噛みつき評論 ブログ版

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ジャーナリストの謝罪

2009-01-05 09:35:05 | Weblog
 『08年11月、スウェーデンの元記者は30年ぶりにカンボジアを訪問しました。30年前、元記者はポルポト政権に招かれ、用意されたルートを取材したあと、ポルポト支持の記事を発表します。しかしその半年後にポルポト政権は崩壊し、150万人とも推計される虐殺をはじめ、数々の弾圧の事実が明らかになりました。今回の訪問はその過ちをカンボジア国民に謝罪するためのものです。情報操作の片棒を担いだ自分の過ちを世界に伝えることを今後の仕事としたい、と元記者は語っています』

 上記は08年11月24日7時30分、NHK第一放送で紹介された内容を記憶に基づいて要約したものです。ベトナム戦争後に起きたポルポトによる大量虐殺や中国のベトナム侵攻などによって、共産主義のイメージは大きく傷つくのですが、スウェーデンの元記者がカンボジアを取材に訪れた時期はまだ少なからぬ人が共産主義に期待をもっていた頃で、同様に共産国の宣伝に利用された日本人記者も少なくなかったと思います。

 スウェーデンの元記者はポルポト政権を美化する記事を発表することで政権の延命に少しは手を貸したかもしれませんが、影響は間接的で限られたものでしょう。それでも自分の過ちを伝えるのはジャーナリストとしての使命感、あるいは良心なのでしょうか。

 翻って、わが国の事情はどうでしょうか。1959年に始まった「地上の楽園」北朝鮮への帰国事業では84年までに93340名が帰国したとされています。帰国者がその後どうなったかは最近の報道で明らかです。帰国事業は労働力不足解消を目的とした北朝鮮の思惑による事業だと言われていますが、日本のマスコミは「地上の楽園」北朝鮮礼賛の記事を書き、多大な協力をしました。

 当時は共産主義がまだ色褪せていなかったという時代背景があり、それはスウェーデンの元記者がポルポト政権を取材したときと同様、多少の弁解にはなるものの、誤った報道をしたという事実は消えません。そして日本の場合、マスコミの煽動によって「地上の楽園」を信じて帰国する人を生みました。この被害は直接的、かつ深刻です。

 私の記憶の限りですが、マスコミが過去の北朝鮮礼賛の記事を訂正したり、謝罪したことはなかったと思います。また見聞記などの著書によって結果的に共産諸国の情報操作に加担した記者などが謝罪したことも、また記者などが処分を受けたことも知りません。この業界内部への寛容さは、他業界の不祥事や偽装に対する苛烈なまでの厳しさと好対照です。

 マスコミは役人の無謬主義(むびゅうしゅぎ:誤りがないとする立場)をしばしば批判しますが、マスコミも負けず劣らずの無謬主義であり、謝罪文を見ることは滅多にありません(そう言えば決して非を認めない偏狭な人もよく見かけますね)。無謬主義は面子のため、あるいは権威を保つためのものでしょうが、使いすぎると逆に信頼性を失う危険があります。

 数字など、弁解の余地のない間違いは訂正するものの、小さい訂正記事をこっそり載せるのが普通です。訂正記事が見逃されては元記事の誤りがそのままになりますから、元記事より目立たせるのが当然です。訂正記事は元記事の2倍の大きさで、赤文字とするなどのルールを作っては如何でしょう。