時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

カードゲーム・いかさま師物語(7):ギャンブルへの視点(3)

2015年03月15日 | いかさま師物語

 


15世紀、バックギャモンなどの賭博を戒める版画

Rest on Sunday, from die Zehn Gebote (Book of the Ten Commandaments by Johannes Glffcken, 15th century woodcut. Universitatsbibliothek Heidelberg, Germany


忍び込むギャンブル性
 カードゲームは歴史の古いドミノ,バックギャモンなどと並んで、当初はゲームの勝敗だけを楽しんでいたものだったが、まもなくギャンブル(賭博、博打)の対象となる。たとえば、アウグスブルグでは14世紀半ば、すでに詐欺が窃盗に次ぐ犯罪となっていた。


 ギャンブルは
15世紀くらいから急速にヨーロッパ社会に拡大・浸透していった。ルネサンス期にはヨーロッパの全域でギャンブルの手段となっていた。小さな事では町中の居酒屋やカフェでビールや小銭を賭ける程度から始まったのだろう。この時期にはギャンブルをしない者はいないといわれるほど、ヨーロッパのいたるところで行われていた。

  


After Lucas van leiden(c.1494-1533),
The Card Players, c.1550-99. Oil on panel,
55.2 x 60.9cm, National Gallery of Art,+
Washington, D.C. Samuel H. Kress Collection. 

  一例としての上掲の作品は制作年次は16世紀後半と推定されるが、比較的良い身なりの男女がカードをプレーしている。しかし、中心に座る主役らしき女性を囲み、カラヴァッジョ、ラ・トゥールなど後年の画家たちの作品に登場する詐欺的行為を思わせる描写である。


 絶え間ない戦争や悪疫の流行などを背景に、社会が荒廃し、聖職者や貴族の世界ではかなり大きな金品が賭けられていたようだ。目に余る状況などもあって、教皇クレメントVIII世がその横行ぶりに警告を発しても、前回のデル。モンテ枢機卿の例のごとく、金銭を賭けたカードゲームは、宮廷や教会の裏側では日常的な娯楽になっていた。


カラヴァッジョ肖像画
Ottavio L
eon (italian, 1578-1630), Portrait of Caravaggio, c.1621,
red and black chalk with white heightening on blue paper,
23.4 x 16.3cm, Biblioteca Marucelliana, Florence

  カラヴァッジョは生涯に殺人など多くの問題を起こし、非業の最後を遂げたが、デル・モンテ卿には多くの擁護を受けたことを忘れなかったろう。ギャンブルがあるところには、詐欺や だましが生まれた。さらに、組織的詐欺がフランス、イタリアで問題となっていた。盗賊、詐欺師のグループが現れていたのだ。

  カードゲームの情景が絵画の主題として登場することも多くなった。それも単にゲームを楽しんでいるという光景ではなく、ギャンブル、詐欺といった犯罪の要素が入りこんでいることが分かる。その光景を最も鮮明に描いたのが、カラヴァッジョであった。カラヴァッジョがローマに出てきたのは1592年であり、1606年には殺人の罪を犯して逃亡、漂泊の旅に出た。ローマにいたのは15年にも満たない年月であった。この期間にカード詐欺、占い師などを題材に名作を残した。

底流にあった「放蕩息子」の寓話
 カード詐欺のプロット自体は古く遡る。若く,ハンサムで,ナイーブさを残し、上等な衣服を着ている貴族の子弟などが世俗の世界に入り、財産を失ってしまう、放蕩息子(ルカ伝15:II)の寓話である。ほとんどのギャンブル、詐欺、ジプシーの占い師などに関わる話の根底に流れている。話の内容は画題にしやすいにもかかわらず、16世紀になって本格的に取り上げられた。最初は北方の画家ルーカス・ファン・ライデンやフランツ フランケンII などの手によるものだった。

 イタリアでは次第に聖書の寓話の枠を離れて、世俗画の画題に移行していた。デル・モンテ枢機卿に買い上げられたカラヴァッジョの作品はその後19世紀末になると、作品の所在が不明になり、変わって30点余りの模写などの作品が出回り始めた。

  カラヴァッジョの『カード詐欺師』は、bravo(暴漢、刺客)、富裕な兵士、ローマの貴族の服装で描かれており、彼らは1590年代のローマの街を徘徊していた悪名高い存在であった。画家自身がそうした仲間とともに、画業を続けていた。

 彼らは武器の携行を許され、帯刀していた。町中で乱暴狼藉を繰り返し、カードやダイスで賭博をおこなっていた。ジョバンニ・ガルダーノは、そうした男たちを念頭に描いた書物を17世紀に出版している。そして彼らは熟練、ごまかしの技術に長けているので、相手としてプレーしないよう戒めている。

 このキンベル美術館が誇る所蔵品の一枚については、次回以降記すことにしたい。

 

 

 続く

 

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