「嘆きのピエタ」「メビウス」の鬼才キム・ギドク監督が、女子高生殺人事件の容疑者たちを次々と拉致して拷問にかける謎の武装集団の目的とその顛末を、寓意に満ちたミステリアスな語り口で描き出したサスペンス・ドラマ。主演は「悪いやつら」「群盗」のマ・ドンソク、共演に「春夏秋冬そして春」のキム・ヨンミン。
あらすじ:とある5月9日の夜。ソウル市内で一人の女子高生が男たちの集団に捕まり、無惨に殺された。しかし事件は表沙汰になることなく闇に葬り去られた。1年後、事件に関わった7人の男たちを一人、また一人と拉致しては、激しい拷問によって自白を強要する謎の集団が現われる。はたして女子高生はなぜ殺されたのか。そして謎の集団の正体とその目的とは。やがて事件の真相が徐々に明らかになってくるかに思われたが…。
<感想>キム・ギドク監督と言うと、「嘆きのピエタ」残酷もので考えさせられる作品ばかり。「メビウス」は、私はこういう映画は嫌いなので観る気になりませんでしたが、今回の作品は、人間の業をどこまでも深く見つめ、シンプルな話術でかつ暴力的な、威力のこもる映画を撮り続ける昔のキム・ギドク監督の流儀に則った作品だと思います。
冒頭まもなく殺害される女子高生のミンジュ。新聞にも取り上げられない些細な殺人事件。というよりも惨忍な少女レイプ殺人事件でもある。ですが、1年後、謎の集団「シャドーズ」によってミンジュ殺害に関わった人間たちが拉致されるようになる。
拉致された人間は、拷問を受け、ミンジュの写真を見せられ、彼女が殺された5月9日の出来事を書けと迫られる。拷問シーンは、鎖で身体を縛り付け手を金槌で叩いて潰す。それに釘を打ち付けたこん棒で背中や頭を殴るし、それに水攻めに耳にヘッドホンで大音量を聞かせたり電気式拷問器を使ったり、挙句に殴る蹴るのいつものキム・ギドク流の残酷さ。
始めは、謎の集団は何者なのかと、殺された少女ミンジュの名前が「民主主義」から取られているという。少女殺害の実行犯である末端の者たちは、殺人の罪悪感あえいでいるが、命令を上から下へと伝えるだけの管理職になるにつれ、罪の意識も薄らいでいくのだ。人間社会という巨大なシステムについての彼なりの考えであるように思う。
謎の報復集団「シャドーズ」の行動を追ううちに浮かびあがる、弱肉強食や、復讐という終わりなきテーマが浮かび上がってくる。拉致した関係者を拷問にかけても解決はしない。中盤あたりから、ミンジュが殺された被害者の兄か、父親なのか分からないが、その男「群盗」にも出ていたマ・ドンソクが、リーダーとなって血なまぐさい復讐を遂行する。いくつものコスチュームプレイ(迷彩服の兵士、特殊部隊、清掃婦など)が喚起させるのは、権力を維持する制服の暴力でもある。
撮影も自分でしてしまうし、登場人物も同じ俳優に何役も(キム・ヨンミンが8役で演じ分けているのも象徴的)その中でも恋人のDVで苦しむ女、レストランで客の料理にツバを吐くウェイトレスとか。そして、男たちは、部品を勝手に売り捌く自動車修理工の兄ちゃん、アメリカに留学したものの就職できないニート(この高学歴男とボスが英語で台詞を話す)奥さんの手術代のために闇金から借金をしている男、詐欺にあい全財産を失った男、など社会的にはダメな人間といえる男たちで構成されている「シャドーズ」。
紋切型の拷問シーンや観たくもない、いらないと思うセックスシーンなど、敢えて戯画化しているのは上手くいっているようには思えないが、チープなデジタルの映像から作者の叫びだけは、確かに伝わってくるのだ。拉致されて、拷問を受け、少女レイプ殺人に関係があった者として署名をした男たちは、そこを出されて後に拳銃自殺をする者もいる。
ギドクには珍しく、台詞が説明的なのが気になるが、不条理に対して一切目を逸らさない姿勢には、圧倒させられます。クライマックスで、リーダーが彼自身の役割を端的に表現する台詞は、かなり胸に迫ってきます。自分も昔、上官であった時に、手下に暴力で押さえつけたことを。
「シャドーズ」の仲間たちが、暴力は嫌だと抜け出していく様を見て、殺されたミンジュの仇討ちという大義名分で、拉致した関係者たちを拷問にかけて認めさせても、暴力の連鎖しか生まれないことを知る。
ギドクはいつも映画にしたいテーマが、身体全体からあふれ出ているような人なのではないかと感じさせる。答えのないものを探り続けるその執念は、美徳なのか、不毛なのか?・・・計り知れない。
