習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『おかあさんの木』

2015-07-04 06:48:37 | 映画

今、こういう映画にはお客さんが入らない。わかっていたことだ。でも、もしかしたら、とも思った。とても丁寧に作られたいい作品なのだ。

なのに、見事に興業は不発だ。しかも、若い人たちは見ない。作り手は、彼らにこそ見てもらいたかったはずだ。なんだか、悔しいけど。そういう意味では惨敗だ。同日に見た『イニシェーション・ラブ』に完全に負けている。わざわざ映画館に足を運ばせるだけのインパクトはなかったのか。もちろん宣伝も難しかったはずだ。若い層にアピールするわけもない。だが、それにしても、ここまでの不入りは残念、というよりも、あんまりだ、と思う。劇場は少ない客もお年寄りばかり。せめて、子供たちに見せたいのだが。

磯村一路監督の誠実な仕事に心打たれる。7人の子供たちを生み、彼らを戦争で死なせた母親の苦難の歴史を愚鈍につづる。単調で、退屈と受け止めた人がいるかもしれない。だが、このあまりの単純さは衝撃的だ。

子供を育て、戦地に送り、(もちろん、望んで、ではない、不本意だ。だが、そうは言えない。)バンザイと嘘の見送り。送り出す。郵便屋は、そんな彼女に悲しい知らせを何通も届ける。

戦後70年の区切りの年に、これを作る。これは戦争がどれだけ人を苦しめたかを描く映画だ。たったひとりのおかあさん(鈴木京香)と、彼女の大切な子供たち。彼らが家を出た時に、代わりにと桐の苗木を植える。それがやがて7本並ぶ。片道切符になる。彼らは帰ってこない。

最後に、たったひとり、帰ってきた息子を、そこで(7本の桐の木の下で)死んだ母親が迎える結末は無残だ。この単純すぎるお話が、単純だからこそ、こんなにも胸に沁みる。こういう映画を今の時代に作ろうとした心意気に感動する。あの木を伐ってはならない、という単純なメッセージでいい。とことん単純な映画をそれだけで見せていく。幼い子供たちにぜひ見せたい。


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