Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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抗MOG抗体関連ミエロパチーの臨床・画像所見

2019年01月13日 | 脱髄疾患
前々回のブログに記載した脊髄硬膜動静脈瘻(spinal dural AV fistula;sDAVF)の論文に引き続き,Mayo Clinicから抗MOG抗体関連ミエロパチーの臨床所見,脊髄MRI所見に関する研究が報告されている.ちなみにMOGとは,ミエリンオリゴデンドロサイト糖蛋白質(myelin-oligodendrocyte glycoprotein)のことである.本研究の目的は,類似の臨床像を呈しうる抗AQP4抗体関連ミエロパチー,多発性硬化症との相違を明らかにし,早期に正確な診断と治療を行うことである.このために,これら3疾患の臨床・画像所見,予後を比較している.

方法は後方視的研究で,対象は2000年から2017年に経験した抗MOG抗体陽性患者199名のうち,「臨床的診断が脊髄炎,抗MOG抗体陽性,臨床情報が使用可能」という3つの条件を満たした54症例とした.対照は抗AQP4抗体関連ミエロパチー46例,多発性硬化症26例とした.予後の評価はmodified Rankin scoreと歩行の介助の必要性とした.MRIの評価は放射線科医が臨床診断をマスク化して行った.

結果であるが,抗MOG抗体関連ミエロパチー54症例の発症年齢は中央値25歳(3-73歳)で18歳未満が30%,男女比は30:24であった.初発症状が脊髄炎単独であった症例は29例(54%)と高頻度であった.症候としては,しびれ感(89%),直腸膀胱障害(83%),勃起障害(54%),錐体路徴候(72%)を認めたが,うち10例(19%)が腱反射消失を伴う弛緩性麻痺を呈し,ウイルス性ないしウイルス後「急性弛緩性脊髄炎 (AFM:Acute Flaccid Myelitis)」と診断されていた(後述).中央値24ヶ月(2-120ヶ月)の経過観察を通して,32例(59%)が以下に示すように1回以上の再発をした.その内訳は視神経炎(31例),横断性脊髄炎(7例),ADEM(1例)であった(重複あり).3疾患の比較では,抗MOG抗体関連ミエロパチーにおいて,ウイルス感染を示唆する前駆症状やワクチン,および脊髄炎を伴うADEMが有意に多かった.

検査所見では,髄液オリゴクローナルバンドは施行した症例では1/38例(3%)と低頻度であった.脊髄MRI検査では,図に示すように,T2強調画像における灰白質の異常信号(矢状断での線状所見,および水平断でのHサイン)と,異常造影を認めない点が特徴的であった.縦長病変の頻度は抗MOG抗体,および抗AQP4抗体関連ミエロパチーで有意差はないが(79%対82%),多発性硬化症では認めなかった.多発病変,ないし馬尾病変は抗MOG抗体関連ミエロパチーでは抗AQP4抗体関連ミエロパチーと比べて高頻度であったが,多発性硬化症とは変わりはなかった.

予後については,初期治療への反応性は48/52例(92%)で認められた.脊髄炎が最も悪いときに車椅子を要することは抗MOG抗体関連ミエロパチー,抗AQP4抗体関連ミエロパチーとも3分の1の症例で見られたが,MSではなかった.最終診察で車椅子を要した頻度は3/54例(6%)であった.抗MOG抗体関連ミエロパチーのほうが抗AQP4抗体関連ミエロパチーと比較して回復が良好であった.

ちなみに「急性弛緩性脊髄炎 (AFM))は2014 年に米国でエンテロウイルス D68(EV-D68)感染症流行と同時期に発生したポリオ様麻痺の多発を受け,急性弛緩性麻痺 (AFP:Acute Flaccid Paralysis)との混乱を避けるため提唱され,以下の通りに定義されている.
①四肢の限局した部分の脱力を急に発症する(acute onset focal limb weakness)
②MRI で主に灰白質に限局した脊髄病変が 1 脊髄分節以上に広がる
③髄液細胞増多(白血球数>5/ μL )(①+②は「確定」、①+③は「疑い」とする).
上記を満たせば起因病原体の種類は問わない.EV-D68 流行期に発症したAFMは,EV-D68の関与が強く疑われるにもかかわらず臨床検体からのEV-D68検出率が低いことが知られ,確定診断はなかなか難しい.本研究では2014 年のEV-D68陽性AFMについては,抗MOG抗体陰性であったことを確認しているが,AFMの病因として抗MOG抗体関連疾患を鑑別に上げることも重要であることを示すものである.

結論として,本研究は抗MOG抗体関連疾患においてミエロパチーは病初期の症状であり,かつ急性弛緩性脊髄炎を呈しうることを示した.さらにOCB陰性で「縦長,Hサイン,造影効果なし」というMRI所見を認める場合に,より本疾患を疑う必要があることを明らかにした.

JAMA Neurol. 2018 Dec 21. doi: 10.1001/jamaneurol.2018.4053.



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