神戸の古くからの歓楽街である新開地から程近い銭湯「朝日温泉」では、その名の通り温泉に入ることができ、しかも自家源泉を掛け流しているらしいので、どんなお湯か体感すべく、実際に訪問してまいりました。JRの線路の傍に位置しているのですが、最寄り駅としては神戸高速の新開地駅の方が近いようです(私はJR駅から歩きました)。外壁には「掛け流し 100%源泉」「湯元天然温泉」といった文言が踊っています。
建物の1階はピロティーの駐車場となっており、番台や脱衣室は2階、浴室は3階といった感じで、1フロアずつ上がってゆく構造です。入口には源泉を落とす岩のオブジェが置かれていました。阪神エリアの温泉銭湯ではこのように源泉のお湯を落として「うちはホンマもんの温泉でっせ」と言わんばかりにアピールしているところが多いですね。このオブジェを右に見ながら階段を上がって2階の番台へ。
料金は現代的な券売機で支払うのですが、下足は昔ながらの松竹錠の下駄箱に預けます。そして券と木板の鍵を番台に差し出すと、引き換えに脱衣室のロッカーキーを手渡してくれます。番台の隣には飲食を提供するカウンターが設けられているのですが、ソフトドリンク類の他、アルコール類が結構充実しており、まるで赤提灯のような雰囲気でした。前々回の記事で取り上げた尼崎「築地戎湯」でも述べましたが、銭湯で大っぴらにお酒を出すところって、関東ではあまり見られません(スーパー銭湯を除く)。あくまで個人的な印象ですが、関西では庶民生活とアルコールとの距離が、関東よりも近いような気がします。
そんなカウンターを左に見ながら脱衣室へ。足元には茣蓙が敷かれており、たくさんのロッカーが設置されています。上述のようにロッカーキーは番台で渡されますので、その時点で番号は指定されます。複数台の扇風機や床置型のエアコンも用意されているので。湯上り後のクールダウン対策も万全です。ロッカーを開けて着替えながら天井を見上げると、室内に何台かの防犯カメラが設置されているのを発見(ダミーかもしれませんが)。ちゃんと鍵が掛けられるロッカーがあるというのに、そこまでしないといけない事情があるのかもしれませんね。
室内には温泉分析表の他、湯使いに関する細かな説明が表示されており(上画像)、施設側のお湯に対する誠実な態度が伝わってきます。これによれば、浴室内にある浴槽のうち「源泉浴槽」は毎分30リットル投入の完全放流式であり、これと別にある「温泉浴槽」は新鮮源泉を投入しながら、循環加温消毒も実施しているとのこと。
脱衣室から裸のままで雑居ビルの非常通路ような階段を上がって3階の浴室へと向かいます。慌てて昇り降りして滑らないよう注意!
銭湯という生活の汗を流す場所だけあって洗い場の数は多く、ブース数は24ヶ所あり、いずれも水やお湯のオートストップ式水栓とシャワー付きの単水栓(お湯のみ)が取り付けられています。その一方で、銭湯料金で利用できるお風呂にもかかわらず、据えられている浴槽の種類は多く、上述の「源泉浴槽」や「温泉浴槽」の他、敷地内で汲み上げている鉱泉の「黒の泉」、真湯の「電気風呂」や「泡風呂」、そして別途料金を要するサウナなどなど9種類の設備を楽しめるんだとか。これだけのお風呂を兼ね備えたスーパー銭湯でしたら、銭湯料金では利用できませんから、こちらの浴場はコストパフォマンスがかなり優れていますよね。
洗い場の傍にある黒いお湯が張られた浴槽は、その名も「黒の泉」といい、敷地内から汲み上げている鉱泉を使っているんだとか。深さは1メートルもあり、43~4℃という熱めの湯加減でした。ネームプレートには「有馬の湯と同じ」と記されており、確かにこげ茶色に濁る透明度20~30センチのお湯は有馬温泉に似ているような気もしますが、有馬のようなしょっぱさも無ければ金気も決して多く無く、どちらかと言えば重曹泉っぽい感じであり、色以外には掴みどころが少ない上に塩素臭も漂っており、見た目やネーミングの印象とはかけ離れた、いまいち面白みに欠けるお湯でした。こんな私の見解を裏付けるかのように、「源泉浴槽」や「温泉浴槽」、「泡風呂」など他の浴槽は他の入浴客も頻りに利用しているにもかかわらず、この「黒の泉」は悲しいくらいに敬遠されていました。
いくつもの浴槽がある中で、私が気に入ったのは言わずもがな「源泉浴槽」でした。3人サイズの槽には30℃ほどの源泉が手付かずの状態で供給されており、隅っこの湯口から投入されている分と見合った量のお湯が手前側ステップより溢れ出て排湯されていました。館内表示の「完全放流式」という文言に嘘偽りは無いようです。お湯は薄い黄色を帯びたささ濁りで、湯中では湯華がたくさん浮遊しており、明瞭な金気の味と匂い、そしてほのかな苦味が感じられました。
30℃前後の温度ですから、入りしなこそちょっと冷たいのですが、一度肩まで浸かっちゃうと、あまりの気持ち良さや爽快感の虜になって、出られなくなってしまうこと請け合いです。そして特筆すべきは泡付きの激しさでしょう。湯船に浸かって1~2分もすれば全身に気泡が付着しはじめ、5分以上浸かり続ければ、既に付着している気泡が新しい気泡によって拭われてしまうほど、大粒の気泡によって全身が覆われ、肌の上をシュワシュワ感が走ってゆくのです。この気持ち良さがお客さんの心を掴んで離さず、他の浴槽は空いていてもここだけ混んでいることもあり、浴槽のキャパシティが小さいのであまり長湯できませんが、私は今回、混み具合を考慮しながらその都度譲ったり入ったりを繰り返し、なんだかんだでこの湯船に都合一時間以上浸かり続けてしまいました。都会の真中でこんな爽快なお湯が掛け流されているだなんて、ご近所の方が羨ましい限りです。
巳泉の湯
単純温泉 30.8℃ pH6.8 508L/min(動力揚湯) 溶存物質0.784g/kg 成分総計0.794g/kg
Na+:191mg(86.56mval%), Mg++:5.9mg(5.06mval%), Ca++:10.4mg(5.41mval%),
Cl-:87.6mg(26.52mval%), HCO3-:412mg(72.46mval%),
H2SiO3:61.7mg, CO2:9.9mg,
新開地駅より徒歩7分(600m)、JR神戸駅より徒歩10分(約1km)
兵庫県神戸市兵庫区永沢町2-3-3 地図
078-577-1836
ホームページ
7:30~0:30 水曜定休
420円(2014年4月以降)
ロッカー・ドライヤー(有料20円/3分)あり、石鹸等販売あり
私の好み:★★+0.5