6月30日(木)小菅 優(Pf)
~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会シリーズ 第2回~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ピアノ・ソナタ第16番 ト長調Op.31-1
2.ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調Op.31-2
3.ピアノ・ソナタ第18番 イ長調Op.31-3
4.ピアノ・ソナタ第28番 イ長調Op.101
【アンコール】
マルチェッロ/アダージョ(オーボエ協奏曲より)
小菅優のベートーヴェン・シリーズの2回目は、去年聴いた初回があまりにも素晴らしかったので、必ずやまた「最高の感動」を味わえると確信して、期待に胸膨らませ、意気揚々と出かけた。
まずは作品31シリーズの第1番で上々の滑り出し。遊び心に満ちた第1楽章は小菅の得意とするところ。音たちが思い思いに遊び戯れ、イタズラもしでかす様子を、生き生きと鮮やかに体現させる。第2楽章、つまびくピッチカートに乗って、恋する人に歌うセレナーデは、歌っている当人は必死でも、はた目にはちょっとユーモラスなオペラの一場面。第3楽章ではまた生気に溢れ、カッキリした輝く美音が楽しげに行き交う様子にウキウキする。軽快な歩調が、終盤近くでは更に追い風に乗り、推進力を増してコーダへと駆け込んでゆく。最後の思わせぶりの部分で、小菅は客席の様子をうかがいつつ、その反応を楽しむかのような役者ぶりで演出効果を高めたのはさすが!
こんなに楽しい曲の直後にくる、重く暗い「テンペスト」を小菅はどう料理するか… と注目。間合いをじっくり取って始まった「テンペスト」は、混沌の中からカッキリと鳴り響くテーマ、瞑想と沈思での粘りと、激しい部分との劇的な対比など、小菅は真摯にこの曲と向き合っていた。しかし、これまで聴いたベートーヴェンのソナタの演奏に比べると、新鮮な驚きと手放しの感動が弱い。曲を完全に手中に収め、演奏中も次々と沸き上がるインスピレーションを巧みに整理しながら、それを自ら楽しみ、その楽しさをお客に振る舞う、という、いつもの余裕がなく、何か思い悩みながら、曲と格闘している途上のようなところを感じた。但し、聴衆の反応は1曲目を大きく上回る拍手とブラボー。
3曲目では小菅は再び水を得た魚のごとく、酸素をいっぱい吸収して、活き活き、ピチピチと跳ねまわった。フレーズの変わり目で、音色も、密度も、呼吸も瞬時に変わるその見事な変わり身の素早さが、こうした曲にピッタリ。それと共に、第3楽章で聴かせてくれた、こぼれるほどの詩情溢れる歌心の表現も小菅さんの持ち味のひとつ。コンパクトなこの名品が、ドラマに満ち、無限の可能性を示した。
後半は、ベートーヴェンの後期のソナタ作品群へと入って行く28番。後期作品に特有の思索的で深い音楽の森を感じさせる曲だが、ここではやはり「テンペスト」の演奏で感じた物足りなさが顔をのぞかせる。思うに、この手のベートーヴェンのソナタは、前回の初期のものや、今回のOp.31の1や3へのアプローチで臨むべき音楽ではなく、小菅も両者で方法を変えて対峙しているが、それがまだ完全に手中に収まっていない、ということかも知れない。ただ、これは僕にとっては、この先何年もかけて続く小菅さんのベートーヴェン・シリーズの中で、これからどのように進化して行くかを見れる素敵なチャンスだ。終楽章の圧倒的なフーガを聴いて、期待はきっと実現されるだろう、と思った。
アンコールはマルチェッロのアダージョのピアノ版。オーボエで奏でられるメロディーが、なんとも透明感のある音色で、物悲しいモノローグを歌った。
小菅 優 ベートーヴェン・ソナタ・シリーズ vol.1~2010.10.27 紀尾井ホール~
~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会シリーズ 第2回~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ピアノ・ソナタ第16番 ト長調Op.31-1
2.ピアノ・ソナタ第17番 ニ短調Op.31-2
3.ピアノ・ソナタ第18番 イ長調Op.31-3
4.ピアノ・ソナタ第28番 イ長調Op.101
【アンコール】
マルチェッロ/アダージョ(オーボエ協奏曲より)
小菅優のベートーヴェン・シリーズの2回目は、去年聴いた初回があまりにも素晴らしかったので、必ずやまた「最高の感動」を味わえると確信して、期待に胸膨らませ、意気揚々と出かけた。
まずは作品31シリーズの第1番で上々の滑り出し。遊び心に満ちた第1楽章は小菅の得意とするところ。音たちが思い思いに遊び戯れ、イタズラもしでかす様子を、生き生きと鮮やかに体現させる。第2楽章、つまびくピッチカートに乗って、恋する人に歌うセレナーデは、歌っている当人は必死でも、はた目にはちょっとユーモラスなオペラの一場面。第3楽章ではまた生気に溢れ、カッキリした輝く美音が楽しげに行き交う様子にウキウキする。軽快な歩調が、終盤近くでは更に追い風に乗り、推進力を増してコーダへと駆け込んでゆく。最後の思わせぶりの部分で、小菅は客席の様子をうかがいつつ、その反応を楽しむかのような役者ぶりで演出効果を高めたのはさすが!
こんなに楽しい曲の直後にくる、重く暗い「テンペスト」を小菅はどう料理するか… と注目。間合いをじっくり取って始まった「テンペスト」は、混沌の中からカッキリと鳴り響くテーマ、瞑想と沈思での粘りと、激しい部分との劇的な対比など、小菅は真摯にこの曲と向き合っていた。しかし、これまで聴いたベートーヴェンのソナタの演奏に比べると、新鮮な驚きと手放しの感動が弱い。曲を完全に手中に収め、演奏中も次々と沸き上がるインスピレーションを巧みに整理しながら、それを自ら楽しみ、その楽しさをお客に振る舞う、という、いつもの余裕がなく、何か思い悩みながら、曲と格闘している途上のようなところを感じた。但し、聴衆の反応は1曲目を大きく上回る拍手とブラボー。
3曲目では小菅は再び水を得た魚のごとく、酸素をいっぱい吸収して、活き活き、ピチピチと跳ねまわった。フレーズの変わり目で、音色も、密度も、呼吸も瞬時に変わるその見事な変わり身の素早さが、こうした曲にピッタリ。それと共に、第3楽章で聴かせてくれた、こぼれるほどの詩情溢れる歌心の表現も小菅さんの持ち味のひとつ。コンパクトなこの名品が、ドラマに満ち、無限の可能性を示した。
後半は、ベートーヴェンの後期のソナタ作品群へと入って行く28番。後期作品に特有の思索的で深い音楽の森を感じさせる曲だが、ここではやはり「テンペスト」の演奏で感じた物足りなさが顔をのぞかせる。思うに、この手のベートーヴェンのソナタは、前回の初期のものや、今回のOp.31の1や3へのアプローチで臨むべき音楽ではなく、小菅も両者で方法を変えて対峙しているが、それがまだ完全に手中に収まっていない、ということかも知れない。ただ、これは僕にとっては、この先何年もかけて続く小菅さんのベートーヴェン・シリーズの中で、これからどのように進化して行くかを見れる素敵なチャンスだ。終楽章の圧倒的なフーガを聴いて、期待はきっと実現されるだろう、と思った。
アンコールはマルチェッロのアダージョのピアノ版。オーボエで奏でられるメロディーが、なんとも透明感のある音色で、物悲しいモノローグを歌った。
小菅 優 ベートーヴェン・ソナタ・シリーズ vol.1~2010.10.27 紀尾井ホール~