しんせつだった。
そして、ふたりが 「しんせつな おにいちゃん」の はなしを しているのを きくと、ぼうっと なった。
あひるも まるまる ふとってきたぜ。
あるひ、ひよこと あひるが さんぽに いきたいと いいだした。
――はあん。にげるきかな。
きつねは、そうっと ついていった。
ひよこと あひるが なつの うたなんか うたいながら あるいていると、やせた うさぎが やってきたとさ。
「やあ、ひよこと あひる。どこかに いい すみかはないかなあ。こまっているんだ」
「あるわよ。きつねおにいちゃんちよ。あたしたちと いっしょに いきましょ」
「きつねだって? とおんでもない。 がぶりと やられるぜ」
「ううん。きつねおにいちゃんは、かみさまみたいなんだよ」
それを かげで きいた きつねは うっとりして、きぜつしそうに なったとさ。
そこで きつねは ひよこと あひると うさぎを、そうとも、かみさまみたいに そだてた。
そして、三人が、「かみさまみたいな おにいちゃん」の はなしを していると、ぼうっと なった。
うさぎも まるまる ふとってきたぜ。
あるひ。
くろくも山の おおかみが おりてきたとさ。
「こりゃ、うまそうな においだねえ。ふん ふん、ひよこに あひるに うさぎだな。」
「いや、まだ いるぞ。きつねが いるぞ。」
きつねの からだに ゆうきが りんりんと わいた。
おお、たたかったとも、たたかったとも。
じつに じつに いさましかったぜ。
そして、おおかみは、とうとう にげていったとさ。
そのばん。
きつねは、はずかしそうに わらって しんだ。
まるまる ふとった ひよこと あひると うさぎは、にじの もりに ちいさい おはかを つくった。
そして、せかいいち やさしい しんせつな、かみさまみたいな そのうえ ゆうかんな きつねのために なみだを ながしたとさ。
とっぴんぱらりの ぷう。
「きつねは、はずかしそうに わらって しんだ。」のですが、なぜ恥ずかしかったのでしょうか。
ひよこ、あひる、うさぎをオオカミから救ったきつねは、自分を犠牲にしています。
信頼され、ほめられてきつねの気持ちがかわってきたのですが本当はどうだったのでしょうか。
ひよこは本当に一点の曇りもなくきつねを信頼したのでしょうか。
素直にうけとるのが一番でしょうが、疑問をもつと、またちがった意味合いが生まれてきそうです。