温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

東八幡平温泉 元湯七滝

2011年09月25日 | 岩手県
 
東八幡平温泉郷は岩手山麓の高原に大型リゾート施設や中小の宿泊施設が点在している東北屈指のリゾート地ですが、その中でも道路沿いに看板を立てて積極的に立ち寄り入浴を受け入れている施設が「元湯七滝」です。立派なリゾートホテルや小洒落たペンションが多い中で、ここだけ妙に鄙びた雰囲気を漂わせています。
駐車場は広々しており、初心者ドライバーでも安心して駐車できそうです。建物はいかにも昭和40~50年代らしい外観の平屋で、玄関は左右に二つあり、日帰り入浴の客は右側の食堂側から入ります。中に入ると、薄暗い食堂で一人ぽつねんと座るおじさんが、こちらに丸い背を向けながら黙ってラーメンを啜っていました。まさかこの人は宿の人じゃないだろうと思いながら、誰かいないかウロウロしていたら、間もなく御主人が現れ、笑顔で「どこから来たの?」なんて聞きながら対応してくれました。


通路を進んで浴室へ向かいます。お風呂には男女別の内湯と混浴の露天があり、それぞれは離れて設けられているため、内湯~露天の移動には一旦服を着る必要があります。


こちらは内湯。浴槽こそ曲線を描いているものの、極めてシンプルな造りです。洗い場にはシャワー付き混合栓が3基ありました。お湯は無色透明で、かなり弱い酸味と粉っぽいような味、そしてゴムテニスボールのような硫黄的な匂いと微かに酸っぱいような匂いが感じられます。東八幡平温泉郷のお湯は松川地熱発電所でタービンを回した蒸気を引いて利用しているため、大雑把に言えば造成泉の一種であり、たしかに箱根の強羅辺りのお湯を連想させてくれます。でもこちらの方が成分ははるかに薄くなっています。地熱で発電したついでに温泉として利用することにより人間の体を温め、更には観光業として雇用も生み出しちゃうという、一石二鳥どころか三鳥の効率的な地域開発ですね。

 
こちらは混浴の露天風呂。ほぼ正方形で石貼りの浴槽です。一応湯水のカランが1セット用意されています。特に眺望が素晴らしいわけではありませんが、岩手山の姿は眺められますし、視界を遮るような塀もありませんので、開放感は良好です。訪問時は高原の涼しい風が風呂の上を吹き抜け、あたりを蜻蛉が飛び交っていました。


あらやだ、露天風呂のカラン上には玄武岩でできた金精がそそり立っているではありませんか。女性の方がタッチしたら何かいいことあるかも。私は男なので一切触れませんでしたが…。日本古来の信仰に基づけば、温泉は女陰に当たりますから、それと対をなす金精を祀るのは、温泉の不尽及び永遠の繁栄を願うという意味で、とっても自然なことであります。八幡平周辺では「蒸の湯」にも金精様が祀られていますし、苗場山腹の赤湯温泉も同様です。


八幡平温泉(マグマの湯)
単純硫黄温泉(硫化水素型) 65.0℃ pH4.3 溶存物質59.5mg/kg 成分総計135.3mg/kg
Mg:1.3mg(50.88mval%), Ca:5.8mg(19.30mval%), SO4:23.0mg(80.00mval%), 遊離CO2:63.2mg, 遊離H2S:12.6mg
温度が高いため浴槽清掃後の給泉のとき加水あり、加温循環消毒なし

岩手県八幡平市寄木第1地割590-228  地図
0195-78-2333
ホームページ

9:00~20:30
300円
ロッカー・石鹸&シャンプーあり、ドライヤーあり

私の好み:★★
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関温泉 登美屋旅館

2011年09月24日 | 新潟県

妙高の温泉地の中でも関温泉は、近所の赤倉や燕など有名温泉地の影に隠れてしまっており、存在感としては比較的マイナーですが、赤倉とも燕とも違う、独特の泉質のお湯を、どの宿も完全源泉掛け流しで提供していると聞き、どんなお湯か入ってみることにしました。温泉街入り口の看板には誇らしげに「源泉100%かけ流し」と記されています。