2016年劇場鑑賞作品・・・65映画(アクション・アドベンチャー) ブログランキング
あらすじ:とある5月9日の夜。ソウル市内で一人の女子高生が男たちの集団に捕まり、無惨に殺された。しかし事件は表沙汰になることなく闇に葬り去られた。1年後、事件に関わった7人の男たちを一人、また一人と拉致しては、激しい拷問によって自白を強要する謎の集団が現われる。はたして女子高生はなぜ殺されたのか。そして謎の集団の正体とその目的とは。やがて事件の真相が徐々に明らかになってくるかに思われたが…。
<感想>キム・ギドク監督と言うと、「嘆きのピエタ」残酷もので考えさせられる作品ばかり。「メビウス」は、私はこういう映画は嫌いなので観る気になりませんでしたが、今回の作品は、人間の業をどこまでも深く見つめ、シンプルな話術でかつ暴力的な、威力のこもる映画を撮り続ける昔のキム・ギドク監督の流儀に則った作品だと思います。
冒頭まもなく殺害される女子高生のミンジュ。新聞にも取り上げられない些細な殺人事件。というよりも惨忍な少女レイプ殺人事件でもある。ですが、1年後、謎の集団「シャドーズ」によってミンジュ殺害に関わった人間たちが拉致されるようになる。
拉致された人間は、拷問を受け、ミンジュの写真を見せられ、彼女が殺された5月9日の出来事を書けと迫られる。拷問シーンは、鎖で身体を縛り付け手を金槌で叩いて潰す。それに釘を打ち付けたこん棒で背中や頭を殴るし、それに水攻めに耳にヘッドホンで大音量を聞かせたり電気式拷問器を使ったり、挙句に殴る蹴るのいつものキム・ギドク流の残酷さ。
始めは、謎の集団は何者なのかと、殺された少女ミンジュの名前が「民主主義」から取られているという。少女殺害の実行犯である末端の者たちは、殺人の罪悪感あえいでいるが、命令を上から下へと伝えるだけの管理職になるにつれ、罪の意識も薄らいでいくのだ。人間社会という巨大なシステムについての彼なりの考えであるように思う。
謎の報復集団「シャドーズ」の行動を追ううちに浮かびあがる、弱肉強食や、復讐という終わりなきテーマが浮かび上がってくる。拉致した関係者を拷問にかけても解決はしない。中盤あたりから、ミンジュが殺された被害者の兄か、父親なのか分からないが、その男「群盗」にも出ていたマ・ドンソクが、リーダーとなって血なまぐさい復讐を遂行する。いくつものコスチュームプレイ(迷彩服の兵士、特殊部隊、清掃婦など)が喚起させるのは、権力を維持する制服の暴力でもある。
撮影も自分でしてしまうし、登場人物も同じ俳優に何役も(キム・ヨンミンが8役で演じ分けているのも象徴的)その中でも恋人のDVで苦しむ女、レストランで客の料理にツバを吐くウェイトレスとか。そして、男たちは、部品を勝手に売り捌く自動車修理工の兄ちゃん、アメリカに留学したものの就職できないニート(この高学歴男とボスが英語で台詞を話す)奥さんの手術代のために闇金から借金をしている男、詐欺にあい全財産を失った男、など社会的にはダメな人間といえる男たちで構成されている「シャドーズ」。
紋切型の拷問シーンや観たくもない、いらないと思うセックスシーンなど、敢えて戯画化しているのは上手くいっているようには思えないが、チープなデジタルの映像から作者の叫びだけは、確かに伝わってくるのだ。拉致されて、拷問を受け、少女レイプ殺人に関係があった者として署名をした男たちは、そこを出されて後に拳銃自殺をする者もいる。
ギドクには珍しく、台詞が説明的なのが気になるが、不条理に対して一切目を逸らさない姿勢には、圧倒させられます。クライマックスで、リーダーが彼自身の役割を端的に表現する台詞は、かなり胸に迫ってきます。自分も昔、上官であった時に、手下に暴力で押さえつけたことを。
「シャドーズ」の仲間たちが、暴力は嫌だと抜け出していく様を見て、殺されたミンジュの仇討ちという大義名分で、拉致した関係者たちを拷問にかけて認めさせても、暴力の連鎖しか生まれないことを知る。
ギドクはいつも映画にしたいテーマが、身体全体からあふれ出ているような人なのではないかと感じさせる。答えのないものを探り続けるその執念は、美徳なのか、不毛なのか?・・・計り知れない。
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