ムリョーカ小説集

Мориока моя любовь.
盛冈我的爱。
初めは短編小説にするつもりでしたが、長編になるかも知れません。

愛国の空

2023-06-14 05:16:00 | 序盤

陸上自衛隊岩手山駐屯地の演習林は朝霧に濡れ、私は近くの側道を一人歩いていた。

どんよりした梅雨空を見上げると、湿って澱んだ大気の中を何かが降りてきた。それは始めは雪のようだったが、鳥のようにも見え、掴んだときにはひとひらの便箋だとわかった。


星条旗とダビデの星が透かしに入ったその便箋には


ああ醜悪な詐欺師の支配よ

右に愛国詐欺

左に啓蒙詐欺


そう書いてあった。


愛国者は軍事力で国を守るといい、戦争準備に加担する。

インテリは他の国を非民主的やら独裁やらと非難して戦争の火種を作り続ける。


左右どちらも醜悪な支配者の傀儡なのだという事だろう。

星条旗の星、ダビデの星。

それらは太陽を僭称する嘘つきルキフェルの黒き星のようだ。


ドーン


大砲の音が大気も地面も震わせ、私は驚いて小糠雨の中を駆け出した。


冷気

2023-06-13 06:09:00 | 序盤
明らかに肥料のやり過ぎだった。
500本のピーマンが全てチリチリに縮れてしまった。
生育が遅れるのは必至だが、下手をすると枯れてしまうかも知れない。
植え付け前に義父に注意されたのだが、自分の記憶が正しいとなんとなく思い込んで施肥量を間違えたのだ。
これは自我への試練だ。
自惚れと傲慢と意固地、ズボラ、怠慢。反省点が次々と浮かんでくる。
早朝の肌寒い空気が僕の中で一つ一つの後悔に変わる。
岩手山から降りる冷気が、僕の肺胞から血液に。
そして思考に変わる。
神に感謝を。