祝日は国旗を掲揚しましょう。
★精神学協会「日本のいまを考える」から転載
『精神学協会』
http://www.godbrain.com/gb/letter/
■日本のいまを考える#49
●日本文明と日本人…それは進化なのか退化なのか。
あけまして、おめでとうございます。
私にできることは、与えられている人生の時間を、とことん生かすべく努めること。
引き続き、今年もまた力いっぱい元気よく、志を持って楽しく走りぬきたいと思います。
今年は冬季五輪の開催される年ですが、その次は東京五輪。
二年後の五輪に向けて、東京がどのようになっていくのか、一抹の不安を感じつつ、混乱ができる限り少なくなるとよいと思っています。
競技場設計変更に伴う工期の遅れもさることながら、交通、駐車場、宿泊施設などに関して、都民としては悩ましい課題がたくさんあります。
予定通り開催されれば、二年後、海外からも多くの観客を迎えます。
日本文化、日本の良いところ、良くないところ、さまざま紹介される機会にもなります。
海外から見る日本の特異性、原点はどこでしょう?
日本文明の礎とは・・・と考えると、私の中には「日本語!」という答えが即座に湧き上がります。
言語音の面からも、言語体系としても、かなり個性的な言語だと思います。
そして、その日本語土壌のうえに日本的な「和」の文化が成り立っています。
言葉では和歌、音楽では雅楽、建築では宮大工のさまざまな技術、芸においては能、スポーツでは奉納神事に始まった相撲や、柔道、剣道など「道」を究めるもの、といったように、周辺諸国や遠い異国の文化をも抱き込みながら、二千年を超える長い年月をかけて日本独自の日本らしさは表現されてきました。
日
本文化の特徴は、研ぎ澄まされた感性や優れた技能というだけでなく、なんといっても精神性を必要としているところではないかと私は感じてきました。
もともと、どこの文化でもそういう面はもちろんあるのですが、人間のもつ光と、闇ともいえる影のようなコントラストでいうと、圧倒的に光の要素が強いところに特徴があるのではないかと思います。
幽玄の薪能などは、冥界との交信によって弔い、昇華へとつなぐもの、というイメージがありますが、写真家であり建築、造園も手がける杉本博司さんが一月二十七日、渋谷のセルリアンタワー能楽堂で「 Noh Climax 」という企画を立てられています。
チラシから引用します。
----------------------------- 引用開始
能 クライマックス 杉本博司
ノークライマックスは不感症と訳す。冥界との交信装置がわが国固有の演劇形式としての「能」であると私は常日頃から思っている。交信には陰陽師や巫女などの特殊技能集団もいたが、日本人が潜在的に持っている冥界交信能力に訴えかける演劇として能は発展してきた。
神も仏もいない近代化の果ての現代に至って、日本人の冥界交信能力は絶滅期を迎えつつある。社会そのものが不感症の時代に陥ってしまったのだ。私は今、能のクライマックスに向けて、私のもとへと参集してきた、古の能面たちに登場願うことにした。不感症の治療には、あの昔日の喜びを思い出すしかないのだ。
----------------------------- 引用ここまで
幽玄の世界、能に対しても本来の交感を得られなくなり、「古典芸能」としての評価に走っている現代に揺さぶりをかけたいようす、それは、文化への扱いに対するひとつの視点を提案しているように感じます。
神も仏もいない近代化の果ての現代・・・意図的にも、流されてであっても、どちらにしても神仏の位置にいまあるのはマネーであったりしています。
そして、いろいろなジャンルで、カバーはそのまま中身だけが神をマネーと置き換えたことに伴って、入れ替わってきています。
いま、日本文明がどうなるのかにおいて、とても重要な分岐点にあると思います。
昨年、友人とともに、「小田原文化財団 江之浦測候所」(二〇一七年)、MOA美術館(二〇一七年改装)、IZU PHOTO MUSEUM(二〇〇九年)と、杉本博司さんゆかりの場所を訪れました。
杉本博司さんは、平成二十九年度の文化功労者です。
美術手帳のオンライン記事から引用します。
----------------------------- 引用開始
