「ほら、さっさと食べなさい」
遅めの朝食の時間。食卓には小頭と足軽……に成り代わってる鬼が座ってる。既にお爺ちゃんもおばあちゃんもなにか用事があるようで外に出てるらしい。それに父親もだ。出されたのは白飯に味噌汁。あとはおばあちゃんが漬けてた漬物が数点である。朝なんてこんなものだ。それは別にいい。むしろ小頭はパンでもいいくらいだ。けどおじいちゃんもおばあちゃんもご飯派なのだ。
「あっ」
プルプルと震えてる小頭は箸でうまく挟むことが出来なかった。狙ってた漬物が箸から飛び出していってテーブルに落ちた。それも丁度小頭と鬼の間である。ちなみにいうと二人は隣り合わせで座ってる。だってそれがいつもの位置なのだ。自然と小頭はいつもの位置に座った。そしたら鬼もいつもの……そういつも本当の足軽が座る所に鬼は座ってきたのだ。その瞬間もちろんだけど小頭は後悔した。どうしていつもの場所に座ってしまったのか。別に今は六人分の椅子があるのだ。今ならどこにだって座り放題だった。
なのに、自然といつもの場所に座ってしまった。もしかしたら鬼も足軽がいつも座る所に座るかもしれない――とちょっとでも考えたら回避できたかもしれない。でももう遅いのだ。移動しようとしたときには既にお母さんが朝食を持ってきてた。逃げ場はなかった。
小頭の箸から飛び出た漬物はポツンとテーブルの上に野垂れてる。
(どうしよう)
このまま無視してもいいと小頭は思ってた。だって別に漬物の一個である。床に落ちたわけでもないからまだ食べられるが……これはもう気付かなかったふりをしてさっさと朝食を済ましてしまおうか? と葛藤してる。すると……だ。ニョキっと伸びてくる別の箸。それがテーブルに野垂れてる漬物に伸びてそれを器用にとる。そしてそのままパクッと口に放り込んだ。そして一気にご飯をかきこむ。茶碗に大盛だったご飯は一瞬で口の中に放り込まれて、大きく頬を膨らませて咀嚼してる。
そしてそんな鬼と目が合う小頭。そしたらなんとその口の両端の口角を上げて、にやーとしてきた。まるで得意げに「やってやったぞ」みたいな……そんな表情だった。
「何ぽけーとしてるのよ小頭。今日も二人で知り合った子と遊ぶんじゃないの? 急がないと遅れるわよ」
「はっ!?」
その母親の言葉で思い出した。確かに今日も幾代との約束がある。でも……だ。でも……二人で、二人っきりで彼女との待ち合わせ場所でいくの? 絶対に間が持たない自信がある小頭だ。それに、こんな鬼と二人っきりなんて何されるかわかったものじゃない。今は普通に野々野足軽として大人しくしてる。でも、こいつは兄じゃない。兄じゃないのだ。他の人たちには足軽に見えてるようだけど、小頭にはそうは見えない。だから二人っきりなんてなんとしても嫌だった。
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