パピとママ映画のblog

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この世界の片隅に★★★★★

2016年12月07日 | アクション映画ーカ行

第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞した、「長い道」「夕凪の街 桜の国」などで知られるこうの史代の同名コミックを、「マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直監督がアニメ映画化。第2次世界大戦下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前向きに生きようとするヒロインと、彼女を取り巻く人々の日常を生き生きと描く。
あらすじ:昭和19年、故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に18歳で嫁いできた女性すずは、戦争によって様々なものが欠乏する中で、家族の毎日の食卓を作るために工夫を凝らしていた。しかし戦争が進むにつれ、日本海軍の拠点である呉は空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。それでもなお、前を向いて日々の暮らしを営み続けるすずだったが……。能年玲奈から改名したのんが主人公すず役でアニメ映画の声優初挑戦を果たした。

<感想>この映画を観るために何度もミニシアターへ足を運んだ。いつも満員で席が無かったからで、やっとの思いで観ることができ、満員の席で小さくなりながら、感涙にひたりこんなにも自然に泣けて来る映画を観て、戦時中にすずさんのような女性が、広島原爆の後を生き抜いてきたことを、真実のように受け止めることが出来たのを嬉しく思いました。

水彩画的なタッチと主人公の絵心がマッチしていて、極上の効果を生んでいます。日常への余りにも平凡で、戦時中であるのにのんびりとしている主人公の姿に、少し不満もありましたが、終わってみると納得の出来栄えであり、さすがの構成力に感心しました。

もちろんCGでも昭和19年当時の、呉の街並みを再現することは可能でしょうが、本作のようにアニメで描かれたそれには敵わないであろう。つまり、描くということは、行為そのものの厚みがこの世界を生かしているからでもあり、それは北條すずをはじめとする人物造形についても言えるから。

主人公すずの声には、これ以外にはないと思わせる語りで大健闘をして、生命を吹き込んだ“のん”ちゃんの声優も偉いといえる。かくして、世界の片隅で生きる一人の平凡な女性の、戦中から戦後への暮らしが普遍的な輝きを帯びて浮かび上がって来るのだから。

太平洋戦争の末期の、日本の地方都市での生活の在り方を、じつに正確に、しかも暖かい温もりを込めて描いたアニメーションの力を感じました。戦中が特別なのではなく、戦前も戦後も継続した時間にすぎないという、忘却された個人の視点から見事に映し出されているのも素晴らしかった。

最初の方に出て来る県産業奨励館の新しい姿が浮かび上がるだけで、ここが原爆で骨組みだけになったとは。胸が痛むのだが、軍港である呉市が、まだ干潟だったころの、すずのお使い風景から始まり、ああそういう映画なんだと、胸をなでおろす感じがした。
広島に投下された原子爆弾のきのこ雲の描き方に、黒と赤色がチラチラと見えるあたりもリアルに描かれていた。そして、爆撃シーンもアニメならではの息吹がもたらされ、まるで花火が上がっているようなスケッチで描かれていて、柔らかなタッチながら日常のなかの戦争を、実感させているのも良かった。

すずが、母親の決めた縁談で、あれよあれよという間に、結婚してしまうのもあの時代らしい。18歳で嫁に行き、大家族の家庭を切り盛りし、ここでは、義姉が見かねて何でも自分でこしらえてしまうのだが、そんな嫌がらせともいえる小姑いびりも、頭に10円ハゲをいくつもこさえて耐え忍んでいたことを知る。

そして、コメの配給が少ないのを誤魔化すために、大根と葉っぱを米に混ぜて炊く、楠木正成が工夫したとかいうご飯の炊き方をしてみるのだが、あまりおいしくはなかったようだ。
その当時は、着物は贅沢ということで、農家の作業衣みたいなモンペを着なければならず、義姉に自分で着物を直して作れと言われて、浴衣を見様見真似で作り直す、すずの根気もすごい。
それに、故郷の男が自分勝手に恋人気取りで、ガキ大将だった若者が、水兵になって突然、すずの家を訪れるて困惑させるエピソードもある。いかにもあの時代の日本らしく滑稽であり、と同時に切なく思えてならなかった。

すずが嫁いだ先には、小姑の義姉が娘の晴美を連れて同居しており、その姪っ子と仲良く田んぼへ出ては、海を眺めてスケッチブックに「戦艦大和」「青葉」に航空母艦などを描いて楽しんでいたすずだが、憲兵に見つかりお小言をくらってしまい、そのことでは、家族は笑い話にしてしまうというとても物わかりのいい家族でした。

その姪っ子の晴美を連れて広島へいき、帰り道で落ちてきた爆弾に出会い、晴美と繋いでいた右手を失い、それにお腹の子供も失ってしまい、自分が生きていることを恥じに想いながら苦しむすずの姿が映し出される。
毎日、この世に生き延びたことを悔やみ苦しみ、あの時に自分も晴美と我が子と一緒に、あの世へ行っていたらと思う毎日。晴美を失って怒る義姉の声が耳から離れない。
余りにも戦争の音が生々しくって、中盤以降は、すずさんの上に覆いかぶさって来る苦難が、すずの小さな体には大きすぎるようで、いたたまれなくなり、夫の周平に言うすずの言葉に「ありがとう、この世界の片隅に、うちを見つけてくれて」。この言葉が一番私に勇気を与えてくれ、小さな心の灯となることを。

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