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ペーター・レーゼル ベートーヴェン ピアノソナタ全曲演奏会

2010年10月14日 | pocknのコンサート感想録2010
10月14日(木)ペーター・レーゼル ベートーヴェンの真影 
~ベートーヴェン ピアノ・ソナタ全曲演奏会第3期第6回~
紀尾井ホール
【曲目】
1.ピアノ・ソナタ第8番 ハ短調Op.13「悲愴」
2.ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調Op.31-3
3.ピアノ・ソナタ第27番 ホ短調Op.90
4.ピアノ・ソナタ第28番 イ長調Op.101
【アンコール】
1.7つのバガテル~バガテルOp.33-4
2.6つのバガテル~バガテルOp.126-5

ペーター・レーゼルというピアニストが紀尾井ホールでベートーヴェンのソナタの連続演奏会をやっている、ということはチラシで何となく知っていた。いつかFMでその演奏会が放送されるのをたまたま聴き、鮮烈な印象を受け、生で聴いてみたいという気持ちになった。実際の演奏を聴いて、FMから受けた印象が、ライブの臨場感も加わり、鮮やかに迫ってきた。

「悲愴」冒頭のハ短調のコードの一撃ひとつだけで、その凝縮された真っ直ぐなエネルギーが、聴衆の耳と心を釘付けにした。レーゼルの弾くベートーヴェンは、明快で鮮烈で真っ直ぐに聴く者の心に迫ってくる。そこにはごまかしや、安っぽいセンチメンタリズムは一切ない。だから「悲愴」の第2楽章や、ホ短調ソナタの第2楽章や、ましてや一見ロマンチックにも見える28番の第1楽章なんかで、ロマンチックな気分にどっぷり浸かろうとしたってそれは無理。

レーゼルの演奏するベートーヴェンには、どんなに夢見る場面であっても、常にどこかは覚醒し、冷静沈着に全体を見据える「眼」が存在する。この「眼」は、どの曲のどの楽章の、どんなフレーズでも、そして休符に至るまで、その奥底にあるものを見つめ全曲を見事に統率する。そこから発せられる音は、硬質で毅然としていながら「硬さ」はなく、重量感があるのに「重さ」を感じず、颯爽としている。それは演奏に命がみなぎっている証しだろう。

熱っぽく信念を貫く逞しさと、夢を追う若々しさに溢れた「悲愴」、陽気で機転が利き、自由に跳び回る第18番、後期ソナタ群の高みへ向かう強い意思と、そこでの解放が聞こえた第27番、そして28番では、27番の「強い意思」と「解放」が両方向に更に幅を広げ、パワーを増し、深化した姿を聴かせてくれた。

ブレないアプローチを貫きつつ、それぞれの作品の個性を引き出すレーゼルの「匠」の技を聴けば、最終シリーズとなる来年の2回のリサイタルでやる最後のソナタをはじめとした曲も聴いてみたくなる。随分遅れをとったが、こんなすごい「ベートーヴェン弾き」の存在を知ったのは、大きな収穫。65歳のレーゼルが、更なる高みへと向かうシーンは聴き逃せない。

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