田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

翔子の告白/さすらいの塾講師 麻屋与志夫

2010-06-25 09:08:24 | Weblog
翔子の告白

11

蝙蝠に目や耳や顔を攻撃された。
犬の吠え声と人狼の怒号や悲鳴が墓地の中空にこだまする。
その一瞬のスキに六人はひと塊りになってはしりだした。
「墓地を抜けよう」
GGにいわれて、純は翔子を抱え込むようにして走りだした。
都営荒川線の通っているとおりにでた。
街灯がともり、信じられないほど平凡な街がそこにはあった。
あれだけの戦いをしてきたのがウソのような静けさだ。
翔子が、純の腕の中でぐったりとしている。
ダランと両手がたれたままだ。
左肩からはまだ血がにじみでている。
純があてたバンダナが真っ赤に染まっている。
しぼれば血がしたたりそうなほどぼってりとぬれている。

「翔子。翔子。目をさませ」
「女子医大に連絡だ」とGG。
「救急車をよぶよりタクシーのほうが早い」緊迫した声でさらにいう。

翔子が意識をとりもどしたのは明け方になってからだった。
純の手の中で、翔子の指がピクっとかすかに動いた。
指先がピクっとはねた。なにかつかもうとするように痙攣した。
「翔子。翔子」
ナースコールを押しながら、純は翔子の手をにぎりかえした。
翔子が反応した。

「気がついたとき、純がそばにいてくれた。
すごくうれしかったよ。これからはどこにもかないで」
「ずっといっしょにいられるから。
どこにもいかない。そのつもりで帰ってきた。
これからはずっとずっといっしょにいられるから」
「わたしたちは、なぜか邪悪なモノが許せない。
ひとに害意をもつモノが許せない。そんなたちよね」
「先祖から受け継いだ〈性〉なのだろう。
いつの時代でも、世間に悪をなす〈業〉の深いモノに対抗する存在が必要なのだ」
「わたしたち似ていたのね。
小学生のころからずっと純のことおもいつづけてきた。
うれしい。……だから泣かせて。
こうしていっしょにいられるなんて夢みたい」 



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