出所した中年男アランが、老いた母親イヴェットの元に身を寄せる。
しかし思うように仕事は決まらず、母とは不機嫌にぶつかりあうばかり。
いたたまれず家を出たものの、隣人の老人の好意で置いてもらう始末だ。
自分が長年いっしょに暮らしかわいがっていた犬を殺して
ひと芝居うってまで息子を取り戻そうとした母の思い。
そんな母が末期がんの治療を拒み、
スイスの施設で尊厳死の契約をしているなんて。
息子はその事実を知っても止めることはできない。
母の淡々としたくらしぶり。
毎日、掃除や洗濯を静かにいつも通りこなしてゆく。
りんごの傷や虫食いをナイフでえぐっては皮をむき
隣人に頼まれたコンポートを作る。
彼女の人生は人生そのもので
幸福と言う縁取りはなかったのかもしれない。
私の思っていた尊厳死という言葉の印象とは違って
本当に薬を2種類飲んだだけのあっけない死に方だった。
ふがいない息子は、自分の生き方しかできなかった母の子育ての結果だと思う。
気難しい夫とこの母のもとで息子はどんなふうに育ってきたのだろう。
傷つき傷つけあい、遠ざかってを繰り返してきたのだろうか。
誰もあてにできない母にとっての息子はどんな存在だったのか。
母が尊厳死を選んでまで
息子に伝えたかったことがあったのかもしれないが
私にはやはり理解できない。
愛する息子に立ち直ってほしかったとしても
苦しむ自分の姿を見せたくなかったとしても
息子に負担をかけたくなかったとしてもだ。
息子のいる私には彼女の気持ちもわかるのだが
ふがいない息子への愛情の表現が違うのだろうか。
日本人の私には納得がいかない結末の映画だった。