第247回 2020年3月10日 「薫る伝統の和テイスト~香川 木製品~」リサーチャー: 野村佑香
番組内容
江戸時代より城下町として栄えた香川県高松市。風土と歴史が育んだ木製品を紹介する。和三盆を作る道具の菓子木型。木に精密な彫りを施して、立体感、そして使いやすさを追求している。松ヤニを多く含む「肥松」と呼ばれる黒松を使い、木の温もりが伝わるボウル。塗料を使わず、木目の美しさが際立っている。欄間彫刻の端材を利用し出来たボールペン。曲線を描くフォルムが印象的だ。木製品の魅力と職人の技に野村佑香さんが迫る。
*https://www.nhk.or.jp/archives/chronicle/detail/?crnid=A202003101930001301000 より
1.菓子木型(「木型工房 市原」伝統工芸士・市原吉博さん)
「菓子木型」とは、和菓子職人さんが和菓子を成型する際に用いる木型のことです。
決して表に出ない和菓子文化の裏方的な存在ですが、優美な和菓子作りには欠かせない大切なものです。
そんな「菓子木型」を作る職人は減少の一途を辿っており、現在、この菓子木型を制作している職人は日本全国で数人のみ。
四国では、市原吉博(いちはら よしひろ)さんがたった一人の菓子木型職人です。
市原さんは、24歳の時に家業の木型の卸業に従事。
最初は営業を担当していましたが、お客さんの「ちょっと欠けたから直してくれ」という声に応えるために、28歳頃から小さな修理から彫る仕事を始め、これまでに1000以上の木型を手掛けてきました。
平成11(1999)年香川県の伝統工芸品に「菓子木型」が指定された時に県の伝統工芸士の認定を受けました。
更に、平成16(2004)年には「現代の名工」、平成18(2006)年には「黄綬褒章」を拝受しました。
市原さんが「菓子木型」に使う材料は「山桜」です。
樹齢100年を超える「山桜」を採ってから2年乾燥させた後、更に3年間寝かせたものです。
それほどまでして、「山桜」を使うのには理由があります。
木には、根から吸収した水分を枝葉に送る「導管」(どうかん)と呼ばれる、人間でいうところの「血管」の役割を果たす管があります。
「山桜」はゆっくりと時間をかけて育つため、この「導管」が非常に細く、菓子の抜けが良くなります。
こうして十分に乾燥させた「山桜」を市原さんは何種類ものノミや彫刻刀を使い分け、左右と凹凸を逆に彫っていきます。
木型からお菓子が抜けやすいように僅かな高低差をつけて立体感を生み出さなくてはならないため、美しい型を作るためには熟練の技が必要です。
完成した木型を2枚重ね合わせて、砂糖や餡(あん)などの材料を入れて抜き出すと様々な形の和菓子が出来上がります。
木型工房 市原 香川県高松市花園町1丁目7番30号
2.肥松(「クラフト・アリオカ」有岡成員さん)
寛永19(1642)年、水戸徳川家から松平頼重(よりしげ)が讃岐高松の地に入封。
その後の歴史藩主は、数々の名工、名匠を育て、その下で文化芸術が花開き、文化的風土が培われました。
茶道、華道、俳諧等が育まれ、工芸も盛んになりました。
国指定の伝統工芸「香川漆器」もそのひとつで、意匠を凝らしたものは幕府の献上品にもなりました。
気候が温暖で雨の少ない香川は「黒松」が育ちやすい環境です。
中でも、樹齢300年を超え、良質な松ヤニを含んだ中心部分「肥松」(こえまつ)だけで作られたものを
「肥松木工品」(こえまつもっこうひん)と言います。
油分を多く含むため光沢があり、光にかざすと赤く透けます。
木目にも変化があるため、彩色を施さず自然の木地のまま仕上げます。
使用する毎に手触りが良くなり、年月を経るほどに更に艶が出て、美しい赤茶色に変化するのも特徴です。
そのため「肥松木工品」は江戸時代から作られており、茶人などに愛好されていたようです。
そんな「肥松」を使用した木工品を作っているのが、高松市内に工房をもつ「クラフト・アリオカ」です。
初代・有岡良益さんは、最初は輸入木材を加工して外国に売っていましたが、やがて国内の木の加工をろくろで始めるようになります。
そのうち香川の漆芸を再興させた人間国宝の磯井如真(いそい じょしん)に腕を買われ、香川の「肥松」を継承し、香川の木工の先駆者として活躍しました。
2代目の有岡成員(ありおか しょういん)さんはこれを受け継ぎ、県指定の伝統的工芸品「肥松木工品」の職人として木の温もりが伝わるボウルをつくっています。
塗料を使わなくても、木目の美しいボウルです。
工房では、香川でしか使われていないという「讃岐式のろくろ」がカタカタと鳴り響いていました。
三種類のスピードを伝えるベルトを手で操りながらその都度速度を変え、回転する木に鉋(かんな)の刃を当てて削り出していきます。
「肥松」は油分を多く含む特性のため、加工が非常に難しく、高い技術が必要となります。
ですが有岡さんは、「肥松」にしかない唯一無二の表情を得るために、手間を惜しみません。
そして木目を活かすために漆は塗らず、金属加工に使う道具で表面を滑らかに整えていきました。
現在、樹齢300年を超える「黒松」はほぼ入手出来ない状況にあります。
もしあったとしても、「肥松」を仕上げるには、油分の多い材のため、自然乾燥させるだけでも、切り出してから20年間以上は寝かせないと使用することは出来ません。
有岡さんは、お父様がストックしていた「肥松」を使って美しいボウルを作り続けていらっしゃいます。
クラフト・アリオカ 香川県高松市勅使町1007番地1
3.朝倉彫刻店(朝倉準一さん)
朝倉彫刻店は欄間彫刻を営んでいます。
欄間彫刻で培った知識と技術を活かして、多様な樹種のお箸や箸置き、ボールペンなどの小物も制作、販売しています。
ボールペンは曲線を描くフォルムが印象的です。
朝倉彫刻店 香川県高松市松福町1丁目3-44
*https://omotedana.hatenablog.com/entry/Ippin-Kagawa-wood より
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