12月15日(水)シャルル・デュトワ指揮 NHK交響楽団
《2010年12月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. ラヴェル/ピアノ協奏曲ト長調
【アンコール】
リゲティ/ムジカリチェルカーナ
Pf:ピエール=ロラン・エマール
2.ショスタコーヴィチ/交響曲 第8番 ハ短調Op.65
12月のN響定期は、このところデュトワの指定席という感じ。そこに、1曲目のラベルの協奏曲では、一昨日に聴いたリサイタルの感動さめやらぬエマールが登場したのは嬉しい。
エマールは今夜も素晴らしかった。この曲はエネルギッシュでスリリングに一気果敢に駆け抜ける演奏もありだとは思うが、エマールはそうはやらない。この曲の持つウィットなところや、漂う色香をさりげなく聴かせ、月並みな表現だが、フランス音楽のエスプリを醸し出す演奏。
エマールは、今夜も多彩な音色と、この上ないほどのデリケートさで、香り高い空気を内部に包み込むように音を紡ぐ。第2楽章の美しさは夢幻の世界をたゆたうような陶酔感に浸らせてくれたが、両端楽章でも、溢れるスピード感はいささかも犠牲にすることなく、そこに色香や詩情を添えるところがエマールならでは。デュトワ指揮N響も、エマールのビアノ同様の多彩な音色とデリケートなタッチで極上のサウンドを作り上げた。この演奏は、この曲に期待する最も理想的な姿のひとつに数えられる。
今回は明日の公演の分を今夜に振り替えた。エマールといえども1日目でアンコールをやってくれるだろうか、と思ったがさすが、ちゃんとアンコールを聴かせてくれた。鍵盤上のA音だけをリズミカルに、ときにもったいぶって弾きまくるお遊び的な曲。最後までラの音しか弾かないのでは、と思ったら最後の最後で終止型をちゃかしたようにレの音で終わった。リゲティの道楽としか思えない曲だが、エマールの手にかかればこれも面白い!
さて、後半はショスタコの大作。ショスタコには失礼かも知れないが、初めて聴いたこの曲の印象を、一人のじいさんを題材に表してみたい。
「まあわしの話を聞いていけ」と、幾多の苦難・困難を乗り越えてきたじいさんの前に座らされ、長々とあれこれ苦労話を聞かされる。たいていは戦争の悲惨な体験談だが、武勇談も入り、そんな時は思いのほか声がでかくなる。ときにはばあさんと出会ったときのロマンチックな思い出話にふけることもある。
でも、じいさんの話のパターンはだいたい決まっていることに気づいてきて、ちょっと退屈になってくる。「そろそろ終りにしてくれないかな…」と困っていたら、じいさん、思い出にふけりながらうとうと居眠りを始めてしまった。
この曲はまあ、こんなところだろうか。そうは進んで聴くことはないだろうと思う曲だけに、今夜のような機会は貴重といえば貴重。しかも、デュトワ/N響は、頑固じじいの押しつけがましい話としてではなく、考えうる最高の演出を加え、この曲を面白く聴かせてくれた。おかげで、話の内容が鮮やかな映像として浮かび上がることもあれば、じいさんの気持ちに同化して、涙を誘うこともある。随所にソロで入る挿入歌がまた見事で、なかでも延々と続いた池田さんのイングリッシュホルンは絶品だった。短かったけれど、藤森さんのチェロの歌もよかった。N響の面目如実という出来には大いに満足した。
《2010年12月Bプロ》 サントリーホール
【曲目】
1. ラヴェル/ピアノ協奏曲ト長調
【アンコール】
リゲティ/ムジカリチェルカーナ
Pf:ピエール=ロラン・エマール
2.ショスタコーヴィチ/交響曲 第8番 ハ短調Op.65
12月のN響定期は、このところデュトワの指定席という感じ。そこに、1曲目のラベルの協奏曲では、一昨日に聴いたリサイタルの感動さめやらぬエマールが登場したのは嬉しい。
エマールは今夜も素晴らしかった。この曲はエネルギッシュでスリリングに一気果敢に駆け抜ける演奏もありだとは思うが、エマールはそうはやらない。この曲の持つウィットなところや、漂う色香をさりげなく聴かせ、月並みな表現だが、フランス音楽のエスプリを醸し出す演奏。
エマールは、今夜も多彩な音色と、この上ないほどのデリケートさで、香り高い空気を内部に包み込むように音を紡ぐ。第2楽章の美しさは夢幻の世界をたゆたうような陶酔感に浸らせてくれたが、両端楽章でも、溢れるスピード感はいささかも犠牲にすることなく、そこに色香や詩情を添えるところがエマールならでは。デュトワ指揮N響も、エマールのビアノ同様の多彩な音色とデリケートなタッチで極上のサウンドを作り上げた。この演奏は、この曲に期待する最も理想的な姿のひとつに数えられる。
今回は明日の公演の分を今夜に振り替えた。エマールといえども1日目でアンコールをやってくれるだろうか、と思ったがさすが、ちゃんとアンコールを聴かせてくれた。鍵盤上のA音だけをリズミカルに、ときにもったいぶって弾きまくるお遊び的な曲。最後までラの音しか弾かないのでは、と思ったら最後の最後で終止型をちゃかしたようにレの音で終わった。リゲティの道楽としか思えない曲だが、エマールの手にかかればこれも面白い!
さて、後半はショスタコの大作。ショスタコには失礼かも知れないが、初めて聴いたこの曲の印象を、一人のじいさんを題材に表してみたい。
「まあわしの話を聞いていけ」と、幾多の苦難・困難を乗り越えてきたじいさんの前に座らされ、長々とあれこれ苦労話を聞かされる。たいていは戦争の悲惨な体験談だが、武勇談も入り、そんな時は思いのほか声がでかくなる。ときにはばあさんと出会ったときのロマンチックな思い出話にふけることもある。
でも、じいさんの話のパターンはだいたい決まっていることに気づいてきて、ちょっと退屈になってくる。「そろそろ終りにしてくれないかな…」と困っていたら、じいさん、思い出にふけりながらうとうと居眠りを始めてしまった。
この曲はまあ、こんなところだろうか。そうは進んで聴くことはないだろうと思う曲だけに、今夜のような機会は貴重といえば貴重。しかも、デュトワ/N響は、頑固じじいの押しつけがましい話としてではなく、考えうる最高の演出を加え、この曲を面白く聴かせてくれた。おかげで、話の内容が鮮やかな映像として浮かび上がることもあれば、じいさんの気持ちに同化して、涙を誘うこともある。随所にソロで入る挿入歌がまた見事で、なかでも延々と続いた池田さんのイングリッシュホルンは絶品だった。短かったけれど、藤森さんのチェロの歌もよかった。N響の面目如実という出来には大いに満足した。
エマールさん、2日目はまた違うアンコール曲だったらしいですね。
一静庵さんはこれで今年は聴き納めですか!
来年もコメントお待ちしています。