 
今回お邪魔したのは登美屋旅館。玄関まわりには立ち寄り入浴を積極的に受け入れていそうな雰囲気が漂っていたので、こちらを選ぶことにしました。玄関上の扁額や脇の立看板には「子宝の湯」と書かれていますね。特徴的な泉質を有しているのかしら。
帳場で料金を支払って浴室へ。ロッカーは無いので貴重品は帳場で預かってもらいます。

 
お風呂は男女別の内湯で露天はありませんが、妙高高原に向かって大きなガラス窓が嵌められており、麓の景色や遠方の山稜が見晴らせる、眺望のよい開放的な浴室となっていました。
お湯は湯口ではほぼ無色透明ですが、湯中に小さく細かな赤い湯の花が無数に浮遊しているため、湯船では薄いコロイド溶液みたいにほんのり橙色に濁って見え、特に浴槽や湯口まわりは赤茶色に強く染まっています。加温加水循環消毒なしの完璧な湯使いで、しっかりオーバーフローしています。湯口のお湯を口にしてみると、薄い出汁味+炭酸味+薄い金気味が感じられ、遅れて仄かな苦みも伝わってきました。臭覚としては、薄ら油のような匂いと金気臭が嗅ぎ取れるのですが、湯口では油臭が強く、湯口から離れるにつれて油臭は減り、かわりに金気臭が明瞭になってくるようでした。弱めですがスベスベ浴感が得られます。遊離炭酸ガスが480mgとかなり多めですが、浴槽へ注がれるまでに飛散してしまうのか、炭酸味としては残っているものの、湯船における肌への泡付きは確認できませんでした。

ところで上述のように、この温泉は「子宝の湯」なんだそうですが、当ブログで取り上げた台湾の瑞穂温泉、そして国内では伊香保や有馬など、各地で「子宝の湯」と称されている温泉は大抵鉄分が多いことが共通しており、この関温泉も赤く濁らせている鉄分が子宝をもたらせているのかと思われます。もっとも他の「子宝の湯」は、泉質ではなく、かつて存在した三助さんが影の主役だったという説もありますが、山間に湧く関温泉の場合は純粋に赤く濁った鉄分のお湯が効能を発揮していると考えた方がよさそうです。

燕温泉や赤倉温泉の傍にありながら、両者とは全く異なる泉質のお湯が完全掛け流しで楽しめる関温泉は、湯めぐりする上で、意外な穴場かもしれませんね。ところで○○ソムリエの家元さんは確か赤倉温泉の方だったかと思いますが、この関温泉はその○○ソムリエの認定ツアーに含まれているんでしょうか。いずれにせよ、近所で白濁湯(燕)と赤濁湯(関)の両方を比較体験できるんですから、妙高山の自然って素晴らしいですね。


ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 48.8℃ pH6 530L/min 溶存物質2205mg/kg 成分総計2685mg/kg
Na:630mg(69.4mval%), Ca:140mg(17.7mval%), Mg:40mg(8.3mval%), Fe2:1.2mg(0.1mval%), Fe3:3.4mg(0.5mval%), Cl:640mg(72.0mval%), HCO3:420mg(27.4mval%), 遊離CO2:480mg

新潟県妙高市関山6087-25  地図
0255-82-2319
ホームページ

立ち寄り入浴時間:不明
500円
シャンプー類・ドライヤーあり、貴重品は帳場預かり

私の好み:★★★

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妙高池の平温泉 元気村温泉ハウス

2011年09月24日 | 新潟県

妙高高原のイモリ池から望む妙高山は秀麗ですね。まるで風景画の中に自分が溶け込んでいるかのようです。


このイモリ池周辺の池の平地区は多くの宿泊施設が点在していますが、池から南東へちょっと入った一角にはペンションが数軒固まっている「元気村ペンションビレッジ」という区画があり、そこのペンションが共同で管理している「元気村温泉ハウス」という温泉浴場があります。基本的にはペンション宿泊客のための施設ですが、料金を支払うことにより外来者も利用できます。


