11月1日(火)アンドラーシュ・シフ(Pf)
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
♪ バッハ/ゴルトベルク変奏曲 BWV988~アリア
♪ バッハ/音楽の捧げ物 BWV1079~3声のリチェルカーレ
♪ モーツァルト/幻想曲ハ短調 K.475
♪ バッハ/フランス組曲第5番ト長調 BWV816
♪ モーツァルト/小さなジーグ K.574
♪ バッハ/平均律クラヴィーア曲集第1巻~第24番(前奏曲とフーガロ短調) BWV869
♪ モーツァルト/アダージョ ロ短調 K.540
♪ モーツァルト/ピアノ・ソナタ ニ長調 K.576
♪ ♪ ♪ ♪ ハイドン/ピアノ・ソナタ ト短調 Hob.ⅩⅥ-44
♪ ベートーヴェン/6つのバガテル Op.126
♪ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番変イ長調 Op.110
【アンコール】
♪ バッハ/平均律クラヴィーア曲集第1巻~第1番(前奏曲とフーガハ長調) BWV846
コロナで全ての演奏会がなくなる忌まわしい暗黒時代に突入する直前に聴いて以来のアンドラーシュ・シフのリサイタル。シフはこれまでリサイタルの度に、とてつもないアーティストだと感じて来たが、今夜も極めつけのとてつもないリサイタルとなった。
演奏曲目は当日発表とのことだったが開演前にも発表されず、シフ氏がトークの中で紹介しつつ演奏するとのこと。ナレーションで、「その日の自分のコンディションや気分だけでなく、聴衆から伝わる空気やピアノの状態なども感じながら曲を決めたい」というシフ氏の言葉が紹介された。
レクチャーの通訳を務める奥さまの塩川悠子さんと登場したシフ氏が最初に演奏したのはゴルトベルク変奏曲のアリア。何の穢れもない澄み切った世界。その後はトークを交えながらのレクチャーコンサートとなった。最初は短い曲が続き、いつもよりカジュアルな感じ。ラフなリサイタルになるかと思いきやとんでもない。レクチャーはバッハの2つの受難曲やロ短調ミサといった大作や、モーツァルトのオペラにも及び、演奏曲目がそれらといかに密接な関連を持って書かれているかを語り、演奏で証明しながら進んで行った。休憩なしでたっぷり9時近くまで続いてシフが退場。「いいコンサートだった」と満たされた気分で帰ろうとしたら「これより20分間の休憩となります」のアナウンスにビックリ。会場にもどよめきが起きた。濃密なコンサートが終演となったのは10時半だった。
冒頭のゴルトベルクに限らず、シフの演奏は「何の穢れもない澄み切った世界」で満たされている。余計な力が全く加わらず、作曲家から届く天の声をそのまま鍵盤上で表現したよう。どれもが彼岸の境地に至ったような演奏だ。それは、シフに天の声を聴く特別な霊感や能力があるわけではなく、シフがいかに作品と徹底的に向き合い探究を極めているかの証だろう。その探究がいかに深く広範囲におよんでいるかはシフの著作を読めばわかるし、そんな探究の一端を今夜のシフの話からもうかがい知ることができた。
勤勉なだけでなく、作曲家と作品への深い愛と共感があるからこそ生まれるのがシフの演奏だ。シフに備わっている能力は、徹底した探求の末にたっぷりの愛情を注ぎながらも、私情を交えることなく音楽の純粋なエッセンスを抽出して伝えることができる飛び切りピュアな感性と、多くの体験から育まれた人一倍の愛情と、それをイメージのままピアノで表現できる精緻なピアニズムということだと思う。
今夜演奏した4人の作曲家のなかでも、恐らくシフが最も敬愛し、自らの演奏の拠りどころとしているのはバッハだろう。シフの話を聴き、演奏を聴けば、シフがバッハに寄せる敬愛の情が手に取るように伝わるし、モーツァルトやベートーヴェンにとっても、バッハの存在がいかに大きかったかを感じることが出来る。モーツァルトからあんなにも慈しみ深くて清らかな歌が紡ぎ出されるのも、ベートーヴェンからあんなにも親密な情愛がこみ上げてくるのも、モーツァルトやベートーヴェンがバッハの音楽の魂に共鳴していたからだと感じずにはいられなかった。
ベートーヴェンの作品110のソナタに引用された、ヨハネ受難曲でイエスが十字架上で放った言葉”Es ist vollbracht!(成し遂げられた!)のモチーフの後に、それまで展開していたフーガの動機が反行形で現れることが、死からの復活を意味していることに気づいた。新たな生を得て再生を謳歌したベートーヴェンのソナタのあと、アンコールでバッハが聴けたことも至福の喜びだった。バッハで始まりバッハで締めくくるリサイタルの最後のC-Durのコードが清澄にホールに鳴り響くのを聴いたとき、”Es ist Vollbracht!”の言葉が浮かび、全身にトリハダが立ち、得も言われぬ感動で満たされた。
シフは、本当の意味での音楽の真髄を伝えてくれる稀有のアーティストだと改めて思い知った。
アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル 2020.3.19 東京オペラシティコンサートホール
アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル 2017.3.21 東京オペラシティコンサートホール
アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル 2014.3.19 東京オペラシティコンサートホール
アンドラーシュ・シフのバッハⅡ 2011.2.13 紀尾井ホール
一年前のブログでの訴えが何も変わっていないことに愕然。。その感染対策、本気???
