寺田夢酔7年ぶりの新作。満を持しての新作のはずなのだが、そこには気負いはない。それどころかとても軽やかなタッチでこのミステリーに挑んでいる。前作『オー・マイ・リョーマ』も前回の再演(何度となく再演を繰り返している)より軽めの作品に仕上げていたけど、今回の新作はそれ以上にフットワークは軽い。主人公は寺田自らが演じる柳田国男なのだが、竜馬の時と同じように、演出を兼ねる彼は舞台にはほとんど登場しない。要するに「安楽椅子探偵」なのだ。実際の行動は彼の弟子である折口信夫と金田一京介に委ねる。そんな彼らが2つの怪事件(女学校の七不思議、国立劇場の妖怪騒ぎ)に挑む。やがてふたつは一つの重なっていく、という鉄板の展開だ、ドラマの王道を行く。
民俗学者である柳田と折口を妖怪ハンターにして彼らに事件を解決させるという、これはエンタメ芝居なのだが、よろすやらしく落ち着いたタッチで、奇抜なお話の面白さよりも、そこに展開する人間模様のほうを大事にする。ストーリーよりもキャラクターの生き生きした姿を描くことのほうを旨とするのである。その結果芝居は、気持ちのいい群像劇となる。そこもリョーマと似ている。寺田さんの姿勢が作品には貫かれている。描きたいのはお話だけではなく、それ以上に魅力的な人たちの姿なのだ。だからミステリーとしては少し弱い。兄を思う妹の想いが暴走するという核心部分に説得力がないのが残念だ。だけど、個性的な人たちが生き生きと舞台上を闊歩して、楽しいから気にしない。