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映画・演劇のレビュー

『ボクたちの交換日記』

2013-03-12 21:30:12 | 映画
 主人公の2人組「房総スイマーズ」は、「ウッチャンナンチャン」の2人を想起させる。もちろんわざとそういうキャスティングをしたのだ。もちろんそういう演出をしたのは内村光良監督自身だ。そう考えると、これはちょっと自虐的とも言えるお話だ。だが、これはありえたかもしれない自画像であり、お笑いを目指すたくさんの人たちの姿だ。

 主人公が、自分にはお笑いをやる才能がないことを認めるまでのお話だ。努力だけでは乗り越えられないものがそこにはある。映画はそんな痛みを、斜に構えることなく、ちゃんと真正面から描く。だから、好感が持てる。もちろん小出恵介はカッコ良さすぎる。しかも、彼が破滅していく過程を描くのは、なんだか自分に酔っている感じもしないではない。だが、映画は自惚れ鏡だ。これはこれで悪くない。

 伊藤淳史はなんとなく雰囲気が南原清隆してる。とても真面目で一途だ。軽い男で、調子にいい男の小出とは対照的だ。両者のそういう雰囲気の問題だけではない。似ているのはそこではなく、このお話の展開がそうなのだ。実際のウッチャンナンチャンはコンビとしてもあれだけの大活躍をして、それぞれが単独でも有名になってしまったが、もしかしたら、この映画の彼らのようになったかもしれない。ありえない、とは言い切れないものがここにはある。才能があっても上手く時代に乗り切れなければ埋もれていく。やがて消えていく。そんな芸人は山盛りあるだろう。

 この主人公たちは、12年もコンビを組んで漫才をしているけど、なかなか上手く浮上できない。もうこれ以上続けることは出来ない、という崖っぷちにまで追い込まれる。状況は悲惨で、今のままでは、やめざる得ない。そんな話なのに、映画は暗くならない。どこまでもポジティブな男として主人公は描かれる。

 現状打破の一発大逆転を目指して、小出恵介は交換日記を相方に申し出る。そこから映画は始まる。漫才の相方と交換日記をする、というどうでもいいような話なのだが、これがタイトルでもあるし、本編のお話の骨子を為す。そして、この地味な話が、なかなか面白いのだ。2人のキャラクターはある種のパターンなのだが、その普遍性は心地よい。どこにでもあるような話として、安心して見ていられる。そして、予定調和でありきたりな結末だが、そんなことすら心地よい。この映画の感動はその平凡さにある。

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