<おでん屋>
凍てつくような寒い夜には、湯気ものがいい。たとえば、熱々のおでんに熱燗なんかは最強のコンビではないだろうか。
前回の新札切り替えのころだったと思う。だから2004年か2005年くらいだ。
深夜近くの御徒町界隈でおでんの屋台を見つけ、かなり酩酊していたのだが匂いにつられもうちょっとだけのつもりで、ついふらふらっと入ってしまったことがある。
酒を二合と安そうなおでんを三つほど食べて、さあ切り上げようと、
「いくらですか」
と、自分もチビリチビリ酒を呑みながら商売しているオヤジに訊いた。
「・・・と、まいど、千八百円です」
屋台としては、まずまず良心的な値段だろう。
「じゃあ、これで。釣りはいらないから」
「あっ、こりゃあどうも。ありがとうございました。お気をつけて、またどうぞ」
と、夷顔で送りだされた。
御徒町駅で、切符を買おうと財布をだすと中身がえらく少ない。たしか一万円の他に五千円札があったはずだが・・・。
あっ、いっけねぇ!
千円札二枚渡すはずが、千円札と五千円札を渡してしまったのだ。二千円の勘定に、倍の四千円の心づけかよ。二万円の宿に泊まって、仲居がいくら好みのタイプでも四万円のチップ渡すか。魂胆みえみえで絶対受け取らんだろうが。そういえば、あのオヤジの夷顔は二百円では吊りあわなかったぞ。
新札に切り替わったばっかりで、五千円札が千円札とほぼ同じ大きさだったので間違えたのだ。しまった。
腕時計をみて最終電車の時間をたしかめ、慌てて屋台に戻ってオヤジに言ったが「二千円しかもらっちゃいない」の一点張り。
現金の授受はその場限り、銀行でも窓口でいわなきゃだめだ。
こういうのを「後の祭り」というんだろうなあ。最終の時刻も迫ってるし、乗りこしたときのタクシー代、あるいは久しぶりに払う人生の授業料とあきらめた。
屋台のおでんもいいが東京、横浜では、初めての客とかカップルだとボられることが多いから店のおでんのほうが安心だ。
酒呑み友達が最近みつけて二、三度いったという川崎駅西口近くのおでん屋に連れていってもらった。
「菱花(りょうか)」という名前の店だ。
はいった正面に八人掛けくらいカウンター、右にテーブル席が四人掛けと二人掛け、左手に四人卓がふたつの小上がりの座敷があった。
まだ六時と早い時間なので客はカウンターに四人、四人掛けテーブルに二人の客の入りである。
冬場だし荷物も多いので空いている座敷の四人掛けに座ろうとすると、カウンターを指定された。友人はムッとしたようだが、二人で黙ってカウンターの左側の空いている席に座る。小上がりの座敷を無理無理に広げたために背後が非常に狭くなっているところだ。
わたしはこういう扱いにジツは慣れているのである。どんな店にでも適応して楽しめるタイプなのだ。暖簾をくぐって帰るまでに、料理が平均より不味かったり不愉快な店と判断したら、これきりにすればいい。
鞄を置くスペースがないので二人とも足元に置き、コートは椅子の背にギュウギュウ折り曲げて背中で押さえることにした。
まずは熱燗を二本頼み、わたしはメニューを見ずに<すじ>と<ちくわぶ>を注文する。わたしもそうであるが、男は案外<ちくわぶ>が好きなひとが多い。
<すじ>には、大阪のおでん屋でを頼んで<牛スジ>が届いて「こんなもん頼んだ覚えはない!」と、ひと悶着した苦い思い出がある。
おでんの料金は百円と百八十円の二種類と良心的な安さで、この店では、魚のすじと牛すじを間違えないように記してある。
出されたおでんは濁りのない、いい塩梅の出汁が絶妙に滲みていて、びっくりするほど美味しい。
続いて、お餅と餃子巻きを注文し、酒も追加した。
お餅は、注文を受けてから鍋にいれるので時間がかかるという。たいていのおでん屋ではトロトロの餅になったのがでてくるからこれは、嬉しい。
注文を受けてから鍋にいれる具は、ハンペンとか他にもあるようである。
酒を呑むときにほとんど食べないわたしが次々と注文するので、友人はあきれかえっているが、自分が連れてきた店だから満更でもないようだ。
この川崎の安くて美味しいおでん屋、寒い日にはきっと思いだして癖になりそうな予感がする。
→「適応」の記事はこちら
凍てつくような寒い夜には、湯気ものがいい。たとえば、熱々のおでんに熱燗なんかは最強のコンビではないだろうか。
前回の新札切り替えのころだったと思う。だから2004年か2005年くらいだ。
深夜近くの御徒町界隈でおでんの屋台を見つけ、かなり酩酊していたのだが匂いにつられもうちょっとだけのつもりで、ついふらふらっと入ってしまったことがある。
酒を二合と安そうなおでんを三つほど食べて、さあ切り上げようと、
「いくらですか」
と、自分もチビリチビリ酒を呑みながら商売しているオヤジに訊いた。
「・・・と、まいど、千八百円です」
屋台としては、まずまず良心的な値段だろう。
「じゃあ、これで。釣りはいらないから」
「あっ、こりゃあどうも。ありがとうございました。お気をつけて、またどうぞ」
と、夷顔で送りだされた。
御徒町駅で、切符を買おうと財布をだすと中身がえらく少ない。たしか一万円の他に五千円札があったはずだが・・・。
あっ、いっけねぇ!