杉本博司が文化功労者に選出。「国威発揚を文化を通じて行っていく」
政府は二十四日、平成二十九年度の文化勲章・文化功労者を発表。現代美術家・杉本博司が文化功労者に選出されたことがわかった。
「
文化功労者」は、文化の向上や発達に関して、特に功績のあった人を顕彰する国の制度で、毎年十五人程度が認定されている。昨年、草間彌生が受章した「文化勲章」は文化功労者のなかから選ばれることから、文化功労者は文化勲章に次ぐ名誉とされている。
平成二十九年度(二〇一七)文化功労者に選ばれた杉本博司は一九四八年東京生まれ。写真をはじめ、彫刻、インスタレーション、演劇、建築、造園、執筆などその活動は多岐にわたる。代表作は「海景」、「劇場」、「建築」シリーズなどで、近年では東京都写真美術館のリニューアル開館記念展「ロスト・ヒューマン」展(二〇一六)で文明の終焉を提示したことが記憶に新しい。
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また、二〇〇八年には建築設計事務所「新素材研究所」を設立し、IZU PHOTO MUSEUM(二〇〇九)、MOA美術館改装(二〇一七)などを手がけたほか、二〇一七年十月には文化施設「小田原文化財団 江之浦測候所」をオープンさせ、大きな話題を呼んだ。
これまでの主な受賞は、毎日芸術賞(一九九八)、ハッセルブラッド国際写真賞(二〇〇一)、高松宮殿下記念世界文化賞(絵画部門)(二〇〇九)などで、十年には秋の紫綬褒章を受章。十三年にはフランス芸術文化勲章オフィシエを叙勲。
今回の文化功労者選出について、杉本は以下のようにコメントを寄せている。
この度、文化功労者として顕彰されることは光栄のいたりでございます。私は成人してからのほとんどの時間を海外で過ごしてまいりました。その間、日本文化がいかに日本以外の文化に比べて特殊であるかということを身に沁みて感じ、またそのような環境のもとに生を受け、幼少期から青年期の多感な時期を過ごせたことを有り難く、また誇りに思ってまいりました。
私は日本人として、海外の人々からの日本文化に関しての様々な質問に答えてまいりました。いわば日本人の日本に関する説明責任を果たしてきたつもりでございます。今世界は成長の臨界点に達し、成長と環境破壊との矛盾になす術を持ち得ていません。私は日本文化の特殊性は、その豊かな自然に囲まれて過ごした縄文の1万年によるのではないかと考えるようになりました。
文明化とは森を切り自然を壊すことから始まります。古代の日本人は森を壊すことを禁じ、自然界に潜む神々と交信する技術を学びました。その時代に育まれた感性が今の日本人の血にも脈々と流れています。これからの難しい世界を導くことのできる力は、そのような感性の内に見出されるのではないか、自然と共生することのできる文明、それは日本人の感性の中にあると私は思います。文化功労者として、これからも国威発揚を文化を通じて行っていく所存でございます。
----------------------------- 引用ここまで
真鶴に近い「江之浦測候所」は、入館料は高いけれど、完全予約制で、人数も制限されているため、ゆっくり感じることができます。
私たちが訪れた日は、お天気が最高に良く、風のないおだやかな一日でした。
屋外展示の多い場所は、お天気による感覚差も大きいと思いますが、昔、みかん山だったというその場所は、とても気持ちの良い素敵な場所でした。
Hiroshi Sugimoto
https://youtu.be/NhZJF4IPXcw
若いころに、アメリカに渡り、古物商のようなことをしていたことがある杉本博司さん。
日本文化を代表するような文化財を模倣した遊び、笑いの質と精神については、多少の疑問が残りますが、職人のようでもあり、科学者のようでもあるスタンスで繰り広げられる空間や写真は、スッキリして好感が持てました。
昨年十二月に開催された積さんによるギャラリートーク、「ARTとMODEの死と再生」は、とても興味深いお話でした。
会場で出会えた方々とのお話も、とても興味深かったです。
ARTの語源がもともとは「職人」という方面なのだとすれば、杉本さんには「職人」の感があります。
