徳島のむかし話/徳島県教育会編/日本標準/1978年
村の若者が力自慢しているところへとおりかかった七兵衛さんが、力比べを提案します。
河原にころがっている同じような大石を山の中腹まで運びあげ、いちばんはやく運びあげた者が一番の力持ちという。
十人の若者が一斉に大石をかかえ上げ、のぼりはじめますが、なにしろ両手でやっと、かかえるぐらいの石で、若者たちは、とちゅうで一休み。そこへ七兵衛さんがやってきて、はっぱをかけ、ようやく十人が十人とも山の窪地に石を運び上げた。
七兵衛さんが「みんな力が強い。一番二番と順番はついても、ちょっとの違い。いやみんなの強いのに感心したわい」というと若者たちはにこにこして大喜び。
それから、気をよくした若者に、一か所へ四角に石を積んでもらった七兵衛さん。やがてそこへ庚申さんをお祭りします。
じつは、この石運びは、はじめから庚申さんを祭るための七兵衛さんの計略。若者たちをおだてて、お金を使わず高いところまで石をはこばせた。今も為後山にある庚申さんは、こうしてできたのじゃと。
*庚申さん(目、耳、口の災難をまぬがれる祭られた神さまで、これを祭った庚申塚。)
お年寄りの知恵には含蓄があります。