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2016年9月B定期(パーヴォ・ヤルヴィ指揮)

2016年09月17日 | N響公演の感想(~2016)
9月15日(木)パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK交響楽団
《2016年9月Bプロ》 サントリーホール


【曲目】
1. ムソルグスキー/交響詩「はげ山の一夜」(原典版「聖ヨハネ祭のはげ山の一夜」)
2.武満 徹/ア・ウェイ・ア・ローンII(1981)
3.武満 徹/ハウ・スロー・ザ・ウィンド(1991)
4.ムソルグスキー/リムスキー・コルサコフ編/歌劇「ホヴァンシチナ」─ 第4幕 第2場への間奏曲「ゴリツィン公の流刑」
5.ムソルグスキー/ラヴェル編/組曲「展覧会の絵」

N響定期の新シリーズ幕開けの9月は、プロムシュテットが指揮台に上がるのが常だったが、創立90周年を迎えるシーズンのオープニング公演は、首席指揮者のパーヴォ・ヤルヴィが務めた。Bプロはムソルグスキーと武満。またCDのリリースが予定されているのだろうか。ステージにはたくさんのマイクが。

最初の「禿山の一夜」は、聴き慣れたR.コルサコフのアレンジではなく、ムソルグスキーのオリジナル版。土と草のニオイが沸き上がってくるような野性味溢れるオーケストレーションだ。パーヴォ/N響は、イメージしていた切れ味鋭い鮮烈な演奏とは違う、重心の低い、粘り気があって熱気ムンムンの演奏で、妖気漂う妖怪達のお祭りの様子をリアルに表現した。オリジナル版はオーケストレーションだけでなく、音楽自体もかなり異なっていて、高いテンションが続き、響きの変化が少ないという難しさはありそうだが、野趣溢れる感触がよく伝わってきた。

次の武満作品はガラリと空気が入れ替わるが、「ア・ウェイ・ア・ローン」を聴いて、さっきの「禿山の一夜」にも通じる生き物の体温を感じた。温かで滑らかな響きが静かに立ち上る。その響きの美しさ!ハーモニクスだけで作られる和音の美しさなどは、この世のものとは思えないほど。そして音楽全体が悠久の時を超えて生き続ける大きな生命体のように、ゆったりと呼吸しているのが感じられ、それに抱かれている感覚。

管も加わった次の「ハウ・スロー・ザ・ウィンド」は、もしかして初めて聴く曲かも知れない。武満晩年の調性感を漂わせた美しい作品で、これもパーヴォ/N響の演奏が光った。これ以上薄くできないほどの薄く、精巧なガラス細工が思い浮かんだ。そこに光が当たって淡く七色に輝き、風に吹かれて世にも美しい音を奏でる。こんな光景を見て、音を聴く極上の愉悦!

今年は武満徹の没後20年ということで、武満の音楽に触れる機会が多いのは嬉しいが、なかなか感動には出会えない。それでつくづく感じたのは、「武満作品は演奏を選ぶ」ということ。一分の隙もない精巧なアンサンブル、濁りのないピュアな響き、自然で滑らかな音の運び… そうしたテクニック面での完璧さに加え、魂が吹き込まれることも必須で、すべての条件が満たされて初めて感動へと導かれる。「多少の傷はあったけれどハートが感じられて良かった!」ということが当てはまらないことが多い難しさがあるなかで、今夜は真に理想の演奏に出会うことが出来た。パーヴォとN響による武満は、もしかしてまた新たな武満ワールドの素晴らしさを世界へ発信するのではないだろうか。

後半は、ムソルグスキーのオペラ「歌劇「ホヴァンシチナ」から短い間奏曲のあと、ラヴェル版の「展覧会の絵」が演奏された。これも、僕のイメージにあるパーヴォの演奏とは異なり、粘り気があり、濃厚で民族的な匂いを漂わせ、ムソルグスキーの個性が尊重された演奏だった。

彫りが深く、主旋律の陰で普段気付いていなかった音の動きを浮かび上がらせたりして、血を騒がせる効果をもたらした。野性味溢れるリアルな演奏と言えるが、加えて冒頭のプロムナードに代表される、鮮やかで崇高ささえ感じるN響サウンドの輝きも見事で、演奏全体を艶やかに仕上げた。極めつけは終曲「キエフの大門」の最終盤で鳴らされるベルが、チューブラーベルではなく、本物(っぽく見えた)の鐘が使われ、これがとてつもなく高らかに鳴り響いて場を盛り上げたこと。オケ全体が巨大な鐘を打ち鳴らしているように聴こえ、感動映画のラストシーンの中に入り込んだような昂揚感を味わった。
CDリリースのお知らせ
さびしいみすゞ、かなしいみすゞ ~金子みすゞの詩による歌曲集~

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