ネットの解説には「湊伊寿実と藤田サティが“底”をテーマに書き下ろす2023-2024 二部作公演『底 -The Underground-』の第1弾公演で、湊が作・演出を手がける」とある。テキストにしたのはなんとゴーリキーの『どん底』だ。重くて暗い世界が展開しそうで、いろんな意味でなんだかとても興味深い。今時ロシア文学を下敷きにした物語を展開するなんて大胆だし。
開演前、舞台上にひとりずつ、浮浪者がやって来て、寝転がる。薄暗い闇の奥。ひとり、ふたりと増えていき、やがて6人に。芝居が始まる。
彼らはここで暮らしているようだ。ここは公園の下に広がる地下水道。ここからは見えない子どもたちが遊ぶ明るい公園はすぐそこにある。だがここは真っ暗な地下。ここを舞台にして、そこに集まったさまざまな人々の姿が描かれる群像劇。
ある日、ここにひとりのOLが迷い込んでくる。彼女がここに辿り着いたのは、たまたまだが熱を出したのでしばらく休ませることにする。だが、やがて彼女はそのままここで暮らし始めることになる。さらには旅する老人、若い男の子もやってくる。眠れない子どもまで。
地下生活をする6人の浮浪者とそこにやってくる4人の訪問者。ストレンジャーにはここは楽園に見える。だがそんなわけはない。
下水道で暮らす彼らの日々をさらりと描き、そのスケッチが心地よい。ここには明確なストーリーはない。だから、少し単調で退屈。だが、それも悪くはない。これはあくまでもストーリー本位の芝居ではなく、点描に終始する。
ただ、地上との対比や、このコミュニティの意義、迷い込んできた人たちとの関係性とか、もう少し背景の書き込みが欲しいかも。作品に奥行きがないのは惜しい。寓話にはしないで、あくまでもリアルを目指したのも頼もしい。(ただし、説得力はないけど)
世界観の構築は見事なのだが、それを動かしていくドラマが欲しい。