♪ブログ管理人の作曲のYouTubeチャンネル♪
最新アップロード:「村の英雄」(詩:西條八十)
~限定公開中動画~
「マーチくん、ラストラン ~33年乗った日産マーチとのお別れシーン~」
拡散希望記事!やめよう!エスカレーターの片側空け
東京オペラシティコンサートホール タケミツメモリアル
【曲目】
♪ バッハ/ゴルトベルク変奏曲 BWV988~アリア
♪ バッハ/音楽の捧げ物 BWV1079~3声のリチェルカーレ
♪ モーツァルト/幻想曲ハ短調 K.475
♪ バッハ/フランス組曲第5番ト長調 BWV816
♪ モーツァルト/小さなジーグ K.574
♪ バッハ/平均律クラヴィーア曲集第1巻~第24番(前奏曲とフーガロ短調) BWV869
♪ モーツァルト/アダージョ ロ短調 K.540
♪ モーツァルト/ピアノ・ソナタ ニ長調 K.576
♪ ベートーヴェン/6つのバガテル Op.126
♪ ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第31番変イ長調 Op.110
【アンコール】
♪ バッハ/平均律クラヴィーア曲集第1巻~第1番(前奏曲とフーガハ長調) BWV846
コロナで全ての演奏会がなくなる忌まわしい暗黒時代に突入する直前に聴いて以来のアンドラーシュ・シフのリサイタル。シフはこれまでリサイタルの度に、とてつもないアーティストだと感じて来たが、今夜も極めつけのとてつもないリサイタルとなった。
演奏曲目は当日発表とのことだったが開演前にも発表されず、シフ氏がトークの中で紹介しつつ演奏するとのこと。ナレーションで、「その日の自分のコンディションや気分だけでなく、聴衆から伝わる空気やピアノの状態なども感じながら曲を決めたい」というシフ氏の言葉が紹介された。
レクチャーの通訳を務める奥さまの塩川悠子さんと登場したシフ氏が最初に演奏したのはゴルトベルク変奏曲のアリア。何の穢れもない澄み切った世界。その後はトークを交えながらのレクチャーコンサートとなった。最初は短い曲が続き、いつもよりカジュアルな感じ。ラフなリサイタルになるかと思いきやとんでもない。レクチャーはバッハの2つの受難曲やロ短調ミサといった大作や、モーツァルトのオペラにも及び、演奏曲目がそれらといかに密接な関連を持って書かれているかを語り、演奏で証明しながら進んで行った。休憩なしでたっぷり9時近くまで続いてシフが退場。「いいコンサートだった」と満たされた気分で帰ろうとしたら「これより20分間の休憩となります」のアナウンスにビックリ。会場にもどよめきが起きた。濃密なコンサートが終演となったのは10時半だった。
冒頭のゴルトベルクに限らず、シフの演奏は「何の穢れもない澄み切った世界」で満たされている。余計な力が全く加わらず、作曲家から届く天の声をそのまま鍵盤上で表現したよう。どれもが彼岸の境地に至ったような演奏だ。それは、シフに天の声を聴く特別な霊感や能力があるわけではなく、シフがいかに作品と徹底的に向き合い探究を極めているかの証だろう。その探究がいかに深く広範囲におよんでいるかはシフの著作を読めばわかるし、そんな探究の一端を今夜のシフの話からもうかがい知ることができた。
勤勉なだけでなく、作曲家と作品への深い愛と共感があるからこそ生まれるのがシフの演奏だ。シフに備わっている能力は、徹底した探求の末にたっぷりの愛情を注ぎながらも、私情を交えることなく音楽の純粋なエッセンスを抽出して伝えることができる飛び切りピュアな感性と、多くの体験から育まれた人一倍の愛情と、それをイメージのままピアノで表現できる精緻なピアニズムということだと思う。
今夜演奏した4人の作曲家のなかでも、恐らくシフが最も敬愛し、自らの演奏の拠りどころとしているのはバッハだろう。シフの話を聴き、演奏を聴けば、シフがバッハに寄せる敬愛の情が手に取るように伝わるし、モーツァルトやベートーヴェンにとっても、バッハの存在がいかに大きかったかを感じることが出来る。モーツァルトからあんなにも慈しみ深くて清らかな歌が紡ぎ出されるのも、ベートーヴェンからあんなにも親密な情愛がこみ上げてくるのも、モーツァルトやベートーヴェンがバッハの音楽の魂に共鳴していたからだと感じずにはいられなかった。
ベートーヴェンの作品110のソナタに引用された、ヨハネ受難曲でイエスが十字架上で放った言葉”Es ist vollbracht!(成し遂げられた!)のモチーフの後に、それまで展開していたフーガの動機が反行形で現れることが、死からの復活を意味していることに気づいた。新たな生を得て再生を謳歌したベートーヴェンのソナタのあと、アンコールでバッハが聴けたことも至福の喜びだった。バッハで始まりバッハで締めくくるリサイタルの最後のC-Durのコードが清澄にホールに鳴り響くのを聴いたとき、”Es ist Vollbracht!”の言葉が浮かび、全身にトリハダが立ち、得も言われぬ感動で満たされた。
シフは、本当の意味での音楽の真髄を伝えてくれる稀有のアーティストだと改めて思い知った。
アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル 2020.3.19 東京オペラシティコンサートホール
アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル 2017.3.21 東京オペラシティコンサートホール
アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル 2014.3.19 東京オペラシティコンサートホール
アンドラーシュ・シフのバッハⅡ 2011.2.13 紀尾井ホール
一年前のブログでの訴えが何も変わっていないことに愕然。。その感染対策、本気???
♪ブログ管理人の作曲のYouTubeチャンネル♪
最新アップロード:「村の英雄」(詩:西條八十)
~限定公開中動画~
「マーチくん、ラストラン ~33年乗った日産マーチとのお別れシーン~」
拡散希望記事!やめよう!エスカレーターの片側空け