浴場は常時無人で施錠されているため、利用に際してはまずペンションで料金を支払って鍵を借りる必要があります。

 
鍵を貸し出すペンションは当番制になっており、その日の当番の施設へ一度足を運ばなくてはなりません。どのペンションが当番なのかはボードに掲示されていますが、案内表示の裏に隠れてわかりにくいので要注意です。私もはじめは全く気付かず、かなり迷いました。なお鍵を借りる際にはデポジットとして1000円を預ける約束になっているため、入浴料と合わせて1500円を用意しておく必要があります。もちろん入浴が終わって鍵を返却するときに1000円は返されます。
建物内には休憩スペース・飲料自販機などが用意されていました。日ごろからよく手入れされているようで、館内はとても清潔です。

 
お風呂は男女別の内湯がひとつずつ。逆光の見難い画像で申し訳ありません。
タイル貼りの正方形に近い形状の浴槽で、縁には石板が貼られています。木の枡のような湯口から常時源泉が投入され、浴槽手前側の切り欠けから溢流しています。つまり掛け流しですね。
単なる普通の浴槽かと思いきや、一定間隔でジェットバスが作動し、忘れたころに突然ジュワっと泡が勢いよく噴射されて驚かされます。個人的にはジェットバスは余計だなぁ…。

源泉は妙高山山腹の南地獄谷から引いているものを使用していますが、南地獄谷のお湯は本来黒く濁っているはずであり、それに反して浴槽のお湯は無色透明であることから、供給される手前で沈殿濾過処理が行われているようです。本音を言えば真っ黒に濁ったお湯に入りたいのですが、濁ったままでは多くの観光客にとっては使い勝手が悪いでしょうから、濾過するのはやむを得ないのでしょう。それでも湯口では噴気地帯の黒泥のマッドポッドを思わせるような硫黄の匂いが弱く感じられました。また濾過処理を潜りぬけたのか、あるいは再生成されたのか、湯中では黒い羽根状の湯華がちらほら浮遊していました。お湯が浴槽から溢れ出てゆく流路周辺のタイルも黒く染まっています。なお味はあまり感じられませんでした。浴感にも特徴的なものはありません。

わざわざ訪れるような温泉施設ではないかと思いますが、イモリ池から近く、濾過されているものの掛け流しのお湯なので、近くを訪れた際には立ち寄ってみるのも良いかもしれません。


単純硫黄温泉 72.0℃ pH8.4 溶存物質844.6mg/kg 成分総計846.7mg/kg
Na:35.3mg(15.46mval%), Mg:28.2mg(23.29mval%), Ca:85.8mg(42.97mval%), HS:9.5mg(3.25mval%), S2O3:18.4mg(3.70mval%), SO4:188.7mg(44.01mval%), HCO3:253.4mg(46.47mval%), 遊離H2S:0.4mg
沈殿ろ過済み
湧出地:妙高山南地獄谷

新潟県妙高市池の平温泉元気村ペンションビレッジ1252  地図
0255-86-3779

10:00~21:00
500円(+鍵デポジット1000円)
シャンプー類あり、ロッカーやドライヤーは無し

私の好み:★★
コメント (4)
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湯谷温泉 ゆかわ

2011年09月23日 | 愛知県
約2年前の古いレポートですが、ネタとして本格的に腐る前に蔵から出しておきたいので、何卒ご了承を。

ローカル線好きな人なら誰しもが乗りたがる鉄道路線のひとつに、飯田線が挙げられるでしょう。普通列車を全線乗り通して6時間を要すること、険しい峡谷を縫うように走るルート、秘境駅の存在など魅力的な要素を多く擁しているのですが、残念ながら温泉ファンを満足させてくれる温泉には恵まれていません。数ある飯田線の駅の中で唯一温泉を名乗っているのが「湯谷温泉駅」ですが、その温泉地ではどんなお湯に出会えるのか、初冬の某日、飯田線を乗り潰すついでに途中下車してみることとしました。


