不思議な映画だ。何をしたいのがまるで伝わってこないから、見ていて困惑する。よくある少年の成長物語とはいささか違う趣きがある。これはジェームズ・グレイ監督の自伝的作品らしい。幼い頃の彼が見たこと、感じたことが描かれているのだろう。理不尽なことばかりの少年時代、誰よりも理不尽な自分自身のこと。それが描かれる。だが、その着地点が見えない。
1980年。12歳だった少年の日々。何不自由なく暮らしていた。それなりに豊かな家庭だけど、家族との諍いは絶えない。まだ幼い彼には自分が何をしたいのか、わからないからいつもイライラしている。優しい母に反抗する。絵を描くのが好きで画家を目指しているけど、まだ子どもだから、それもどこまでが本気なのか自分でもわからない。
新しいクラスで友人ができる。彼は貧しい黒人でおばあちゃんとふたり暮らし。6年生になっての新学期。学校で彼とふたりいたずらをして、担任から叱られる。反抗するけど、彼らは決して不良というわけではない。
父は怖い。普段は子供に無関心だが、何があれば暴力的、まだ彼は歯向かえない。中流家庭だけど、父はふたりの子供たちの教育に熱心だ。自分が豊かな教育を受けられなかったから子供には苦労させたくない。彼は有名な私学に通う兄とは違い公立の小学校に行く。それは自分が望んだ。だけどそこでドロップアウトしてしまう。
大好きな祖父(アンソニー・ホプキンス!)の勧めを受け兄の通う学校に入る。新しい学校はエリート意識が強く、差別的。黒人は賎民で自分たちとは違う人種だと見下している。もうこんなところにはいたくないと思う。そして前の小学校の親友だった黒人少年とふたりで家出を計画するのだが失敗。さらには大人に言いくるめられて友人を裏切る。
黒人であるだけで犯罪者扱いされる友を守れないだけでなく、自分を守るために裏切った。あのラストに秘められた悔恨がきっとこの映画のすべてなのだろう。傷ましい映画である。彼にとってそれはアルマゲドンに匹敵することだったのだろう。
ユダヤ人への差別や黒人への差別、好戦的なレーガン政権。さらにはトランプの父親までが登場する。少年の背景に描かれる問題は過去の話ではなく確かに僕たちが生きる「今」に続く。30年経っても世の中は変わらない。あの頃の不安や怒りがなんだったのか。あの挫折が今にどうつながるのか。ジェームズ・グレイ監督は静かに今の時代に警笛を鳴らす。