On The Road

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6-19

2010-03-13 11:05:07 | OnTheRoad第6章
 僕が黙ってしまったので、あずは1人で話しはじめた。「走りたくなくなったって言ったら、コージ君はやめてもいいって言ってくれた?」
 今の僕なら言えると思う。でも、いい先輩でいたかった僕は「がんばれ、スズキさんならできるよ」なんて言ったかもしれない。スズキさんが弱音をはくなんてアリエナイよとか。

 一番苦しい35キロメートルあたりではいつもカッコよくゴールする自分をイメージしながら走っていたと、あずは言った。さっそうとゴールする姿は僕もよく覚えている。2年生最後のレースでイメージ通りのゴールができなくて、「ドンマイ」なんて僕は言ったけど、それからいいイメージができなくなってしまった。
 レースだけじゃなくて自分の将来や現在や過去までつまらない気がして、僕とつきあったら元に戻れると思ったけど、僕は優秀なランナーのスズキさんを育てようとしていて、自分のつまらない大学生活を楽しそうに話すばかりで、あずがバリアと表現した壁みたいなものを感じたと言われた。

 頭の中のクモは隅のほうで動きをとめた。秋生まれの僕が19歳になる直前の夏、スズキさんを選手としか見ていなかったわけはない。もしそうだったら、デートのまえにあわててHな雑誌を片付けたりしなかったはずだ。


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