「あんたに通帳やハンコがどこにあるか言っとくわ。
私が死んだら札所巡りの経帷子を着せてね」
先々月だったか、何かの拍子に母がそんなことを言いだした。
そういう話は私ひとりで聞かずに弟も一緒に聞くほうがいいだろうと思い、
先日、母宅に二人して馳せ参じた。
母には、せっかく三人揃うのだから大事なものの置き場所だけでなく、
相続のこと、家のこと、病気になったら、要介護になったら・・・などなど、
自分の希望を考えといてね、と言っておいた。
私はノートを1冊、用意していった。
母は通帳やら書類の束やらいっぱい出してきて待っていた。
銀行ごとに用途、口座番号、カードの暗証番号、
普通預金、定期預金、金額と満期日etc.
私がノートに書きこんでいく。
保険、互助会、お墓、エトセトラ・・・
古い使用済みの通帳や印鑑がいっぱいあった。父名義のものまで。
処分に困ってそのまま置いていたようだ。
それらは私が持ち帰って処分することにした。
書類の束はほとんどが不要の物だった。
通帳はここ、印鑑はここ、カードはここ・・・母は置き場所を分けていた。
年金証書、保険関係、互助会の書類はここ、
登記簿やマンション関連はここ・・・
分ける必要ある?と思いつつ、混乱するからとりあえず母のやりたいように。
母の後についていって、ひとつひとつ置き場所を見せてもらう。
笑っちゃうようなところに置いてある。というか隠してある。
そんなに分散してよく忘れないわね(驚)
隠し場所もしっかりノートに書きこんでおく。
いつボケて忘れてもいいように。
さて、ここからが大事なところ。
マンションは? 売る? 誰かに住んでほしい?
「さぁ。あんたらで好きなように」
私はここに住むつもりはないと明言、弟は「わからん」
病気になったら?
「イヤやなぁ。どれだけお金かかるんやろ。まだ死にたないわ」
いろいろ免除制度があるから、お金は心配しないでいいと言う。
「ポックリ逝く。延命はしなくていい」
介護が必要になったら? 家にいたい? それとも施設に入る?
「さぁ~、せやな~、家にいたいな~」
旅先はもちろん、弟のところでも寝られない人だから、
そりゃ家にいたいだろうな。
家にいるとして、介護は家族? ヘルパーさん?
「さぁ~。う~ん」
人が家に入るのを嫌がる性格からして、ヘルパーさんが来るのは嫌だろうな。
「XXのお母さん(弟の妻の母親。母と同じく90歳で一人暮らし)は
要介護になったら家を売って、そのお金で施設に入ると決めてるよ」と弟。
それを聞いた母、しばし迷うが、、、
「ポックリ逝きたいわ」
ポックリ逝けると決まっているなら誰も苦労はしないんだけどね。
「死んだら経帷子を着せて。仏壇の下の引き出しに入ってるから。
納骨の時に3人のホネ(電話台にあった例のホネ)も一緒に入れて。
高野山への分骨はしなくていい。
家族葬で、祭壇は一番安いのでいいわ」
死ぬときのことはずいぶん具体的にイメージしている。
かたや、要介護になった自分はイメージ出来ていないようだ。
ポックリ逝くと決めているから当然か。
まぁね~、下の世話されてる自分とか、食事介助されてる自分とか、
考えたくもないか。
でもそう遠くない未来に起こり得ることなんだけどね。
「このノートにいつでも思いついたこと書いといて。
それから住所録代わりに住所と電話番号も。
通ってる医者とかタクシー会社とかも」
母の資産状況やその他いろいろの情報共有が出来て
それなりに有意義ではあったが・・・
肝心の母の意思はイマイチはっきりしない。
そして、、、今回も出た!
「リビングの電気、真ん中のがつかへんねん」
またか~い (爆)(爆)(爆)
なんのことはない、豆球になっていただけ。
スイッチ2回押して速攻で解決したが、
「いいねん、あっちのが点くから困ってない」と相も変わらず強がる。
弟が帰り道、
「なんで生活のクオリティ下げてまで我慢するのか、ようわからんわ~。
あの調子やったら、コケて足の骨折れても誰か来てくれるまでガマンするで」
あり得る。よっぽどのことでもない限り。
「あんまり元気や元気やとほめそやすのも考えもんやな。
具合悪いのに言い出せなくなる」
もっと再々、様子見に来たほうがいいかな。何か口実作って。
「そうやな~。自分から頼ってくる人やないから」
すべて他人任せで生きてきた人が独りになって、当初は随分心配したけれど、
かえってしゃっきりして、今は独りの自由を楽しんでいるかのよう。
それはありがたいことで、できればずっと続いてほしいが、
どこまでひとり暮らしが続けられるか。
こうしょっちゅう、あれがつかないこれもつかないとなると・・・^^;
友だちのお母さんは、トイレで座り損ねて壁と便器の間に尻餅をつき、
しばらく立ち上がれなかったことで、
独り暮らしに見切りをつけて施設に入ったそうな。
何かそういうことでもあれば自分で決断できるけど、
こちらが意見しても、素直に聞くとは思えない。
というか、
私も弟も、母が頼ってこないのをいいことに
「これからのこと」はまだ真剣に考えていない。
母の「ポックリ」を信じているわけじゃないが、
なんとなくそうなりそうな気もする。
「しかしポックリポックリて、ノーテンキやなぁ」
死の恐怖で鬱々されるよりはマシだけどね。
私らも負けず劣らずノーテンキだわ^^;