 
新城駅から天竜峡行普通列車に乗車。運転台直後の客室は荷物専用スペースになっていました。山間を走る電車なのに、走行音は昭和の通勤電車の象徴である国鉄103系とほぼ同じ。それもそのはず、MT55A主電動機・DT33台車・歯車比6.07など、足回りは103系とほぼ同じ仕様なんですね。険しい渓谷を走る電車と都会で満員の乗客を乗せる電車が同じ走行音というのも変な話ですが、東京圏から103系が消えてから久しいので、久々に103系的な爆裂サウンドが聞けて、個人的には嬉しかったなぁ。でも103系と全く同じでもなく、たとえばMGの唸りやCPの作動音、ブレーキ解緩音などは明らかに異なり、近郊型車両っぽさが出ていました。
なお飯田線の普通列車に用いられているこの119系は、2011年下旬から徐々に淘汰されてゆく予定なんだそうです。全国見渡しても119系が走っているのはここ飯田線だけ。国鉄末期から走り続けてきたこの電車に乗れるのは今のうち。

 
湯谷温泉駅に到着。手でドアを開けて、1線1面しかないホームへ降車します。下車したのは私を含め5人程度。客を下ろすと、列車はそそくさと谷の奥へ消え去って行きました。

 
木造の駅舎は、一見すると醸造業者の古い倉庫みたいで、あまり駅舎っぽくありませんね。窓が板で塞がれており、大きな建物でありながら、あまり有効活用されていない様子。


古典的な歓迎ゲートを潜って温泉街へ。この手のいかにも昭和な雰囲気のアーチは、かえって鄙びた感じを醸し出しますね。

 
湯谷温泉は開湯1300年の歴史を有しているんだそうでして、宇連川に刻まれた三河地方屈指の景勝地である鳳来峡に沿って温泉街が形成されています。川底の岩はまるで板を敷いているかのように平べったく、それゆえに板敷川という別称もあるんだそうです。景勝地とはいえ、どこへ行っても人工物が目に入ってくるので、あまり秘境という趣はありませんが、紅葉の盛りにはそれなりに絵になる景色が広がりそうですね。


さて今回入浴するのは「ゆかわ」というお店。駅前のゲートを潜ってすぐ右斜め前にあります。こちらは本来は炭火焼の料理屋さんなのですが、露天風呂を併設しており、そのお風呂で立ち寄り入浴を受け付けています。
門をくぐって敷地に入り、階段を下って食堂の受付で料金を支払い、更に階段を下りていきます。お風呂は男女混浴の露天風呂と女性専用風呂の2つがあり、男性は否応なく混浴の利用となります。脱衣所は掘っ立て小屋みたいな質素な造りで、露天風呂で入浴中の客から内部が見えてしまうような開放的な構造でした。でも女性用更衣室はちゃんと仕切られていましたよ。

 
渓谷に面した縦長の露天風呂は、頭上を屋根が覆い、川側も簾などが架かっていますが、鳳来峡の眺めはバッチリです。温泉にあまり恵まれていない三遠南信地方にありながら、眺めの佳い渓谷の露天風呂で、しかも混浴なんですから、お客さんの注目を集めるのは当然かもしれず、私の訪問時には御夫婦と思しき男女二人連れが3組も先客として湯浴みなさっていました。女性の方はタオルで全身を巻いていらしたので、タオル使用可なお風呂なんですね(有料で巻きタオルをレンタルできます)。ただ、私の見落としかもしれませんが、洗い場にカランやシャワーらしきものは見当たらず、このために掛け湯せずにいきなり湯船へ入ってしまう輩も見受けられ、その点がちょっと残念でした。なお女性専用風呂もこの混浴風呂と同様に河岸の崖に設けられていますが、伝え聞いたところによると、思いっきり遮蔽されて景色は殆ど楽しめないんだそうです。

