田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

蝙蝠の助け/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-06-24 02:49:58 | Weblog
蝙蝠の助け

10

翔子の左肩の傷口が開いてしまった。
また血が滲みだした。
目ざとくそれを見て純が「引こう」と翔子にささやく。
離れているので声はとどかない。
大声をだすわけにはいかない。
こちらの退路を断たれる恐れがある。
黒装束も黒犬も黙々と迫ってくる。
数がおおすぎる。
紅子。
芝原と柴山。
GG。
純と翔子。
こちらは六人だ。
ナイフと牙は増えつづける。
切り倒す数より、街からもどってくる員数のほうが多いのだから始末に悪い。
そして多勢に無勢のこちらは疲労が加速する。
やがて、動けなくなるだろう。
抜け穴の入り口に向かって後退する純はハッと固まった。
敵は街から抜け穴を使って戻ってきていた。
あたりまえだ。そのために、街と墓地をつなぐためにある抜け穴だ。
味方を穴の入口に誘導できなくなった。
翔子ともまた離れてしまった。

「翔子。どこだ?! 翔子」

純の声をきいてGGが敵を切りたてながら必死でこちらによってくる。

「ここよ」

おもわぬところで翔子の声がした。
遠くばかり見ていた。
翔子は意外と近くで戦っていた。
背中あわせになった。
「純こそダイジョウブ」
「いっしょにたたかえてたのしいよ」
「わたしも。うれしい。このまま死んでもいい」
「なにを不吉なこと」とGG。
しぜんと紅子たちも寄ってきた。
サークルをつくって敵に対した。
紅子が超音波をさきほどから発しつづけている。
だがすこしちがう。なにものかに呼びかけている。
すると、このとき――薄闇の空が月光をはばまれたのでほとんどまっくらになった。
蝙蝠の大群だった。

「もう、おそいわよ。でもありがとう」
「助かりそうだな」
芝原と柴山がつぶやく。
こうもりは急降下して敵を襲う。
紅子を守るように重なりあって飛び交っている。


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