12月22日(木)辻井伸行(Pf)
~辻井伸行 日本ツアー<バッハ・モーツァルト・ベートーヴェン>~
府中の森芸術劇場 どりーむホール
【曲目】
1.バッハ/イタリア協奏曲 ヘ長調 BWV971
2.モーツァルト/ピアノ・ソナタ第17番 変ロ長調 K.570
3.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第14番 嬰ハ短調 Op.27-2「月光」
4.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op.57「熱情」
【アンコール】
1.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 Op.13「悲愴」~第2楽章
2.辻井伸行/ロックフェラーの天使の羽
3.辻井伸行編(即興)/クリスマスソング・メドレー
ヴァン・クライバーンコンクールで優勝して、世間で大きな注目を浴びた頃から辻井伸行のピアノには興味があったが、普段クラシックのコンサートに来ない人達が詰めかけ、恐らくそれでチケット代が跳ね上がるだけでなく、心静かに聴けない心配があったので、ほとぼりが冷めるのを待っていた。辻井君人気は相変わらず高いままだが、府中でのこのリサイタルは、場所は遠いけれど、わりとまともな料金設定だったのでこれはチャンス!と奥さんと初の辻井伸行のライブを体験した。
プログラムにはオーソドックスな名曲か並んだ。バッハとモーツァルトは辻井にとって初挑戦とのこと。演奏は明快で闊達。曇りのない伸びやかなタッチで躍動感に溢れ、楽しい気分を伝えてくれた。それだけでなく、バッハのイタリアン・コンチェルトの第2楽章では、静かな中に込められた情熱が伝わってきたし、モーツァルト円熟期のソナタでは、やはり第2楽章で温かく親密な語りかけが聴こえてきた。
しかし、辻井が本当の意味で本領を発揮したのは後半のベートーヴェンだ。「月光」も「熱情」も、他を寄せ付けない集中力と燃焼度で熱くダイナミックに迫ってきた。「月光」の第1楽章は底知れぬ闇からわずかに差し込む一条の光のイメージ、第2楽章でも能動的な動きは抑えて、第3楽章で堰を切ったように一気に爆発した。ベートーヴェンがすごい形相で目を剥いて嵐の中を駆け抜けるような衝動とパワー。第1楽章の深い闇を抜けたところには、疾風怒濤の世界が待っていた。弱音のフレーズも常に高いテンションを保ち、一瞬たりとも緊張を緩めることなく駆け抜けて行った。
「熱情」でもまさに熱いパッションが炸裂しまくった。辻井はピアノのタッチが非常にクリアでかつ深く、瞬発力に長けている。この音楽の持つスケールの大きさ、鮮やかなリアリティーを余すところなく表現し、「ベートーヴェンとはこういうものだ!」と見せつけた。ここまで壮大で深淵、激烈な「熱情」に出会える機会はそうはない。
アンコールでは転じて、辻井の純真な心が素直に表れる幸福な世界へ誘ってくれ、クリスマスを迎えるワクワク感が高まった。客席からは手拍子も。この純粋で豊かな感受性が辻井の大きな持ち味の一つで、これが聴く人に幸福感を与えてくれる。これからもたくさんのことを素直に吸収し、育み、深化し、成長していくことだろう。
素敵なリサイタルだったが、お客のマナーはやはり悩ましかった。辻井さんがピアノの前に座って弾く準備をしている時も客席のざわつきは収まらず、演奏が始まっても派手な咳やビニールのクシャクシャいう音があちこちから聞こえ、携帯の着メロまで聞こえてきた。最後のアンコールの演奏中、すぐ隣に座っていたおばさんの携帯が鳴り出したので、これは黙っていられず演奏後に「気をつけてくださいよ!」と注意した。演奏中に携帯を鳴らす「犯罪」を犯した人をお咎めなしにはしたくなかったので。普段クラシックを聴かない人がコンサートに出かけ、クラシック音楽に親しむこと自体は良いことだと思うが…
12/25に行くつもりにしていた早稲フィルの定期演奏会のチケットが取れなかったので、このリサイタルが結果的に今年最後のコンサートとなった。
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~
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4.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調 Op.57「熱情」
【アンコール】
1.ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調 Op.13「悲愴」~第2楽章
2.辻井伸行/ロックフェラーの天使の羽
3.辻井伸行編(即興)/クリスマスソング・メドレー
ヴァン・クライバーンコンクールで優勝して、世間で大きな注目を浴びた頃から辻井伸行のピアノには興味があったが、普段クラシックのコンサートに来ない人達が詰めかけ、恐らくそれでチケット代が跳ね上がるだけでなく、心静かに聴けない心配があったので、ほとぼりが冷めるのを待っていた。辻井君人気は相変わらず高いままだが、府中でのこのリサイタルは、場所は遠いけれど、わりとまともな料金設定だったのでこれはチャンス!と奥さんと初の辻井伸行のライブを体験した。
プログラムにはオーソドックスな名曲か並んだ。バッハとモーツァルトは辻井にとって初挑戦とのこと。演奏は明快で闊達。曇りのない伸びやかなタッチで躍動感に溢れ、楽しい気分を伝えてくれた。それだけでなく、バッハのイタリアン・コンチェルトの第2楽章では、静かな中に込められた情熱が伝わってきたし、モーツァルト円熟期のソナタでは、やはり第2楽章で温かく親密な語りかけが聴こえてきた。
しかし、辻井が本当の意味で本領を発揮したのは後半のベートーヴェンだ。「月光」も「熱情」も、他を寄せ付けない集中力と燃焼度で熱くダイナミックに迫ってきた。「月光」の第1楽章は底知れぬ闇からわずかに差し込む一条の光のイメージ、第2楽章でも能動的な動きは抑えて、第3楽章で堰を切ったように一気に爆発した。ベートーヴェンがすごい形相で目を剥いて嵐の中を駆け抜けるような衝動とパワー。第1楽章の深い闇を抜けたところには、疾風怒濤の世界が待っていた。弱音のフレーズも常に高いテンションを保ち、一瞬たりとも緊張を緩めることなく駆け抜けて行った。
「熱情」でもまさに熱いパッションが炸裂しまくった。辻井はピアノのタッチが非常にクリアでかつ深く、瞬発力に長けている。この音楽の持つスケールの大きさ、鮮やかなリアリティーを余すところなく表現し、「ベートーヴェンとはこういうものだ!」と見せつけた。ここまで壮大で深淵、激烈な「熱情」に出会える機会はそうはない。
アンコールでは転じて、辻井の純真な心が素直に表れる幸福な世界へ誘ってくれ、クリスマスを迎えるワクワク感が高まった。客席からは手拍子も。この純粋で豊かな感受性が辻井の大きな持ち味の一つで、これが聴く人に幸福感を与えてくれる。これからもたくさんのことを素直に吸収し、育み、深化し、成長していくことだろう。
素敵なリサイタルだったが、お客のマナーはやはり悩ましかった。辻井さんがピアノの前に座って弾く準備をしている時も客席のざわつきは収まらず、演奏が始まっても派手な咳やビニールのクシャクシャいう音があちこちから聞こえ、携帯の着メロまで聞こえてきた。最後のアンコールの演奏中、すぐ隣に座っていたおばさんの携帯が鳴り出したので、これは黙っていられず演奏後に「気をつけてくださいよ!」と注意した。演奏中に携帯を鳴らす「犯罪」を犯した人をお咎めなしにはしたくなかったので。普段クラシックを聴かない人がコンサートに出かけ、クラシック音楽に親しむこと自体は良いことだと思うが…
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