ヤニス・クセナキス:
・エオンタ
指揮:コンスタンティン・シモノヴィッチ
ピアノ:高橋悠治
パリ現代音楽器楽アンサンブル
・メタスタシス
・ピソプラクタ
指揮:モーリス・ル・ルー
フランス国立放送オーケストラ
LE CHANT DU MONDE: LDC 278 368
クセナキスだけど癖は有ります。その音楽はちょっと聴くとあまりにもメチャクチャなのです。作曲家の吉松隆氏は特にクセナキスの音楽をボロクソに叩いておりますが、あまりに叩いているのでむしろ好きなんじゃないか、と勘ぐってしまいます。
ギリシャ系フランス人のクセナキスはメシアンに弟子入りし、得意の数学を音楽に応用しろとのアドバイスを受けてコンピュータに確率計算をさせて作った音楽を発表してきました。その音楽は「メタ音楽(超音楽)」を指向していると言われています。メタ音楽とは、音楽作品自身が音楽の外部の視点を持ち、音楽そのものに対してツッコミを入れるような音楽と言えるでしょう。
このディスクの目玉は一曲目の『エオンタ(存在するもの)』でしょう。クセナキスの弟子であった高橋悠治が超絶技巧でピアノ演奏しています。ピアノの他には2本のトランペットと3本のトロンボーン。この曲もコンピュータの計算で作られた部分があるそうですが、具体的にどの部分かまではわかりません。曲は数分単位の構造に分割されていて、それぞれ特徴的なキャラクターを持っており、通して聴くと何かの群像を見ているような印象を受けます。ピアノパートはデタラメを弾いているように聴こえますが、ちゃんと一音一音正確に楽譜に書かれているのが笑えます。
動画はライブの様子。全2部構成で、第2部は12:40から。録音のせいかピアノのアーティキュレーションがやや不鮮明なのは残念。金管楽器奏者がウロウロしたりくるくる回ったり集まったりして、空間的な音場までデザインされているのがわかります。
他の2曲『メタスタシス(弁証法的変換)』および『ピソプラクタ(確率による行為)』はクセナキス初期のオーケストラによる作品。ペンデレツキやリゲティが用いたトーン・クラスターという技法の原型の一つとされています。『メタスタシス』はクセナキスの出世作。様々な打楽器の信号音に導かれて、弦楽器の音程域が拡大・収縮・蛇行していくのが聴きどころ。合いの手を入れているような金管楽器パートも気になる存在。『ピソプラクタ』も類似の作品ですが、弦楽器の胴体を手でパタパタと叩く音が電気パルスのよう。
私にとってクセナキスの作品は、「音素材(音程、音色など無限のバリエーションがある)」と「時間」からなる無限次元の連続体が存在するとして、そこに任意の角度で切り口を作ったときの断面であるような感じを受けます。「普通」の音楽はその連続体に入れる切り口の角度が余りにも限定されすぎているような気がします。普通の音楽とクセナキスの音楽はまるで違うもののように聴こえますが、無限次元の連続体までさかのぼると、その両者は切り口の角度がほんの少し違うだけなのではないかと思ってしまうのです。
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