お湯は浴槽一番奥の筒から注がれており、薄い黄褐色を帯びて微かに濁っており、赤茶の小さな浮遊物が浮遊しています。ほんのり塩味が感じられ、匂いはほぼ無臭でした。2つの源泉を混合して使用しているようですが、加温循環消毒されており、お湯から鮮度感はあまり感じられません。というか思いっきり鈍っていました。成分濃度のわりに知覚が弱いのは循環されているからか、あるいは加水して薄めているからか…。源泉温度や供給面から考えれば、加温循環消毒という管理方法は止むをえませんし、地理的条件から考えてもこの地域に源泉掛け流しを期待してはいけませんね。眺めの良さを以て満足すべきお風呂だと思います。

ここで使われている源泉は温泉地内の他の宿にも引湯されているのですが、宿によって湯使いが異なり、中には非循環で提供しているところもあるらしいので、もし再訪する機会があれば、他のお風呂にも入ってみたいものです。


 
「ゆかわ」とは全く無関係ですが、温泉街から踏切を越えたところには、有料で源泉水が汲める温泉スタンド(100Lで100円)、そして無料で利用できる足湯がありました。足湯は2008年に開設されたんだそうでして、この日も多くのお客さんで賑わっていました。足湯には7号泉が用いられており、利用可能時間は9:00~18:00です。


ひとっ風呂浴びてさっぱりした私は、この駅から鈍足の特急「伊那路」で一気に天竜峡へと向かいました。


5号泉
ナトリウム・カルシウム-塩化物泉 28.4℃ pH不明 溶存物質1.145g/kg 成分総計1.153g/kg
Na:240mg(57.22mval%), Ca:145mg(39.67mval%), Cl:585.0mg(89.05mval%)
(思いっきりボケた分析表の画像から読み取っているので、上記数値には誤りがある可能性大です)

7号泉(新源泉)
ナトリウム・カルシウム-塩化物泉 35.9℃ pH8.1 溶存物質3.090g/kg 成分総計3.094g/kg
Na:648mg(53.45mval%), Ca:464mg(43.89mval%), Cl:1800mg(97.30mval%)

加水・加温・循環・消毒あり

JR飯田線・湯谷温泉駅より徒歩1分
愛知県新城市豊岡滝上5-1  地図
0536-32-1508
ホームページ (←Flash多用でかったるいぞ…) 

10:30~17:00(水曜は~15:30)(食事は19:00まで。LO18:00。水曜のみ16:00まで)
木曜定休(祝日の場合は営業)
800円(食事すれば無料)
シャンプー類あり

私の好み:★+0.5
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沢渡温泉 共同浴場

2011年09月23日 | 群馬県
なぜ私が温泉巡りの虜になったのか、その理由を考えてみても、大きなきっかけと呼べるものには思い当たらないのですが、何か所か少しずつ訪問してゆくうちに、徐々にそれぞれの温泉が持つ個性と魅力に惹かれ、新たな個性に巡り会いたくなって、瘋癲の如くフラフラと各地の温泉を訪れるようになっていったんだと思います。しかしながらその中でも、温泉巡りの初期の段階で私の意欲を大きくステップアップさせる契機となった場所が何か所かあって、そのひとつに挙げられるのが沢渡温泉であります。まだ鄙びた温泉の魅力が今一つ理解しきれていなかった頃、たまたま立ち寄った沢渡温泉共同浴場の浴室で包まれた何も言われぬ純朴な雰囲気に魅了され、「あ、温泉って本来はこういうものなのか」と開眼した想い出があります。この沢渡と、同じく吾妻郡の名湯川原湯は、私の温泉巡りにおける原点のひとつであり、初心に帰りたいときは必ずここへ戻るようにしています。


