Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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ハンチントンが150年前に記載した舞踏病論文を読み感動する

2022年07月31日 | 舞踏病
George Huntington(1850–1916)は,彼の名前を冠した疾患,すなわちハンチントン病の臨床像を論文に記載したアメリカの医師です(Huntington G. On chorea. Med Surg Rep 1872;26:317-321).その論文が執筆されて今年はちょうど150年になります.初めて読んでみました.



内容を要約すると,まず舞踏運動の症候について詳細に,また見事に記載しています.つぎに小児における舞踏運動(シデナム舞踏病)の特徴と原因,舞踏病の剖検所見と責任病巣(小脳が指摘されているが機序は不明と記載),舞踏運動を起こすさまざまな原因,そして治療(瀉下薬,強壮剤,鍼灸,原因の除去等)について記載しています.最後にロングアイランドにのみ存在する遺伝性舞踏病に関して述べています.3つの特徴として,①遺伝性であること,②心神喪失と自殺の傾向があること,③成人してから重大な病気として現れることが記載されています.印象深いのは「この病気の種が存在することが知られている人々の間では,この病気は一種の恐怖とともに語られ,『あの病気』として言及されるときには,切実な必要性以外にまったく触れられない」と記載していることです.150年前から家族の負担の大きさを理解し,重要視していたことが窺えます.

Mov Disord誌にこの論文の解説とハンチントン病研究の歴史を紹介する論文が発表されています.これによるとHuntingtonはハンチントン病の患者を8歳の頃から,医師である父親の回診に同行して観察していたそうです.そして「それ以来,この病気に対する私の興味は完全に絶えることがなかった」というHuntingtonの言葉が紹介されています.私も初めてこの疾患の患者さんの主治医になったときのことは忘れられませんので,子供であったHuntingtonの受けた衝撃は想像に難くありません.

またこの解説論文で初めて知りましたが,Huntingtonがハンチントン病を最初に記載したわけではなく,すでに複数の論文報告があったのだそうです.しかしなぜ彼の名を冠した病名がついたかというと,19世紀末になり専門医の間で舞踏病について多くの議論がなされ,そのなかで私の敬愛するウィリアム・オスラー卿が論文「On Chorea and Choreiform Affections」を1894年に発表し,そのなかで用いた「ハンチントン舞踏病」という病名が急速に広まったそうです.神経学の大家であるオスラー卿は「医学の歴史において,ある病気がこれほど正確に,これほど図式的に,これほど簡潔に説明された例はほとんどない」とHuntingtonの業績を称えています.最後にもう一つの驚きは,この論文はHuntingtonが生涯に発表したわずか3本の論文のうちの1本だったそうです.「On chorea」は以下に全文が掲載されています.ぜひご一読ください.

Huntington G. On chorea. George Huntington, M.D. J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 2003 Winter;15(1):109-12. (doi.org/10.1176/jnp.15.1.109)
Franklin GL, et al. "On Chorea": 150 Years of the Beginning of Hope. Mov Disord. 2022 Jun 10.(doi.org/10.1002/mds.29121)

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