幼少期の頃から、虐待やネグレクトが繰り返される逆境体験は、子どもにとって生きるか死ぬかの過酷な環境。
容赦のない虐待や、不幸にも痛ましい外傷体験を受けた子どもは、戦うことも逃げることからも失敗し、恐怖と眠りのなかで無力化する。
そして、どんなに酷い目に遭わされても親への愛着を求めていく部分や、親の取っている言動を冷めた目で見ている部分、
危害を加えられることから防衛しようとする部など、生き残りをかけて自己が組織化される。
トラウマを負った人の内なる世界では、様々な分裂が起こり、人格化した魂たちが内的な象徴空間で生活するためにイマジネーションを膨らませる。
心とは本来、形のないものですが、人格化した魂(交代人格)たちが沢山の時間を要して内部世界を知覚、認識して、感情や記憶を制御することに成功する。
内部世界は、体感的には夢の中にいるような感じで、心の形を具現化したような世界。
解離研究者の柴山は、この内部世界を「膜の向こう側の世界」とは外部の暗闇の世界であるが、
この世界とは異なる「別のもう一つの場所」であり、それは「どこにもない/ある場所」でもある。
現実のこの世界のどこかにあるというわけではないが、覚醒世界の地層に常に横たわる夢の世界のようにどこにもある世界でもある。
そのような世界体験は解離の意識変容と密接な関連性を有する原初的意識へと通じている。
解離性同一性障害の人(人格部分が心の中に複数ある)の内部世界には様々な構造があり、
ロビーと部屋しかない白い世界の人もいれば、公園や広場もあって屋敷の外まできちんと規定されている複雑な人までいる。
さらに、人格の分かれた部分は、この内部世界を気ままに歩いて、子どもたちと他愛のない話をして暮らしている。
内部世界でも五感はしっかりしていて、現実世界の状態と大して変わらない。
また、迫害者人格にも内部世界があって、そこは人間への憎しみや恨みが集まっており、
一面にバラバラの死体(憎悪に心を奪われた迫害者が、無抵抗だった子どもの頃の自分をいたぶった加害者を生け捕りにして、
毎晩のように痛めつけて殺す)が転がるあまりに残酷でおぞましい光景が広がる。
さらに、病状の中に閉じ込められた人格部分は、痛みや激しい攻撃性を抱えているために、
地下世界にある頑丈に鍵のかかった牢屋のなかで過ごしている。
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