Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文

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多発性硬化症に対するインターフェロンβ療法は自己免疫現象を惹起しない

2005年03月25日 | 脱髄疾患
インターフェロン(IFN)α,βは,ウイルスが感染した細胞が産生するウイルス増殖抑制物質として発見された.ともに分子量約2万の類似性の高いタンパク質で,βには糖鎖がついている.その後の研究により,抗ウイルス作用のほか,細胞増殖抑制作用や免疫調節作用を有することも明らかになり,現在,MSのほかに腎癌,多発性骨髄腫,ウイルス性肝炎等の疾患に用いられている.
 近年,国内でIFNα製剤投与中の甲状腺機能低下症,および甲状腺機能亢進症が報告されている.これらの症例の中でIFNα製剤投与後に甲状腺刺激抗体,抗甲状腺刺激ホルモン受容体抗体,および抗核抗体,抗ミクロソーム抗体,抗サイログロブリン抗体等の自己抗体が陽性化していたことなどから,これらの甲状腺機能異常症はIFNαが関与した自己免疫現象に関連していることが疑われた.また,このほかにもSLEの動物モデルにおいてIFNが病態の進展に関与しているという報告や,IFNα製剤による自己免疫現象との関連を疑う報告としてRA,自己免疫性肝炎,溶血性貧血,悪性貧血,血小板減少症等がある.一方,IFNβ製剤と自己免疫現象との関連は明らかでない.
 今回,オランダよりIFNβ製剤投与と自己免疫現象との関連について報告があった.対象はEuropean placebo-controlled double-blind, multicenter studyに登録したsecondary progressive MS (SPMS)患者とし,IFNβ製剤投与前と治療開始後6ヵ月毎の24ヶ月間において血液を採取し,生化学検査に加え,抗核抗体, 抗ミトコンドリア抗体, 抗平滑筋抗体,抗ミクロソーム抗体,抗サイログロブリン抗体を調べた.結果としてIFNβ製剤を投与した355名と偽薬を投与した353名を比較.両群間で治療開始後に自己抗体があらたに陽性になった割合は有意差なし.IFNβ製剤投与後,肝機能障害が出現する症例もあるが,肝酵素上昇と抗核抗体, 抗ミトコンドリア抗体, 抗平滑筋抗体との間に相関なし.甲状腺機能障害に関しては治療開始前において甲状腺機能障害と抗甲状腺マイクロソーム・サイログロブリン抗体は有意の相関を認めたが,治療開始後には相関はなかった.また抗核抗体上昇を伴う血管炎やRAの出現もなかった.
 以上の結果は,少なくともSPMSのコホートにおいては,IFNβ製剤は自己免疫現象を惹起することはないという結果を示唆するものである.

Neurology 64; 996-1000, 2005
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