アイドルについて、である。幼いころからアイドルになりたいと願った少女が、実際にアイドルになり、芸能活動をする。6人組のユニットのメンバーになり、まだ今はブレイクしていないけど、夢にむかって前進していく姿を描く。と、こう書くと、それって、何? と言われそうだが、純文学の世界から、こういう出来事を描く視点が興味深い。
朝井リョウは、単なる興味本位ではなく、実にリアルに彼女たちの抱える問題にメスを入れる。今という時代がどういう方向に向かい、その波に翻弄される子供たち、マスコミ、大衆の姿を冷静に捉えていく。ただのアイドルが武道館を目指して頑張る青春小説ではない。誰でも簡単にアイドルになれる。だが、使い棄てでしかない。いろんなものが簡単に消費される。賞味期限は短い。そんな時代の中で本当の自分って何なのか。
今からほんの少し前のアイドル、という実に微妙な立ち位置が際どい。時代はどんどん進化していき、今日新しいと思ったことが、明日には古くなる。アイドルだけでなく、すべてのものの賞味期限が短いのだ。しかし、「もの」のレベルが落ちているわけではない。もしそんな安易なものを提示したなら、すぐに見向きもされなくなる。「本物」をちゃんと差し出す必要がある。あらゆる「もの」に対して言えることだ。ネットで流れる圧倒的な情報量。その一つ一つに反応していたなら、持たない。個人情報の保護なんて言いながら、その実そんなものない。そんな時代の中で、何を信じていいのか、わからない。大人も子供も同じように翻弄される。
10代の少女はそんな時代の矢面に曝される。大好きな幼なじみの男の子への素直な想いと、アイドルとしての仕事は両立しないのなら、自分は何を選択するか。恋愛と仕事。そんな簡単なお話ではない。もっと本源的な問題だ。今、ここで生きている。かけがえのない時間の中にいる。誰かのためではなく。大切なファンを裏切れない。だが、それが裏切りなのか。
だから、彼女は自分の人生を選ぶ。目に見えない人に翻弄され、自分を失うわけにはいかない。しかし、そのせいで大切なものを失うことになるかもしれない。だから、これは重大な選択となるのだ。武道館という目標は実現したか?
大きな目標に向かって努力する。そのことはきっと尊い。だが、それがどれほど純粋なものであろうとも、周囲の思惑に曝された時、本来の輝きを失う。だから、何が大切なのかをしっかりと見極める必要がある。「17歳」と「武道館」は両立しない。そこに象徴されるものをこの作品は追い求める。