一気に読み終えてしまった二冊。
米澤穂信さんの「さよなら妖精」と「王とサーカス」です。
「さよなら妖精」は、10年前の作品で、もともとは「古典部」シリーズの第三作として書かれたものですが、内容的に想定の読者層からはずれるということで、書き直されて別の出版社から出されたもの。
ユーゴスラビアからやってきたマーヤという少女が、異邦人の目でみた日本の不思議を発見し、探偵役の少年がその謎を説いていく部分は、日本文化再発見ミステリーといった趣。
ただし、時代設定は1991年。
つまり、ユーゴスラビア紛争が勃発する直前。
マーヤは、ユーゴスラビアという作られたモザイク国家に、「ユーゴスラビア人」として「ユーゴスラビアの文化」を作る政治家になる夢を抱いている少女。
そのために、長い歴史の中で培われた日本の文化を知りたいと思っているのです。
彼女の好奇心によって開かれる日常の謎。
このあたりは、とても楽しく読めます。
けれども、この牧歌的な雰囲気の中で、さり気なくユーゴスラビアについても語られています。
その後のユーゴスラビアを知るものとしては、チクチク痛む伏線です。
登場人物たち同様、その当時の日本人にとって、ユーゴスラビアという国は地理的にも心理的にも遠い国でした。
私自身、チトー大統領の名前くらいは知っていましたが、どんな国だったかなんて、紛争後の報道でなんとなく知ったような気になっていたくらい。
マーヤは、紛争が始まったユーゴスラビアに帰国してしまい、主人公たちは、マーヤの安否を心配し、マーヤの帰ったふるさとがどの共和国だったのか、彼女の思い出をたどる中で推理していく、というのが、本筋のエピソード。
(日本文化発見は、思い出をたどる中で出てきます)
物語の中で、ユーゴスラビアの内戦が扱われているため、どうしても読後には喪失感と苦いものが残ります。
でも、ボスニア・ヘルツェゴビナやコソボでおきた悲劇は、今もまだ、形を変えながら続いている。
若い人には、ぜひ読んでもらいたいなと思う一冊です。
「王とサーカス」は、「さよらな妖精」の登場人物のひとり、太刀洗万智が主人公。
夏に刊行されたものです。
「さよらな妖精」とのつながりは全くありませんが、大事な友人を亡くした過去、何もできなかった無力感、という形でさらっと語られています。
ネパールを事前取材中に「ナラヤンヒティ王宮事件」に遭遇した主人公が、事件を取材する中で、報道とは何か、知ることは尊いのか、という問題に直面していく物語。
「対岸の火事は、この上もない娯楽だ」という言葉や、「報道によって、本当に状況が改善されるのか」といった問いかけが重く、ただのミステリーではありません。
こちらも、とても面白く読めた一冊。
でも、さすがに疲れたので、次は軽いのにします。
米澤穂信さんの「さよなら妖精」と「王とサーカス」です。
「さよなら妖精」は、10年前の作品で、もともとは「古典部」シリーズの第三作として書かれたものですが、内容的に想定の読者層からはずれるということで、書き直されて別の出版社から出されたもの。
ユーゴスラビアからやってきたマーヤという少女が、異邦人の目でみた日本の不思議を発見し、探偵役の少年がその謎を説いていく部分は、日本文化再発見ミステリーといった趣。
ただし、時代設定は1991年。
つまり、ユーゴスラビア紛争が勃発する直前。
マーヤは、ユーゴスラビアという作られたモザイク国家に、「ユーゴスラビア人」として「ユーゴスラビアの文化」を作る政治家になる夢を抱いている少女。
そのために、長い歴史の中で培われた日本の文化を知りたいと思っているのです。
彼女の好奇心によって開かれる日常の謎。
このあたりは、とても楽しく読めます。
けれども、この牧歌的な雰囲気の中で、さり気なくユーゴスラビアについても語られています。
その後のユーゴスラビアを知るものとしては、チクチク痛む伏線です。
登場人物たち同様、その当時の日本人にとって、ユーゴスラビアという国は地理的にも心理的にも遠い国でした。
私自身、チトー大統領の名前くらいは知っていましたが、どんな国だったかなんて、紛争後の報道でなんとなく知ったような気になっていたくらい。
マーヤは、紛争が始まったユーゴスラビアに帰国してしまい、主人公たちは、マーヤの安否を心配し、マーヤの帰ったふるさとがどの共和国だったのか、彼女の思い出をたどる中で推理していく、というのが、本筋のエピソード。
(日本文化発見は、思い出をたどる中で出てきます)
物語の中で、ユーゴスラビアの内戦が扱われているため、どうしても読後には喪失感と苦いものが残ります。
でも、ボスニア・ヘルツェゴビナやコソボでおきた悲劇は、今もまだ、形を変えながら続いている。
若い人には、ぜひ読んでもらいたいなと思う一冊です。
「王とサーカス」は、「さよらな妖精」の登場人物のひとり、太刀洗万智が主人公。
夏に刊行されたものです。
「さよらな妖精」とのつながりは全くありませんが、大事な友人を亡くした過去、何もできなかった無力感、という形でさらっと語られています。
ネパールを事前取材中に「ナラヤンヒティ王宮事件」に遭遇した主人公が、事件を取材する中で、報道とは何か、知ることは尊いのか、という問題に直面していく物語。
「対岸の火事は、この上もない娯楽だ」という言葉や、「報道によって、本当に状況が改善されるのか」といった問いかけが重く、ただのミステリーではありません。
こちらも、とても面白く読めた一冊。
でも、さすがに疲れたので、次は軽いのにします。