文化功労者の前年度受賞者が草間弥生さんです。
トーク会場には、草間さんの関係者のご友人がお見えでしたが、私は彼女のアートが非常に苦手でした。
見ていると眉間にしわが寄って、ぐるぐると不安定になり、気分が悪くなるのです。
積さんのお話では、草間さんの目には、実際にあのように見え、あのように感じられるのだということでした。
お
話にもありましたが、ある意味では精神を病んでおられるのでしょう。
私は存じ上げない方でしたが、クールジャパンで有名らしい奈良美智(なら よしとも)さんという方の貯金箱や絵葉書も、ギャラリートーク会場にお持ちくださっていましたが、私にとってはさっぱり、どこがいいのかわからない作品でした。
ヨーロッパで人気があるのだそうです。
同じときに、村上隆さんのお名前も出ましたが、私はこの方の作品も存じ上げませんでした。
検索してみたら、以下のような記事がトップに出てきました。
「
ラッセンとファンが同じ」 奈良美智が関係者発言に怒りまくる
https://www.j-cast.com/2013/10/06185102.html?p=all
村上隆が朝日新聞で「クール・ジャパン」大批判 「お前が言うな」とネット炎上
https://www.j-cast.com/2012/01/18119260.html?p=all
私は現代美術が苦手なのか、闘争的な人の作品が苦手なのか、よくわかりません。
世界が認め、高値で取引されていても、私にはさっぱりご縁がなさそうな作品たちです。
二〇一六年の自分にとっての一番だった伊藤若冲さんの日本画は、会期中何度も見に行くほどすごい作品でしたし、二〇一七年は葛飾北斎さんや応為さんの版画、吉田博さんの版画も素晴らしい作品群でした。
いまも、見出されるべき作品は、ほかにきっとあるはずです。
もっともっと、ほんとうに美しいものが、日本から表現されてほしいと切望します。
杉本博司さんのものづくりは、どこか、照れのようなものを感じてしまいます。
おこがましくて、はばかられるという感覚をお持ちなのかもしれませんが、常におふざけと紙一重です。
杉本さんは以前、伊勢神宮の滝原宮を模倣した作品作りを直島でしたことがあるようです。
杉本博司の護王神社。この神社に直島の神は宿るのか?
https://kumiko-jp.com/archives/51970285.html
私自身は、こうしたことには少なからぬ不快感を感じます。
こういう取り組みは、精神的には進化というより退化のほうへと向かっているように感じます。
「能」への取り組みがどうなのか、公演はこれからですが、少なくとも直島の神社の取り組みは何も感じないからこそやれたことなのではないでしょうか。
交感する者であれば、このようなことはありえない、と私ですら感じます。
真似から学ぶのは健全に育つ過程ですが、本来性を大切にしなければ、ただの茶化しになってしまいます。
古
来から継承している骨のしっかりした「祈り」を含むものとなったら、さらにもっと素敵なのにと感じます。
祈りと共に昇華して、窮めていっていただきたいと思います。
あいまいさとメリハリの共存は日本文化の大事なところでもあると思います。
クッキリ、はっきりしたハレとケの暗黙の了解がありつつ、あいまいさをあえて残すような。
自然すべてのいのちに畏敬の念を抱き、八百万の神をそこに迎えながら、緊張感と同時に親和性を感じ取るあいまいさ。
言葉に置き換えることが難しい、その空気感こそが、日本文化、日本文明の「らしさ」なのかもしれません。
ギャラリートークの行われた会場には、ミケランジェロの作品を撮られた増浦行仁さんのプラチナプリントと写真集が置かれていました。
そこにはあきらかに美しく清浄な空気が漂っていました。
本物が、しっかり受け止められる日本であってもらいたい、そう思うと、観客側であるこちらの、自らの精神性も高めていく必要があるのだと思います。
人生のもっとも大きな課題ですね。
今年もみなさまにとって良い年となりますように祈りつつ、本年もどうぞよろしくお願いいたします。
平成三十年一月五日
阿部 幸子
協力 ツチダクミコ
協力 白澤 秀樹
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