タミアのおもしろ日記

食文化・食育のお役立ちの話題、トンデモ食育、都市伝説、フードファディズムなどを分析して解説します!(^.^)

乳酸菌豆知識1:「乳酸菌」という名前の菌は居ない!

2016年07月17日 | Weblog
のっけから驚くタイトルで済みませんが、乳酸菌の専門家に伺った話ですので間違い有りません。「乳酸菌」という名前の菌はこの世に存在しないのです。「乳酸菌」という言葉は糖を乳酸発酵する菌(注)の「総称」なので、「乳酸菌」という呼び名の中には種の異なる様々な生物が含まれているのです。

例えばLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusStreptococcus thermophilus がヨーグルトの乳酸菌です。Tetragenococcus halophilus (旧学名Pediococcus halophilus)が味噌や醤油の乳酸菌です。Pediococcus pentosaceus はスンキやキムチなどの乳酸菌です。繰り返しますが、これらは全て、全然違う生物です。つまり「乳酸菌」という言葉は、「穀物」とか「深海生物」という言葉と同様、種の異なる生物を人間が大まかにグルーピングした表現なのです。

「乳酸菌」という名前の菌が居ないということは、いわば、「穀物という名前の植物はない。あるのはイネやコムギやトウモロコシやヒエやキビなどだ。」という話と同じことです。しかも同じ種の乳酸菌でも「株」ごとに性質が異なります。たとえ話をするなら、同じ「イネ」という種でもコシヒカリと日本晴(かつての主力品種。)とハクチョウモチ(もち米の代表品種。)と山田錦(酒米)で全然用途が違う、という話とよく似ています。

さて、ここからが重要な話です。最近いろいろな企業や大学などが、特定の乳酸菌が健康に役立つとの研究成果が出た、と発表しています。例えば、
A社のA乳酸菌a株はアレルギー体質の改善に効果がありそうだと言っています。
B社のB乳酸菌b株は風邪予防に効果がありそうだと言っています。
C社のC乳酸菌c株はお肌に良さそうだと言っています。
D社のD乳酸菌d株はお通じを改善すると主張しています。

ここで、これらの主張の全てが医学的に正しく、有意に健康面の効果があると仮定します。仮にこれらが事実だとしても、アレルギー改善はあくまでもA乳酸菌a株に期待される話ですし、お通じ改善はD乳酸菌d株についての話なのです。それなのに、最近、雑誌等の健康記事ではあたかも、乳酸菌でさえあればどの乳酸菌であっても、様々な効能を持つかのような「お話」があふれかえっています。特に最近目立つのは、「ヨーグルトの乳酸菌で〇〇〇の効果が実証されたから、かわりに漬け物を食べれば良い。」というような話です。このような論旨展開は、先述の穀物の例に当てはめて言えば「コシヒカリが美味しいから、ヒエやキビも同じ味がする。」という主張と全く同じなのです。この主張が間違っていることはすぐに分かりますよね。

「発酵食品、特に乳酸発酵食品は身体に良いのだ」というイメージが世間に流布していますが、実は、それぞれの商品に含まれる乳酸菌の株までチェックしないと、はっきりしたことは言えないのです。乳酸菌はそれぞれ違う種であり、しかも株によって性質も異なる、という事実に基づいて、乳酸菌の効果を説明している健康雑誌はめったに見受けられません。今後を期待したいと思います。

(注)より詳しく言うと、乳酸菌とは「糖を乳酸発酵する菌のうち、グラム陽性の通性嫌気性菌で、しかも対糖収率50%以上の乳酸を生成し、運動性がなく、Sporolactobacillus属以外は胞子を形成せず、カタラーゼ活性を持たない菌群。」と定義されています。

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