温泉ファンにはお馴染みの共同浴場です。坂の途中に建つ木造平屋の素朴な湯屋は昔から変わりませんが、最近ちょこっと改装されたらしく、少なくとも昨年(2010年)の時点では画像に移っているように、入り口引き戸や受付窓口などが小洒落た外観に小改造されていました。受付のおばちゃんに料金を支払って中へ。

 
共同浴場らしいシンプルな構造の脱衣所。お手入れが行き届いていて綺麗です。扇風機やタイルカーペット、そして浴室入口の引き戸などなど、内部もいろんなところが新しくなったようです。天井に近い壁面には浴場の建設資金や備品を寄付した方々の名札がズラリと並んで掲げられていました。この浴場が多くの人々によって支えられている証ですね。

 
浴室内部も基本的構成には変化ありませんが、壁の羽目板や窓サッシが新しくなっており、以前よりさらに室内が明るくなったように感じられます。二つ並ぶ石の棺桶のような浴槽は以前のままですね。洗い場にお湯が出るカランが無いのも変わっていません。下手に外来者に迎合しないで、カランを追加したりしない姿勢が素敵です。


手前側の黒い御影石縁の浴槽は縦に入ると一人サイズ。まさに石棺。ひざを曲げて長辺に並んだとしても2人サイズでしょう。コップが置かれた湯口からは熱い源泉がしっかり注がれています。非加水だからか湯船の湯加減はかなり熱め。熱いお湯に慣れていない人には厳しいかも。


一方、縁が灰色の奥側浴槽は、長辺に並べば3人は入れるサイズ。こちらの湯口にもコップが置かれていますね。この画像の撮影時は、先客が水で薄めたためか、こちら側は湯加減が抑えられて入りやすい温度になっていましたが、若干お湯が鈍っているようにも感じられました。どちらが熱くてどちらが鮮度がよいかは、その時々に依るので何とも言えませんが、2つあることで、どちらか自分の好きな方を選べるのは嬉しいですね。

お湯は無色澄明で、湯面では硫酸塩泉らしい青白い光を放っています。とろみを有するお湯はキシキシした浴感で、湯中では白い綿のような湯の花が舞っています。火傷しないようにコップのお湯を吹きながら飲むと、タマゴ味と石膏味が明瞭に得られます。そして香ばしいタマゴ臭と石膏臭が漂ってきます。浴室に入った途端にほのかに鼻をくすぐるこの匂いを嗅ぐと、私は「あぁ沢渡に戻ってきたんだ」と安堵できます。

今から10年以上前ですが、湯口に置かれたコップでアツアツの源泉をフーフーしながら飲んだとき、温泉の共同浴場のお湯ってこんなに熱いのか、飲めるということは余程新鮮なんだな、と感心したものです。その後、こうした光景は全国にありふれていることを知るのですが、この沢渡の、加温加水循環消毒の無い完全掛け流しのお湯は、それからの私の温泉巡りにおけるお湯の良し悪しを判断する重要な基準になりました。

近所の四万温泉は観光客で賑わっているものの、こちらはまだ静寂さが保たれており、ちょっと鄙びた温泉地風情がしっかり残っています。沢渡は「草津の上がり湯」なんて言われて、昔から脇役扱いされてきましたが、お湯の格調の高さや清らかさ、そして温泉地の静寂な風情が素晴らしいので、個人的に評価すれば十分に主人公級の実力を有していると信じています。いつまでも存在し続けてほしい一湯です。


県有泉
カルシウム・ナトリウム-硫酸塩・塩化物温泉 55℃ pH8.5 成分総計1120mg/kg
Na:158mg, Ca:188mg, Cl:200mg, SO4:484mg,

JR吾妻線・中之条駅より関越交通バス・沢渡行で沢渡温泉下車(所要25分・600円)、バス停より徒歩1~2分
群馬県吾妻郡中之条町上沢渡2310  地図
0279-66-2841

9:00~20:30
300円
ドライヤーあり、他備品類なし

私の好み:★★★
コメント (5)
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