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モーツァルト「皇帝ティートの慈悲」~北とぴあ国際音楽祭2024公演~

2024年12月06日 | pocknのコンサート感想録2024
11月29日(金)
モーツァルト/歌劇「皇帝ティートの慈悲」

~北とぴあ国際音楽祭2024~
北とぴあ・さくらホール

【配役】
ティート:ルーファス・ミュラー、セスト:ガイア・ペトローネ、ヴィッテリア:ロベルタ・マメリ、アンニオ:高橋幸恵、セルヴィリア:雨笠佳奈、プブリオ:大山大輔

【管弦楽&合唱】
寺神戸 亮 指揮レ・ボレアード

【演出】大山大輔【照明デザイン】岡田勇輔【舞台監督/プロダクションマネージャー】大平久美【演出部】清水蘭子【照明】田中杏奈、川田未桜【衣装】金千恵子、吉元あおい




今年の北とぴあ国際音楽祭のオペラ公演は、モーツァルトの「皇帝ティートの慈悲」。モーツァルトのオペラのなかでも上演の機会が少なく人気もない作品だが、昨年ウィーンのスターツオーパーでこのオペラを初めて観て、モーツァルトの傑作だと認識した。そんなオペラを2年続けて観ることになった。

去年の記憶がよく残るうちに「ティート」に再び接したことで、オペラの登場人物により親近感を持ち、作品もより身近に感じることが出来た。寺神戸亮指揮のレ・ボレアードはいつもながらに雄弁で表情豊かにハイレベルの演奏を繰り広げた。キリっと引き締まったフォルムを保ちつつ、柔らかな情感が滲み出て、登場人物の心情を繊細に描く表現力は卓越している。華やかな場面での金管が加わった輝きと風格あるサウンドも聴き応え十分だし、管楽器のソロでの巧みなパフォーマンスにもホレボレした。なかでも耳を引いたのはセストとヴィテリアのアリアで活躍したクラリネットとバセットホルン。どんな音域のどんなに細かいパッセージもくっきりと語りかけるように聴かせ、歌との見事なデュオを聴かせた。合唱も少人数ながら瑞々しく艶のある歌声で場を華やかに盛り立てた。

ソロの歌い手達は、モーツァルトがそれぞれの人物に与えたキャラクターを生き生きと表現した。最も印象に残ったのはヴィテリア役のロベルタ・マメリ。細部までコントロールが行き届いた歌唱で、逞しく、貪欲で激しい感情の起伏を捉えた。1幕終盤での不安におののく様子への鮮やかな変化も見事だった。2幕で声の張りが少々後退したように聴こえたのは惜しかった。セスト役のガイア・ベトローネの歌にも惹きつけられた。偽りのない純粋でまっすぐな信念と、それゆえ苦悩する胸の内を歌い上げた。アンニオ役の高橋幸恵は艶のある声で焦点の定まったくっきりとした歌唱を聴かせ、セルヴィアを歌った雨笠佳奈は、とくに2幕終盤でのヴィッテリアにセストの救済を迫る場面でのアリアが心に迫って来た。ブプリオ役の大山大輔は、張りのある声で、オペラの要所で確かな存在感を示した。

さて、タイトルロールのルーファス・ミュラーだが、柔らかくて温かな美声や陰影のある表情には惹かれるが、声の張りや力強さという点で物足りなさを感じた。慈悲深く心優しいティートの一面は十分伝わるものの、高音域でファルセットを使うなど、これでは万民から敬われる名君としての貫禄や頼もしさに欠け、出番が多い重要な役であるだけに、ミュラーの頼りなさがオペラ全体の印象を弱めてしまったのは残念だった。

セミステージによる本公演では演出は簡素だったものの、オペラのストーリーや気分を雄弁に伝えていた。序曲を演奏中に、ヴィッテリアがセストにティートの暗殺を迫るシーンを入れたことも、ストーリー理解の一助となった。白と黒に統一された衣装もすっきりしていて好感が持てた。公演全体としては、ティート役が物足りなかったのと、晩年のモーツァルト特有の優美な衣装を纏ったような柔らかで高貴な感触が欲しかった。

ウィーン国立歌劇場公演「皇帝ティートの慈悲」~2023.9.10 Wiener Staatsoper
ラモー「レ・ボレアード」~北とぴあ国際音楽祭2023より~
リュリ「アルミ―ド」~北とぴあ国際音楽祭2022より~
ラモー「アナクレオン」ほか ~北とぴあ国際音楽祭2021より~
ヘンデル「リナルド」~北とぴあ国際音楽祭2019より~

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