前回記事の続きです。阿曽原温泉までのアクセスについては前回記事をご参照ください。
黒部峡谷の秘湯阿曽原温泉。「下の廊下」唯一の山小屋なので、日電歩道開通時には大混雑することでも有名です。山小屋なのに電気が届いており、小屋の正面にはビールやジュースの自販機が設置されています。長い道のりを歩いてカラカラに乾いた喉へビールを流し込んだ時の美味さといったら、もう言葉では表現できませんよね。
小屋に到着すると、受付には主人の佐々木さんがいらっしゃいました。いかにも山男らしい豪傑です。
こちらは毎年7月中旬から10月下旬のみの営業です。ここは豪雪地帯かつ雪崩頻発地帯なので、建物を常設することができず、小屋は秋の営業期間終了後に解体され、夏がやってくると再び組み立てる、というサイクルを毎年繰り返しています。毎年解体と組み立てを繰り返しているのは白馬鑓温泉も同様ですね。関係各位のご苦労には頭が下がるばかりです。解体組立が容易な建物なので、簡素なプレハブ構造です。今回私が指定された部屋は3号室。定員12名ですが、どうやら私が最も早いチェックインだったようで、館内にはどなたもいらっしゃいませんでした。
お目当ての露天風呂は1つだけで、1時間毎に男女入れ替え制となっています。部屋に入ってから男性入浴タイムまで1時間以上も待たねばならなかったため、布団を敷いてしばらく御昼寝。その間に徐々にお客さんが我が3号室や隣の部屋へ入ってきました。その多くが仙人池から下りてきた方で、少数派である欅平から上がってきたお客さんは、みなさん日電歩道の走破を楽しみにしていたものの、通行止を知って仕方なく阿曽原までの往復にとどめておいた、という方ばかりでした。阿曽原から仙人温泉方面へ登る客は私一人だけのようでした。
さてようやく男性入浴時間が近づいてきたので、お風呂セットを小脇に抱えていそいそと部屋を出てゆくことに。小屋からお風呂までは5分ほど歩かねばならないので、切り替え時間の5分前に出発するとちょうど良い感じでした。小屋からテント場を下り、その横から分かれている道を下って露天風呂へ。テント場には横穴があり、奥から硫黄の匂いが漂ってきます。
お風呂への小径は足元の悪い急な下り坂なので、小屋にはサンダルが用意されているのですが、人によってはわざわざ登山靴を履いてお風呂へと下りていました。途中、黒部川の渓流が見える箇所もありました。
さぁ露天風呂に到着です。ここでも私が一番乗りだ。コンクリ製の長方形の浴槽がひとつ据えられ、その周囲をスノコが囲っています。峡谷の谷の底ですが、渓流が望めるわけでもないので眺望は大したことなく、お風呂もシンプルで素っ気ないので、あんまり風情はないかもしれません。
それはともかく、お風呂の奥にはブルーシートが提げられており、そこから白い湯気が濛々と出ているぞ。何じゃありゃ…。
これぞ吉村昭の名著で描かれていた『高熱隧道』であります。なお高熱隧道についてはWikipediaの当該記事をご参照あれ(私はこの作品を読んで阿曽原に興味を持った人間の一人であります)。トンネルの奥から硫化水素臭を伴った熱い蒸気が勢いよく出ており、これがトンネルのポータルから出た途端に冷やされて白い湯気となっているのですね。一応トンネル内にもスノコが敷かれて脱衣所代わりになっており、それゆえにブルーシートが張られているのですが、ポータルからちょっとでも中に入ると、まるでサウナのようなものすごい熱気に包まれるので、外で着替えちゃった方がはるかに楽でした。小説の文中では、岩盤がもの凄い熱を帯びており、普通に削岩していたのでは熱気で逆上せてしまうので(あるいはダイナマイトが熱で暴発しちゃうので)、作業員に大量の水を噴射しながらトンネル掘削にあたらせた、という描写がありますが、これを見たらそんな無茶苦茶な作業方法も納得したくなります。
源泉はそのトンネルの奥から黒いホースで引かれて浴槽へ注いでいます。トンネル内の熱気から想像するにさぞ熱いお湯かと思いきや、意外にも手で触れてしまう程の温度(多分50℃弱)でした。浴槽の反対側にも黒いホースがありますが、そちらは沢の水です。季節によって異なるかと思いますが、私が入浴した時は沢の水を全て入れると湯加減がかなりぬるくなってしまうので、適宜水のホースを浴槽から外して湯加減を調整しました。
お湯は無色透明で、白い浮遊物がチラホラ舞っています。火山の噴気帯的な硫化水素臭と腐敗卵黄臭の中間のような臭いと味が感じられ、これに焦げた石膏のような味も加わっているようでした。ただし匂い味ともに弱く、溶存物質量が少なそうでしたので、泉質としては単純硫黄泉になるかと思われます。
15時スタートの入浴タイムには次々に男性陣が集まり、なんと一度に20人弱も入る時すらありました。肩を縮めて詰めあいながら入る風呂は、さながら刑務所のようでした。入浴時間は1時間ですが、みなさん長くても30分程度で上がってしまい、最初から最後まで風呂にいたのは私だけでした。混雑していたにもかかわらず、このように誰もいないお風呂を撮影できたのは、最後まで粘っていたからであります。
