た・たむ!

言の葉探しに野に出かけたら
         空のあお葉を牛が食む食む

愚直

2010年10月04日 | Weblog
 松本平は朝から叩きつけるような雨である。

 愚直に生きる、ということが大変難しい時代であると思う。何が愚直なのかがまずもって難しい問題であるが、たとえば、寂れた商店街に一軒の模型屋があるとする。たかが模型と多くの大人は見るが、店主は模型作りに誇りと情熱を注いで半生を生きてきたのであり、多く売ることよりは、「きちんと」売ることを心掛けてきた。そのため、店に来る客の態度が横柄であったり、商品の扱いがぞんざいであったりすると、あからさまにいやな顔をして売るのを渋るのである。こういう店が流行るはずもなく、商店街全体の衰退も手伝って、売り上げは右下がりの一途をたどった。
 もちろん経営上店主のやり方が不味いのは明らかであり、それは彼自身も十分認識している。しかし彼は自分の哲学を時勢に合わせて修正するよりも、その信念を貫いてじっと看板を下ろす日を待つ方を選んだ。
 今日も彼は、店の奥のカウンターに腰かけ、客がいようがいまいが仏頂面のまま、黙々とピンセットを動かして模型を修理するのである。

 昨日、子供とそういう店を訪れた。私は初めてだが、子供は何回か入店したことがあると言う。店主の頑迷な性格について、多くは子供から情報を得た。実際、彼がどの程度「愚直」であるかは、想像の域を出ない。安物を買ってその店を出た。

 雨音を聞きながら、ふと彼のことを思い出した。
コメント
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