Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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Becker型・Duchenne型筋ジストロフィーの遺伝子診断がネガティブであったとき検討すべき疾患

2005年05月16日 | 筋疾患
 臨床的にBecker型筋ジストロフィーないしDuchenne型筋ジストロフィー(BMD/DMD;dystrophinopathy)を疑い,遺伝子診断を依頼したのに関わらず,dystrophin遺伝子における異常(deletion/duplication)がなかったという報告を受けた経験はないであろうか?もちろんdystrophin遺伝子はきわめて巨大な遺伝子であり,すべての点変異の有無を確認できるわけではないので(点変異を有するケースは全体の30%前後と考えられている),臨床所見に加え,筋生検におけるdystrophin染色の結果をもとに最終的な診断をするのが普通であろう.
一方,近年,肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)の遺伝子解析が進み,少なくとも15の原因遺伝子の存在が示唆されている.このなかでFKRP遺伝子(fukutin-related protein gene)はLGMD2Iと先天性筋ジストロフィーの原因遺伝子として知られているが,じつはこのLGMD2Iとdystrophinopathyは似た所見を呈しうる.ともに近位筋の萎縮・筋力低下,ふくらはぎと舌の仮性肥大,心筋症の合併,CKの上昇を呈する.LGMD2Iの多くの症例は軽症のBMDと似た経過をとり成人まで歩行可能であるが,なかには重症でDMDと同様,10代で歩行不能,呼吸器装着という経過をとることもある.遺伝形式はBMD/DMDは伴性劣性,LGMD2Iは常染色体劣性なので,症例が弧発例で男児であった場合,遺伝形式からの区別がつかない.
 今回,デンマークよりBMD/DMDと臨床診断された患者におけるLGMD2Iの存在の有無に関する研究が報告された.遺伝子診断を行った40%の患者(102名)においてdystrophin遺伝子におけるdeletion/duplicationが認められなかった.これらの患者は弧発例で,当然すべて男性であった.これらの症例に対してLGMD2Iにおいて,これまでのすべての症例で存在が証明されている遺伝子変異であるL276I(c.826C>A)の有無を調べた(homoないしcompound heterozygoteとして認められ,後者のほうが重症となることが知られている).この結果,13例にL276I変異が認められた(9例はhomo,4例はcompound heterozygote).臨床的にはhomo例は1例を除き全例歩行可能,heteroは10-20歳代で歩行不能,ふくらはぎの仮性肥大はhomoでは8/9,heteroでは1/4に認められている.逆に舌の仮性肥大はhomoでは0/9,heteroでは3/4に認められている.問題の筋生検所見は検討可能な7例中正常4例,dystrophin染色性低下2名,irregularな染色パターン 1名であった.すなわちdystrophin染色は必ずしも信頼できる検査ではないということになる!
 いずれにしてもBMD/DMDの遺伝子診断がネガティブであったときは念のため,L276I変異の有無の確認は必要である.幸いなことにこれまでのLGMD2I症例は必ずひとつ以上のL276I変異を有しているので,シークエンスしてこの変異の有無だけを確認するだけでとりあえずよいものと思われる.もちろん現時点で診断によって本人に対する治療が大きく変わるわけではないが,本人,家族に対する遺伝相談を行う上で両者の鑑別は極めて大きな意味を持つということを認識しておく必要がある.

Neurology 84; 1635-1637, 2005
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2 Comments

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ジストロフィンは虚構? (匿名 )
2006-11-26 09:52:15
参考までに:老婆心
 ジストロフィンは、あまりにも矛盾が多すぎる、予想と違う遺伝子検査結果がでると、すぐ、屁理屈をつけ、辻褄を合わせる、結果、矛盾だらけになる、こんなことで良いのでしょうか?
 ジストロフィンの実体は未だに闇、
ジストロフィンは作り話ではないでしょうか?
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ジストロフィン不信 unbelievable dystrophin (1)非現実的な高い突然変異率 unreal high mutation rate;性腺モザイク(mosaic gonad) (tokawakiti)
2007-02-18 08:59:16
 デュシャンヌ型筋ジストロフィー症(DMD)の責任遺伝子とその産物タンパク質ジストロフィン(dystrophin)には、不信が渦巻いている。例えば、DMD患者の3人に1人は、親から疾患DMD遺伝子を受け取ったためではなく、DMD遺伝子が突然変異によって異常になったためとされる。これは、DMD遺伝子が巨大なため、突然変異が異常な高頻度で起こるためだと言う。一見合理的に見えるこの説は、よく考えると、信じがたいことがすぐ分る。
 新生男児3500人に1人位の率でDMDに罹患すると言われている。1万人に3人と概算すると、その1/3、1万人に1人の率で突然変異によるDMD患者が生まれることになる。DMD遺伝子は、X染色体(男は1本、女は2本持つ)上にあるため、男は1つ、女は2つ、持つ。女性はDMD遺伝子が2つとも異常にならなければ発症しないが、1つだけ異常になると保因者となり、子供に疾患遺伝子を遺伝することになる。女性は2つのDMD遺伝子をもつので突然変異の確率も男性の2倍になる。5000人に1人の率で突然変異による新しい女性保因者が生まれることになる。DMD患者が一般に子孫を残さないため減る(半分:10000分の2から1へ)分、突然変異によって新たな疾患遺伝子が発生する(+5000分の1)のだとされる(結果10000分の2から3に増えることになる)。こんなとんでもないことは、現実とは、かけ離れている:誰も気付かないのが不思議である、いや、気付いていても、嫌われるのが嫌だから黙っているのだろう。因みに、理由は不明だがDMD患者数は徐々に減る傾向にあることが広く知られている。
 母親のDMD遺伝子に異常がないのに、長男に続いて、次男もDMDを発症した;二人とも突然変異によってDMDを発症したとは、流石に言い難い。そこで、奇説、性腺モザイクが提案された:ありえないことである。ところが、信じ難いことに、疑いを抱かない研究者が学会で発生率を発表している。
 不信のジストロフィン:このような無茶苦茶な説が、多数、まかり通っている。
 日本国内では、ジストロフィン研究は下火になり、多くの目ぼしい研究施設が沈黙する中で、一部の限られた研究施設が発表を続けている。国外では、未だに活発に研究発表されている;体系的にジストロフィンに疑問を呈する論文が見られないためであろうか?  疑問と不安を感じた研究者は沈黙しているようである。
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