千円札二枚渡すはずが、千円札と五千円札を渡してしまったのだ。二千円の勘定に、倍の四千円の心づけかよ。二万円の宿に泊まって、仲居がいくら好みのタイプでも四万円のチップ渡すか。魂胆みえみえで絶対受け取らんだろうが。そういえば、あのオヤジの夷顔は二百円では吊りあわなかったぞ。
新札に切り替わったばっかりで、五千円札が千円札とほぼ同じ大きさだったので間違えたのだ。しまった。
腕時計をみて最終電車の時間をたしかめ、慌てて屋台に戻ってオヤジに言ったが「二千円しかもらっちゃいない」の一点張り。
現金の授受はその場限り、銀行でも窓口でいわなきゃだめだ。
こういうのを「後の祭り」というんだろうなあ。最終の時刻も迫ってるし、乗りこしたときのタクシー代、あるいは久しぶりに払う人生の授業料とあきらめた。
屋台のおでんもいいが東京、横浜では、初めての客とかカップルだとボられることが多いから店のおでんのほうが安心だ。
酒呑み友達が最近みつけて二、三度いったという川崎駅西口近くのおでん屋に連れていってもらった。
「菱花(りょうか)」という名前の店だ。
はいった正面に八人掛けくらいカウンター、右にテーブル席が四人掛けと二人掛け、左手に四人卓がふたつの小上がりの座敷があった。
まだ六時と早い時間なので客はカウンターに四人、四人掛けテーブルに二人の客の入りである。
冬場だし荷物も多いので空いている座敷の四人掛けに座ろうとすると、カウンターを指定された。友人はムッとしたようだが、二人で黙ってカウンターの左側の空いている席に座る。小上がりの座敷を無理無理に広げたために背後が非常に狭くなっているところだ。
わたしはこういう扱いにジツは慣れているのである。どんな店にでも適応して楽しめるタイプなのだ。暖簾をくぐって帰るまでに、料理が平均より不味かったり不愉快な店と判断したら、これきりにすればいい。
鞄を置くスペースがないので二人とも足元に置き、コートは椅子の背にギュウギュウ折り曲げて背中で押さえることにした。
まずは熱燗を二本頼み、わたしはメニューを見ずに<すじ>と<ちくわぶ>を注文する。わたしもそうであるが、男は案外<ちくわぶ>が好きなひとが多い。
<すじ>には、大阪のおでん屋でを頼んで<牛スジ>が届いて「こんなもん頼んだ覚えはない!」と、ひと悶着した苦い思い出がある。
おでんの料金は百円と百八十円の二種類と良心的な安さで、この店では、魚のすじと牛すじを間違えないように記してある。
出されたおでんは濁りのない、いい塩梅の出汁が絶妙に滲みていて、びっくりするほど美味しい。
続いて、お餅と餃子巻きを注文し、酒も追加した。
お餅は、注文を受けてから鍋にいれるので時間がかかるという。たいていのおでん屋ではトロトロの餅になったのがでてくるからこれは、嬉しい。
注文を受けてから鍋にいれる具は、ハンペンとか他にもあるようである。
酒を呑むときにほとんど食べないわたしが次々と注文するので、友人はあきれかえっているが、自分が連れてきた店だから満更でもないようだ。
この川崎の安くて美味しいおでん屋、寒い日にはきっと思いだして癖になりそうな予感がする。
→「適応」の記事はこちら
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