習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

エレベーター企画『後瀬の花 安穏河原』

2008-02-06 22:28:18 | 演劇
 久しぶりに舞台で大野美伸さんを見ることが出来たのが嬉しい。外輪さんの、というよりもエレベーター企画のミューズである彼女が、エレベーター企画の舞台から離れて久しい。ずっと彼女が帰ってくるのを待っていたから今回何より先にそのことから書くのは当然だろう。彼女のいないエレベーター企画なんて本当のエレベーター企画ではない。

 ようやく彼女が戻ってきて、08年エレベーター企画が活動を再開した。今回はなんと時代劇である。しかもこんなにも単純な人情劇とでも言うしかない世界を提示する。(どうなったんだ、外輪さん!)もちろん芝居自体はいつものように大胆でモダンなスタイリッシュ外輪ワールドではある。だが、なんだか彼らしくない作品に仕上がった。

 この単純で美しい世界をきちんと見せ切ったところはとても彼らしい。ストーリーには何の仕掛けもない。あまりに1本調子すぎて大丈夫なのか、と思うくらいだ。もちろん大丈夫である。この話をきちんと筋を通して見せてくれるのも彼らしい。しかし、それが1本の作品としての落とし前をつけたかと言うと、いささか心許ない。

 この単純な話にある美しさが、その先にある崇高なものに届かなくては意味がない。見終えて「あぁ、いい話だった」と思うだけでは駄目なのだ。外輪さんの見せたかったほんとうの風景はこんな程度のものではないはずだ。それが見えてこないのがもどかしい。

 『後瀬の花』のふたりが死んでしまった後に見た風景。『安穏河原』の幼い日に父と見た光景。核となるこれらの風景がドラマを越えて迫ってこなくてはこの芝居は成立しない。その圧倒的な風景画この単純な話を遥かに突き抜けて僕たちの胸に迫ってきたなら、凄い芝居になったはずだ。

 プラネット・ステーションの空間を最大限に使った舞台美術は素晴らしい。天上まで続く、斜めになった巨大な格子。単純なのに(いや、単純だから)美しいのだ。その格子越しの明かりが様々な表情を見せる。計算された美しさだ。この空間さえあれば遥かの彼方の魂の平安を見せることが出来たはずだ。あと少しが届かない。残念だ。

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 『ウォーターホース』 | トップ | KUNIO 03『椅子』 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。