「下の廊下」日電歩道が急遽通行止となり、キャンセルが相次いだというにもかかわらず、この日は仙人池方面からの下山客が多く詰め寄せ、なんだかんだで定員いっぱいの収容となりましたが、幸いにも一人で布団1枚は確保することができました。10月の連休でこんな状態は初めてとのこと。
客の多い山小屋でお馴染の夕食といえばカレーライス。食堂スペースが限られているため、夕食はグループに分けられて時間制限が設けられ、その時間は30分間。ただしその間におかわりは自由。よく煮込んであるおいしいカレーで、お米も富山の新米でしたので、私は3杯おかわりしちゃいました。
食後は再び露天風呂へ。空には満月が上がっていてとても明るく、山々の稜線もはっきりと浮かび上がっていました。昼間と打って変わって、夜に入浴する客はあまりおらず、空いているお風呂で悠々と湯あみできました。
夜が更けてからご主人の佐々木さんと一対一でお話しさせていただいたのですが、下の廊下の崩落現場に関して曰く、ヘリからの空撮画像を見た限りでは、たしかにひどい崩落で当然今年は通行不可だが、樹林帯の方まで長いハシゴをかけて思いっきり高巻けば、来年以降もなんとかクリアできるんじゃねぇか、との希望的観測を仰っていました(もし実行となれば、ご主人を親分とする阿曽原小屋のスタッフ達がその作業にあたるわけです)。また、落石・崩落のために通行止が決まった日には、ご主人自ら何十軒ものお客さんへ電話連絡をしてキャンセルを勧め、それと並行して現地まで既に来ている登山客への対応も行ったため、大パニックに陥ったそうです。更には、もし通行止めになっていなくとも、何カ月も前から予約をしてくれるお客さんも、飛び込み同然のお客さんも、同じように布団1枚に2~3人詰め込まざるを得ないのはとても心苦しいとも仰っていました。山小屋を経営するって本当にご苦労が絶えないんですね。
黒部峡谷鉄道・欅平駅より水平歩道を歩いて約5~6時間(個人差あり)
富山県黒部市宇奈月町黒部奥山国有林地内
0765-62-1148
ホームページ
営業期間:7月中旬-10月末(日付は年により異なる)
宿泊定員50人、テント設営可能数30張(500円)
通過およびテント場利用の場合、入浴料500円
1泊2食9000円・素泊6000円・弁当800円
黒部峡谷の秘湯阿曽原温泉。「下の廊下」唯一の山小屋なので、日電歩道開通時には大混雑することでも有名です。山小屋なのに電気が届いており、小屋の正面にはビールやジュースの自販機が設置されています。長い道のりを歩いてカラカラに乾いた喉へビールを流し込んだ時の美味さといったら、もう言葉では表現できませんよね。
小屋に到着すると、受付には主人の佐々木さんがいらっしゃいました。いかにも山男らしい豪傑です。
こちらは毎年7月中旬から10月下旬のみの営業です。ここは豪雪地帯かつ雪崩頻発地帯なので、建物を常設することができず、小屋は秋の営業期間終了後に解体され、夏がやってくると再び組み立てる、というサイクルを毎年繰り返しています。毎年解体と組み立てを繰り返しているのは白馬鑓温泉も同様ですね。関係各位のご苦労には頭が下がるばかりです。解体組立が容易な建物なので、簡素なプレハブ構造です。今回私が指定された部屋は3号室。定員12名ですが、どうやら私が最も早いチェックインだったようで、館内にはどなたもいらっしゃいませんでした。
お目当ての露天風呂は1つだけで、1時間毎に男女入れ替え制となっています。部屋に入ってから男性入浴タイムまで1時間以上も待たねばならなかったため、布団を敷いてしばらく御昼寝。その間に徐々にお客さんが我が3号室や隣の部屋へ入ってきました。その多くが仙人池から下りてきた方で、少数派である欅平から上がってきたお客さんは、みなさん日電歩道の走破を楽しみにしていたものの、通行止を知って仕方なく阿曽原までの往復にとどめておいた、という方ばかりでした。阿曽原から仙人温泉方面へ登る客は私一人だけのようでした。
さてようやく男性入浴時間が近づいてきたので、お風呂セットを小脇に抱えていそいそと部屋を出てゆくことに。小屋からお風呂までは5分ほど歩かねばならないので、切り替え時間の5分前に出発するとちょうど良い感じでした。小屋からテント場を下り、その横から分かれている道を下って露天風呂へ。テント場には横穴があり、奥から硫黄の匂いが漂ってきます。
お風呂への小径は足元の悪い急な下り坂なので、小屋にはサンダルが用意されているのですが、人によってはわざわざ登山靴を履いてお風呂へと下りていました。途中、黒部川の渓流が見える箇所もありました。
