中村航『年下のセンセイ』

この恋愛小説はとてもいい。８歳年下の男の子を好きになってしまった女性の戸惑いと諦め。彼女の純粋な気持ちを、きちんと追いかけていき、そこに未来を提示する。



最初から諦めてしまうのではなく、きちんと向き合い答えを出していこうとすることで見えてくる未来がある、ということ。大切なものは、自分がどれだけ真剣で、将来のこととか、ではなく、今をどれだけ大切にしているかということなのだ、と教えてくれる。今、この一瞬生きていて、明日になればどうなるか、なんか考えないわけではない。明日は誰にもわからないのだ。それは刹那的に生きろ、ということとは違う。逃げるのではなく、ちゃんと向き合うのだ。傷つくことを怖れて、大人のフリをするのは無意味。でも、自分をおざなりにして快楽に耽るのはナンセンス。そうじゃなく、ひとつひとつを丁寧に積み重ねていった先には必ず未来がある、ということなのである。



２０歳のお花のセンセイと、２８歳の予備校で事務をしている派遣社員。もうあきらめていた。同僚だった彼と別れて３年間、恋はしていない。静かに息をひそめて生きてきた。センセイを意識して、速攻ムリと思い込んでいた。この年の差の先には未来はない。



しかし、そうじゃないと、知る。どこにだって可能性はある。そんなことをこの小説は教えてくれる。とても読みやすいけど、甘いだけの恋愛小説じゃない。