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石崎秀和 バリトンリサイタル

2021年10月10日 |  pocknのコンサート感想録2021
10月8日(金)Bar:石崎秀和/Pf:前田勝則/Hrn:今井仁志
古賀政男音楽博物館けやきホール

【プログラム】
~フランツ・シューベルト~
<ザイドルの詩による歌曲>
♪ さすらい人が月に寄せて
♪ 子守歌

歌曲集「白鳥の歌」
♪ 鳩の便り
<ハイネの詩による歌曲>
♪ アトラス
♪ 彼女の肖像
♪ 漁師の娘
♪ 都会
♪ 海辺にて
♪ ドッペルゲンガー

♪ ♪ ♪
<レルシュタープの詩による歌曲>
♪ 流れの上で

歌曲集「白鳥の歌」
♪ 愛の使い
♪ 兵士の予感
♪ 春の憧れ
♪ セレナーデ
♪ すみか
♪ 遠い地にて
♪ 別れ

【アンコール】
♪ 鳩の使い


「新作歌曲の会」で毎回素敵な歌を聴かせてくれるバリトンの石崎秀和さんのリサイタルを聴いた。初めて訪れる古賀政男記念博物館けやきホールは、木の響きがする落ち着いた雰囲気の空間。ここでたっぷりとシューベルトの世界に浸った。

「白鳥の歌」をメインに据えたプログラムは、この歌曲集に登場する詩人による他の歌も加わり、詩人ごとに「白鳥の歌」の各曲を配列しなおして構成され、さながらリサイタル全体が新たな「白鳥の歌」とも云える統一感をもたらした。重たい曲が後半に集中する従来の曲順よりも全体のバランスがいいとも感じた。

石崎さんは、ハイバリトンというイメージが似合う明るく磨きのかかった艶やかな美声が大きな魅力のひとつ。その一方で、「アトラス」「海辺にて」「ドッペルゲンガー」など、暗く、深く、ときに狂おしいほどの激情を吐露する歌では、緊迫感と切迫感を伴って、ギラリと光る鋭い刃物のように凄みすら感じる声で心に深く突き刺さってきた。しかし感情の赴くままにその場限りのパフォーマンスで終わらせるのではなく、詩と音楽全体を見据えて最後まで緻密に演奏を構築して行く。例えば「海辺にて」では、女の涙で毒を注がれて体が憔悴していく様子がおぞましい調子で歌われるのだが、そうなることを覚悟していたかのような達観も伝わってきたのは、詩に対する冷静で深い読みがあってこそのことだろう。

言葉はいつでも隅々まで細やかな神経が行き渡って発音される。「鳩の使い」で発せられた「あこがれ(Sehnsucht)」という言葉が、かけがえのない価値を持って心に響いてきたのはその一例で、言葉に魂が宿っているよう。これらも決して芝居がかることなく自然に発せられるのだ。

そうした歌の自然な表現を引き立てたのが前田さんのピアノ。淡々とした歩みのなかに確かな息遣いが感じられ、歌に影のように寄り添い、時に道しるべになってさりげなく音楽の進む方向を示しているようだった。「流れの上で」で出演したもう一人の共演者、ホルンの今井さんも、柔らかく美しい演奏で歌に彩りを添える役割のほかに、言葉に敏感に呼応した自然なアクセントなどが、詩を生き生きと浮きあがらせていた。

石崎さんを中心に出演者の皆が言葉を大切にして、丁寧に、アクティブにシューベルトの世界を作り上げ、シューベルトの音楽の奥深さに改めて触れることができたリサイタルだった。

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