さぁ露天風呂に到着です。ここでも私が一番乗りだ。コンクリ製の長方形の浴槽がひとつ据えられ、その周囲をスノコが囲っています。峡谷の谷の底ですが、渓流が望めるわけでもないので眺望は大したことなく、お風呂もシンプルで素っ気ないので、あんまり風情はないかもしれません。
それはともかく、お風呂の奥にはブルーシートが提げられており、そこから白い湯気が濛々と出ているぞ。何じゃありゃ…。
これぞ吉村昭の名著で描かれていた『高熱隧道』であります。なお高熱隧道についてはWikipediaの当該記事をご参照あれ(私はこの作品を読んで阿曽原に興味を持った人間の一人であります)。トンネルの奥から硫化水素臭を伴った熱い蒸気が勢いよく出ており、これがトンネルのポータルから出た途端に冷やされて白い湯気となっているのですね。一応トンネル内にもスノコが敷かれて脱衣所代わりになっており、それゆえにブルーシートが張られているのですが、ポータルからちょっとでも中に入ると、まるでサウナのようなものすごい熱気に包まれるので、外で着替えちゃった方がはるかに楽でした。小説の文中では、岩盤がもの凄い熱を帯びており、普通に削岩していたのでは熱気で逆上せてしまうので(あるいはダイナマイトが熱で暴発しちゃうので)、作業員に大量の水を噴射しながらトンネル掘削にあたらせた、という描写がありますが、これを見たらそんな無茶苦茶な作業方法も納得したくなります。
源泉はそのトンネルの奥から黒いホースで引かれて浴槽へ注いでいます。トンネル内の熱気から想像するにさぞ熱いお湯かと思いきや、意外にも手で触れてしまう程の温度(多分50℃弱)でした。浴槽の反対側にも黒いホースがありますが、そちらは沢の水です。季節によって異なるかと思いますが、私が入浴した時は沢の水を全て入れると湯加減がかなりぬるくなってしまうので、適宜水のホースを浴槽から外して湯加減を調整しました。
お湯は無色透明で、白い浮遊物がチラホラ舞っています。火山の噴気帯的な硫化水素臭と腐敗卵黄臭の中間のような臭いと味が感じられ、これに焦げた石膏のような味も加わっているようでした。ただし匂い味ともに弱く、溶存物質量が少なそうでしたので、泉質としては単純硫黄泉になるかと思われます。
15時スタートの入浴タイムには次々に男性陣が集まり、なんと一度に20人弱も入る時すらありました。肩を縮めて詰めあいながら入る風呂は、さながら刑務所のようでした。入浴時間は1時間ですが、みなさん長くても30分程度で上がってしまい、最初から最後まで風呂にいたのは私だけでした。混雑していたにもかかわらず、このように誰もいないお風呂を撮影できたのは、最後まで粘っていたからであります。
「下の廊下」日電歩道が急遽通行止となり、キャンセルが相次いだというにもかかわらず、この日は仙人池方面からの下山客が多く詰め寄せ、なんだかんだで定員いっぱいの収容となりましたが、幸いにも一人で布団1枚は確保することができました。10月の連休でこんな状態は初めてとのこと。
客の多い山小屋でお馴染の夕食といえばカレーライス。食堂スペースが限られているため、夕食はグループに分けられて時間制限が設けられ、その時間は30分間。ただしその間におかわりは自由。よく煮込んであるおいしいカレーで、お米も富山の新米でしたので、私は3杯おかわりしちゃいました。
食後は再び露天風呂へ。空には満月が上がっていてとても明るく、山々の稜線もはっきりと浮かび上がっていました。昼間と打って変わって、夜に入浴する客はあまりおらず、空いているお風呂で悠々と湯あみできました。
夜が更けてからご主人の佐々木さんと一対一でお話しさせていただいたのですが、下の廊下の崩落現場に関して曰く、ヘリからの空撮画像を見た限りでは、たしかにひどい崩落で当然今年は通行不可だが、樹林帯の方まで長いハシゴをかけて思いっきり高巻けば、来年以降もなんとかクリアできるんじゃねぇか、との希望的観測を仰っていました(もし実行となれば、ご主人を親分とする阿曽原小屋のスタッフ達がその作業にあたるわけです)。また、落石・崩落のために通行止が決まった日には、ご主人自ら何十軒ものお客さんへ電話連絡をしてキャンセルを勧め、それと並行して現地まで既に来ている登山客への対応も行ったため、大パニックに陥ったそうです。更には、もし通行止めになっていなくとも、何カ月も前から予約をしてくれるお客さんも、飛び込み同然のお客さんも、同じように布団1枚に2~3人詰め込まざるを得ないのはとても心苦しいとも仰っていました。山小屋を経営するって本当にご苦労が絶えないんですね。
黒部峡谷鉄道・欅平駅より水平歩道を歩いて約5~6時間(個人差あり)
富山県黒部市宇奈月町黒部奥山国有林地内
0765-62-1148
ホームページ
営業期間:7月中旬-10月末(日付は年により異なる)
宿泊定員50人、テント設営可能数30張(500円)
通過およびテント場利用の場合、入浴料500円
1泊2食9000円・素泊6000円・弁当800円