田舎住まい

吸血鬼テーマーの怪奇伝記小説を書いています。

破滅だわ/夕日の中の理沙子( 2) 麻屋与志夫

2009-01-04 06:13:20 | Weblog
破滅だわ。

どうして声がきこえるのよ。

離れた場所にいる女のひとの声が耳元でひびく。

歌いながら……。

舞台で歌っているのに……。

ほかのこと……おもっている。

玲菜はつかれていた。

玲菜は錯乱していた。

破滅に向かって坂をころげおちている。もうだめだとおもう。

破滅の前兆はだいぶまえからあった。

ダメ! 歌うことに集中して。

「どこに消えたの」

理沙子と名乗った女はきえていた。

いままでそこにいたのに。

歌はおわっていた。拍手がまばらにした。

せりだした顎。

せりだした犬歯。

せりだした鉤爪。

それらをかねそなえたものたちも消えていた。

消去キーをおしたみたいに。

きれいさっぱり玲菜の目前からいなくなっていた。

いや幻覚だったのかもしれない。

はじめから存在しなかったのだ。

あんな忌まわしいものがこの世にいるわけがない。

吸血鬼なんてエンターテイメントの世界の住人だ。

小説、映画、テレビ、ゲーム、アニメのなかの人気キャラだ。

「どうしたの? 玲菜」

つきびとの高内さんがきく。

クレオソートでうがいをしていた。

ああここにも、わたしの不調に気づいているひとがいた。

それはそうよね。つきびとですもの。いちばんさきに気づいていて。アタリマエ。

「ねえ、変な客いた。一番前の正面」

「だれもいなかったわ。だれもまえのほうにはいなかった」

オーデイエンスもまばらだった。

と……高内さんはいう。

「オチコマナイデ。次のステージを期待しましょう」

宵の客でオリオン通りもにぎわってくるから。

そんな、高内さん。なにいっているの。

広場のまえの八百屋さん、客が通りまであふれているじゃないの。

ふりかえるとつきびとの高内さんまできえていた。

ああいや。わたし発狂しちゃう。

したら。ステージまでには帰ってきてね。

散歩でもしてきたら。

高内さんは玲菜の後ろにたっていた。



one bite,please. ひと噛みして!! おねがい。
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ああ、快感。





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